新型コロナウイルスによる危機は国連平和維持活動を変革する機会

平和維持活動は、大きな変化の時を迎えているかもしれない。過去4年間、世界に派遣されている平和維持部隊の数は着実に減少しており、歴史上最も規模の大きい2つの平和維持ミッションは縮小され始めている。

これら2つの状況から、国連平和維持活動は今後さらに縮小されていくかもしれないことが示唆される。この縮小を引き起こしている要因は多数あるが、中でも予算のひっ迫や実績に対する異議があげられる。それに加え、最近になって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)がもたらした財政的および実務的な課題がある。

しかし同時に、COVID-19によって、平和活動の必要性が中期的に強まることを示唆する状況も作り出されている。それは、COVID-19が与える経済、安全保障、そして社会への影響によって、紛争が起きやすい国々で政情不安が高まりかねないからだ。国連加盟国がそれぞれの国内問題に忙殺されているときにそうした国々で政情不安が起こると、新たな国内紛争につがなりかねない。

このように平和維持活動が強く必要とされる状況は、大規模な多面的モデルに留まらない、真の平和活動領域を追求する機会を国連にもたらしている。今後の任務では、現在の紛争の根深い社会経済的要因をより重視したものになるかもしれない。

1つの時代が終わる?

国連平和維持活動がピークを迎えた2015年、予算は80億米ドルを超え、10万人近くの部隊が派遣された。その活動の中で「ビッグ5」と呼ばれたのが、マリ、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ダルフール、南スーダンでのミッションである。

このビッグ5が、「あまりビッグではない3」になる可能性がある。

ダルフールでの平和維持活動の部隊は2万人から4,000人に縮小されており、政治プロセスに重点を置いた関与に変わることになっている。コンゴ民主共和国での活動は20年続き、最大かつ最も多額の資金が投入された国連ミッションであったが、こちらもすでに軍事部隊は1万6,000人、警察部隊は1,000人あまりに縮小している

2014年以降、新たに承認された大規模なミッションはない。そのため、現段階の平和維持は縮小しているように見える。

私たちが失うことになるもの

大規模な平和維持活動が終了すると、きわめて実質的な代償が生じる。最近終了したリベリアコートジボワールの例(和平プロセスの成功を受けてのミッション終結)とは異なり、ダルフールとコンゴ民主共和国から撤退すれば、大規模な暴力が再び起こる大きなリスクが残されることになるだろう。

ダルフールでは、新政府完成には程遠い和平プロセスに苦労することになるだろう。いまだに300万人が、避難したままの困難な状況にある。

コンゴ民主共和国ではきわめて脆弱な政府が、東部の広大な地域を今なお脅かす武装勢力の問題に直面しており、国内避難民は300万人を超えている。

両国とも、大規模な紛争へと容易に逆戻りする恐れがある。

国連がこうしたリスクに十分対処してきたとはいえないかもしれないが、平和維持部隊の存在が暴力の減少に大きく貢献し、文民保護に寄与したことを示すエビデンスがある。

さらに、平和維持部隊は国際社会の目と耳であり、人権侵害を報告し、一部の交戦国を抑制する一助となり、そして国際社会の対応について事実に基づく根拠を提供する。こうしたミッションがなくなれば、さらに大規模な暴力が野放しになる可能性がある。

平和維持の必要性は再び高まることになるだろうと私たちは考えている。その理由の1つは、COVID-19が経済の脆弱な国に打撃を与える中、大規模な被害をもたらす恐れがあることだ。それによって大きな不満が容易に爆発し、さらに広範な紛争となる可能性がある。

ブルキナファソやカメルーン、ナイジェリア北部などでは、COVID-19が広がる前から、暴力の蔓延によってすでに深刻な政情不安が生じていた。急激な経済悪化がより深刻な事態を容易に引き起こし、それが地域内で広がる可能性がある。

国内の苦境への対応に忙殺される主要国が、特に地政学的戦略面で関心の薄い地域における新たな紛争の管理を、国連に委ねるのももっともなことだろう。

平和維持活動の変革

国連は現在のCOVID-19による危機を、平和活動へのアプローチを変革する機会と捉えるべきである。今回のパンデミックがもたらす経済的影響を鑑み、紛争の社会的・経済的要因に着目しながら、武力行使に関してはこれまでよりも現実的な見込みを設定しなければならない。

