パンデミック対策の評価とデータが示す意外な事実

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が起きた最初の1年間で、感染率が最も高かったのは、医療制度、行政、法制度、およびその他の公的サービスが比較的充実した裕福な国々だった。実際、パンデミック(世界的流行)などの公衆衛生上の脅威に最も備えていると評価されていた「世界健康安全保障指数」が高い国々でCOVID関連の死亡者が最も多かった。

一見したところ、これは筋が通らない。国家機関の力が弱く政策実効性の低い、貧しい国々の方がパンデミックにうまく対処するとは考えにくい。そこで私たちは、最新のワーキングペーパーで統計を詳しく調べ、この不可解な状況の理由を探った。

私たちは、国の実効性を示すことが多い3つの主要な側面に注目した。一般に、実効性が高い国々は秩序と安全を提供するための権限が強く、公的サービスを提供するための能力が高く、正統性(国家が自分たちを支配する基本的な権利を市民がどれだけ受け入れているかを示す指標)が高い。そのため、COVID-19の予防や対応においては、権限が強い(中国など)、能力が高い(フィンランド)、正統性が高い(カナダ)国々が、権限が弱い(ホンジュラス)、能力が低い(リベリア)、正統性が低い(ウズベキスタン)国々より有利だろうと私たちは予想した。

しかし、実際はそうではなかった。各国のこれら3つの主要な側面と、COVID-19による健康被害状況の間の単純な相関関係は不可解だった。実効性が高い国々は、どの側面を評価しても、COVID-19の感染率と死亡率が高かった。また、COVID-19を封じ込めるための各国の政策を見ても、国の実効性の高さは規制の緩さと弱いながらも関連しているらしい、という同じく意外な事実が明らかになった。

さらに、権限や能力が高いと評価された国々はまた、評価が低い国々より封じ込め政策を実施するのに時間がかかった。中央アフリカ共和国ソマリアイエメンなど一部の「弱い」国々は、実効性が高いと考えられる国々より早く公共イベントを閉鎖・中止した。

データに惑わされることがある

つまり、一見すると、概して政策実効性の高い国々の方がパンデミックへの対応に一般に無力だったことが、データで裏付けられているように見える。しかし、単純な相関関係からそうした結論を引き出すのは誤解を招く恐れがある。

パンデミックがもたらす被害状況の違いを説明できる要因はいくつかある。たとえば、感染率の高い国と隣接している国々はそうでない国々より高いリスクにさらされる。そのため、概して実効性の高い国々からなる南ヨーロッパは、ウイルスが早くから広がりを見せていたためにパンデミックの第一波でリスクの高い地域になった。

さらに、高齢者はウイルスに対する感染リスクが高いため、高齢者が多い国もまたCOVID-19の影響を受けやすい。日本やドイツのように実効性の高い国家機関を有する一部の国々では、65歳以上が人口の20%を超えている。ウガンダやマリなどでは、その割合はわずか2%程度だ。

また、COVID-19検査の実施率が高いほど、感染者や死亡者が発見されやすいことも分かっており、そうした発見事例は、一般に医療制度や公的サービスが充実した国々で多くなる。国とCOVID-19の関係を正確に把握するには、これらの要因を考慮しなければならない。

経済発展、人口の年齢構成、人口密度、検査率、深刻な被害を受けている国との距離を考慮に入れると、まったく異なる状況が浮かび上がる。そうした関連要因を分析すると、実効的な国々ほど効果的なパンデミック対応を準備してきたようだ。しかし、先述した国の3つの異なる側面に応じて被害状況にいくらかの違いがある。

上記の要因を調整すると、公的サービスを提供する能力の高い国ほどCOVID-19の感染者数と死亡者数が少なく、死亡に至る感染者の割合(致死率)も低かった。権限の大きな国も私たちの予想通り致死率は低かったが、感染者数と死亡者数はそうではなかった。一方、国の正当性とパンデミックの被害状況に明らかな関連性は見られない。

「弱い」国は依然として感染リスクが高い

こうした結果から、たとえ表面的にはうまく機能していないように見えても、強い国家機関を持つ重要性を改めて確認することができる。

これは、「弱く」十分な資金力のない国家機関を持つ多くの国々のパンデミック対応策が不十分だった、という意味ではない。その他の要因の中では、感染症に対する経験、規制への世論の支持、強力なコミュニティ活動のすべてが重要だった。

しかし、コミュニティのレジリエンス(回復力)や一部の役人のスキルと処理能力の高さを称賛し、より脆弱な国々に暮らす人々が健康面や経済面でパンデミックの影響を受けやすい状況が続いている、という事実から目をそらすべきではない。COVID-19の危機が続く中、実効性が低い国家機関を持つ国々に住む人々が依然として大きな不利益を被り、パンデミックが既存の不平等を本当の意味で反映し、拡大させてきたという事実が、惑わされやすいデータによって覆い隠されることを許してはならない。The Conversation

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この記事は、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づき、The Conversationから改めて発表されたものです。元の記事はこちら

 

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