COP15に失望するのは(まだ)早い

昨日ついに叩き出された気候変動に関する条約は多くにとって残念なものだった。しかし世界がコペンハーゲンでの失敗を認め、学ぶことさえできればまだ大惨事を避けられるかもしれない。

南極半島は南洋に突き出ている広大な土地だ。ここは想像を絶する氷と吹雪の荒涼な地だ。しかし今半島は桁外れの変化を強いられている。なんとここ60年間で気温が驚くことに5℃も跳ね上がっている。氷床が割れて溶けていくなか、半島に生息するアデレーペンギンは激減している。

さて地球の反対はどうだろう。現在、北極海の海氷面積は観測史上もっとも低い量まで達している。恐らく数十年後には夏季の間は完全に消えてしまうだろうと研究者は言う。白熊など野生生態系への影響は計り知れない。

そして両極に挟まれている大陸たち。今やどの大陸も工場や住居、車が排出する二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスによる気候変動に悩まされている。

ここ10年は過去160年間の観測史上で最も温かいものとなる、と気象予報士は言う。同時に、上昇する海面はバングラデッシュの井戸を汚染し、東アフリカでは干ばつがどんどん長引く上、回数が増加している。そして海がCO2を吸収するにつれ海水の酸性化が進みさんご礁が消えていっている。

無能さは苦薬

地球は変化している。救うためには今すぐ行動が必要だ。そんな中、昨日コペンハーゲンで打ち出された気候変動の条約の無能さは非常に遺憾だ。地球は存続のための設計図が必要だ。しかし実際は具体性にひどく欠けた漠然とした協定になってしまった。大気中の低炭素量を削減するために不可欠である法的拘束力のある各国排出削減目標は定められなかった。またそのような目標を定める期限なども合意は得られなかった。

その代わり、代表者は地球の気温上昇を2℃以内に抑える必要があるとうたうだけだった。これは気候変動による最悪の結果を抑えるための数値だと科学者に言われている。しかし、この大望を実現するための具体策の協議は先送りされてしまった。

当然ながら、コペンハーゲン協定の軟弱さには多くのNGOから批判の声があがった。「中途半端な声明などでは気候変動から地球を守るためには到底足りません。この問題には先進国と開発途上国の間に全く新しい協力方法を作り上げる必要があるのです」 世界自然保護基金(WWF)気候変動プログラムのリーダーのキム・カーステンセン氏 は言う。

地球の友の事務局長、アンディ・アトキンズ氏も同様に激怒していた。「この骨抜きの声明は、気候変動が加速するなか世界の貧困層である何百万もの人たちに飢えや苦しみ、人命の損失を強制することになります。裕福な国が徹底的に姿勢を変えない限り強くて平等な協定は得られないのです」

メッセージは単純だ。リーダーたちは地球を救える貴重なチャンスをしくじってしまった。これが最後のチャンスだったのだろうか?今さらコペンハーゲン協定を救うことはできるだろうか?

救出可能な部分

ゴードン・ブラウン首相やバラック・オバマ大統領など多くのリーダーは可能だと信じている。彼らが指摘するに、排出量の削減目標は設定できなかったものの、協定は開発途上国へ気候変動の影響に対応するための短期支援300億ドルを誓うと同時に2020年までには1000億ドルの長期支援も盛り込まれている。

これらの大幅な約束は多くの科学者や評論家に期待を抱かせた。「少しは楽観的になってもいいように思う。なぜなら地球の温暖化を2℃以内に抑えるという具体的な目標が初めて国際的に掲げられたからです」と生態学と水文学センター(Centre for Ecology and Hydrology)のクリス・ハンティングフォード氏は述べる。「そしていずれ法的拘束力のある合意につながると良いのですが」

グランサム気候変動と環境研究所(Grantham Research Institute on Climate Change and the Environment)のニコラス・スターン議長も同じく確信を持っている。「このサミットは、初めて、世界の2大排出国である中国と米国から排出量削減の誓いを得ることができました。そしてこの2カ国は初めて行動表明を出しました。これらの結果は画期的な進展なのです」

危険はまだ山積み

これらの見解にも一理ありまだ失望するには早いことを示唆している。しかし、まだまだ課題や危険が多くあることは間違いない。地球の気温上昇を2℃以内に抑えることができず、3℃や4℃上昇させてしまうと、生態系や農業地帯、そして気象にも計り知れない被害を与えることになる。

アマゾンの熱帯雨林の大半は焼き尽くされてしまい、南アフリカ、オーストラリやアメリカ西部は砂漠で覆われてしまうかもれない。現在は北極圏の永久凍土に閉じ込められているメタンやCO2が大量に放出されてしまえば温暖化は更に進んでしまう。海面の上昇は今世紀の終わりには5メートルに達する可能性があり、バングラデッシュやオランダ、米フロリダ州のほとんどは水没してしまう。人類や動物に与える影響は恐ろしいものだろう。

しかしコペンハーゲン協定では炭素排出量の削減に関しては曖昧な約束しか含まれていない。ではどのように温暖化を抑えることができるのだろうか。私たちは現在、年間約470億トンもの温室効果ガス(ほとんどがCO2)を大気に排出している。科学者によると、気温上昇を2℃以内に抑えるためには排出量を2020から2030年までに350億トン、2050年までには200億トンにまで削減する必要がある。

しかし行動をしないことにはどんどんこれらの目標の達成は難しくなる。今、炭素を大気に排出すればするほど、更に厳しい削減対策が将来必要になる。私たちは次世代に難題を先送りしているだけなのだ。

得られた教訓は?

コペンハーゲンから得た教訓は極めて重要かつ緊急性を催すものだと公共政策研究所(Institute for Public Policy Research)の主任研究員アンドリュー・ペンドルトン氏は強調する。

「煩わしい仕組みの中で課題が山積みされた状態では最初から失敗に終わることが約束されていたようなものでした」と彼は指摘する。「リーダーたちは歴史を書き変えるためにコペンハーゲンに来たものの、本文に注釈を付け加えるのみに留まってしまった」

来年メキシコで行われる気候協議で正式な協定を締結するには、新たな気候変動政策を採用すべきだ。スターン氏が提案するのは20カ国のグループを今から設立し代表者たちが他国の意見を取りまとめ仮の条約を作っておくことだ。

議題が明確であればリーダーたちも地球温暖化の対応策に合意することができるだろう。同時に、コペンハーゲンの協議の流れを継続するためには各国や欧州連合(EU)などの協力連合もそれぞれCO2削減目標を発表する必要があるのだ。

要するに、地球温暖化を止める条約の締結は可能だ。コペンハーゲンの失敗を認識すれば崖っぷちから逃げられるはずだ。私が今月のサミット結果にがっかりしているのは確かだ。しかし失望はしていない…とりあえず今は。

この記事は2009年12月20日、グリニッジ標準時00:06にguardian.co.ukで公表したものです。

翻訳:越智さき

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著者

ロビン・マッキー氏は英国紙「オブザーバー」の科学技術部の編集者である。