今日の紛争には多数の要因があり、10年前のものとすら異なっている。さまざまな非国家組織が関与することも多く、人とモノが必然的に国境を越え、気候変動が影響を及ぼし、さまざまな社会的・経済的要因が存在する。さらに、現代の紛争では新しいテクノロジーの役割によって、外の世界からはほとんど見えない、紛争当事者の秘められた世界が作り出されている。

大規模で多面的な平和維持活動は、こうした複雑に入り組んだ問題に対処するにはあまり有効ではない

国連はリスクの高い環境での文民保護に成功してきたものの、大規模な文民保護の実施には苦労している。

国連はこうした傾向を踏まえて、大規模な軍の展開は、平和維持活動の活動領域の中で、数ある選択肢の1つにすぎないと考えるべきである。小規模のミッションであっても、民間セクターとの協力や文民主導の保護、人権監視(ソーシャルメディアを利用したものを含む)、よりすぐれたインテリジェンス能力の開発、政治的プロセスを巡る合意形成の支援などによって、大きな成果を上げることができるだろう。

軍事力を伴わないモデルはすでに存在している。ギニアビサウの平和構築ミッション、ハイチの新しい政治ミッション、国連西アフリカ・サヘル地域事務所の地域紛争防止活動のほか、平和維持活動以外で成功している国連の多様な紛争防止イニシアチブなどである。

その他のモデルとしては、非武装警察官が重要な治安維持機能を果たすミッションや、武装した警察部隊が中心的な役割を担うミッション(ハイチの先のミッションなど)がある。

一部では、大規模な軍事部隊がもたらせるような安全の保障が必要な場合もあるだろう。しかし、紛争の当事者が武装解除に消極的な場合、軍事力を伴う平和維持活動が直面する限界について、ダルフールの例から学ばなければならない。

急速に変化する状況に、国連がより柔軟かつ迅速に対応することが早急に求められている。国連は72年にわたる平和維持活動を振り返るにあたって、大規模な活動をどのように縮小するか、または現在のモデルでどのように切り抜けるかということだけに集中するべきではない。平和活動を、明日の紛争に対応するツールに変えていかなければいけないのではないか。

•••

本文の内容は著者の個人的な見解であり、必ずしも国連大学の見解を代表するものではありません。

この記事は、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づき、The Conversationから改めて発表されたものです。元の記事はこちら

著者

アダム・デイは、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)のプログラム・ディレクター。国連大学で職務に従事する以前は、10年間にわたり国連にて、平和活動、紛争問題への政治関与、仲介、民間人の保護などを中心に活動した。国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(コンゴ共和国)、国連レバノン特別調整官事務所、そして国連南スーダンミッション(UNMIS、ハルツーム)と国連アフリカ連合ダフール合同ミッション(UNAMID、ダフール)の各本部において政治アドバイザーを務め、また国連本部(ニューヨーク)の政治局および平和維持活動局において政務官を歴任した。

それ以前は、カンボジアでオープン・ソサエティー・ジャスティス・イニシアティブによるヒューマン・ライツ・ウォッチのジャスティス・プログラムに従事し、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判(ICTY)を支援した経歴も持つ。また、弁護士であり元ニューヨーク弁護士会メンバーでもあるデイ氏は、ニューヨークにおいて原告として国際訴訟に携わる傍ら、Center for Constitutional Rights(憲法上の権利保護センター)からの依頼で、グアンタナモ収容所収容者が拷問されたとして収容所元職員に対して起こした訴訟の原告側弁護をプロボノとして(無料で)担当した。

カリフォルニア大学バークレー校法科大学院で法科博士号、フレッチャー法律外交大学院で法律外交の修士号、ブラウン大学で比較文学の修士号を取得している。国際犯罪法、国際犯罪に対する国家元首の免責特権、紛争後の法による支配に関する著書を複数刊行している。既婚で2人の子どもの父親。

オーストラリアのメルボルンに本部を置くロイヤルメルボルン工科大学(RMIT) のグローバル・都市・社会学大学院の副学長シニア・リサーチ・フェロー。