マデリーン・オストランダー氏は、公正で持続可能な世界を目指して強力なアイデアと実際的な行動を組み合わせている全米規模の非営利メディア組織、YES! Magazineの編集長である。
米国ネブラスカ州オマハに住む、穏やかな語り口の大学教授、ジョン・スタンスベリー氏は数ヶ月前、12歳の孫を連れて市民集会に出かけた。議題はキーストーンXLパイプライン、すなわちカナダからネブラスカ州を経由してメキシコ湾岸まで原油を輸送する予定の巨大パイプラインについてだった。当時、スタンスベリー氏はそのパイプラインについてほとんど何も知らず、またそれまで、特に政治的な行動を起こしたこともなかった。彼はややきまり悪そうに、「本来、私は活動家ではありません」と言う。だが、彼は孫に「民主主義が機能することを見せたい」と思ったのだ。
61歳のスタンスベリー氏は土木工学に加え、たまたま危険物輸送の専門家でもある。そして、キーストーンXLパイプラインについては深く知るほど、とんでもない計画だということがわかってきた。集会の後で公的機関が行ったリスク評価をよく読むうちに、漏油の危険性を著しく過小評価しているように思われたのだ。憂慮のあまり、スタンスベリー氏は生涯で初めて、メディアに訴えるという手段に出る。独自に報告書を書き上げ、見解の発表にあたっては国際環境NGOのFriends of the Earthに支援を求め、記者会見も開いた。彼は、今後50年間に約91回の重大な漏油事故が発生しうると予測している。これはエネルギー企業のトランスカナダ社が推定する数の8倍に上る。
昨年のメキシコ湾原油流出事故、そしてこの夏のモンタナ州イエローストーン川における原油流出事故の苦い記憶が多く残るのは、保守派も改革派も同じことだ。
キーストーンXLパイプライン計画については問題があまりにも多いために、スタンスベリー氏のように、これまでに政治に関わらなかった人が一転して活動家になったり、保守派と改革派が異例の共同歩調を取ったりする事態となっている。トランスカナダ社がこのパイプラインを提案したのは2008年のことだが、重大事故の危険をはらんでいるとして全米の注目を集めるようになったのはごく最近だ。パイプラインが輸送するのはアルバータ州のオイルシェールから採取されたビチューメンという原油だが、粘性が高いため、パイプラインを腐食させる恐れがある。このタールサンドとも呼ばれるオイルシェールは石油の中でも特に汚染物質を大量に排出し、多額のコストが必要で、かつ環境を破壊する。科学者のジェームス・ハンセン氏によると、タールサンドの生産を加速させれば、気候変動の最も深刻な影響を抑えようとするすべての努力は台無しになる。さらに、オイルシェール採掘に伴う副産物は毒性が強く、発がん性があり、採掘場の近隣コミュニティはすでにその脅威にさらされている。
このプロジェクトの一部始終がひどい内容なのです。このまま計画が進めば、カナダの美しい山間部が有毒廃棄物の山になってしまいます。そんなことを許してはなりません。
このプロジェクトは、あとは国務省の承認を待つのみという状態だ。だが、環境保護論者や科学者、活動家はオバマ大統領に計画を中止するように迫っている。また、このパイプラインは共和党支持者が多い一連の州を通るが、それらの州でも驚くほど強硬な反対意見が聞かれる。その理由は主に水供給におけるリスクである。結局のところ、昨年のメキシコ湾原油流出事故、そしてこの夏のモンタナ州イエローストーン川における原油流出事故での苦い記憶が多く残るのは、保守派も改革派も同じことだ。キーストーンXLパイプラインが破断すれば、想定される最悪の被害はイエローストーン川漏油事故の120倍以上になるだろうとスタンスベリー氏は語る。
「このプロジェクトの一部始終がひどい内容なのです。このまま計画が進めば、カナダの美しい山間部が有毒廃棄物の山になってしまいます。そんなことを許してはなりません」
さらに、グレートプレーンズの人々には自由主義的で大衆主義的な気質がある。カナダの石油会社と連邦政府が中心になって市民の意見をほとんど聞かずに作成した評価案に不信感を抱く人も少なくなかった。ロサンゼルス・タイムズ紙によると、テキサスでは、地元の保守派が環境集会に姿を見せ、パイプライン建設を非難している。米国ファーマーズユニオンは水供給を脅かすいかなるプロジェクトにも反対するとして、パイプラインについても強硬な抗議声明文を発表している。牧場経営者や土地所有者は今週、ワシントンD.C.において、拘束の危険も顧みず、ビル・マッキベン氏や環境保護団体、そして科学者の一団が主催する座り込みに、数千人もの人たちと共に参加している。革新派のグループ「勇気あるネブラスカ」(Bold Nebraska)を立ち上げたジェーン・クリーブ氏は、ティーパーティー支持者の中でさえ、ワシントンの抗議運動に参加している人がいると言う。
ネブラスカ州におけるパイプライン反対運動の顔となった牧場経営者、ランディ・トンプソン氏は「政治的な違いを超えて考える必要があります。というのは、この問題について、私たちが目指すゴールは同じだからです」と言う。3年以上前、トランスカナダ社はトンプソン氏に彼の所有する土地でのパイプライン敷設の許可を求めてきた。トンプソン氏は水供給を懸念して拒否した。彼の牧場は、帯水層が地表からわずか数フィート程度の非常に浅い位置にある。そして彼は投書をするようになった。「投書なんてしたこともありませんでした」と彼は言う。生涯を通じて共和党支持を貫いてきた彼はその後、「勇気あるネブラスカ」に協調を呼びかけた。彼は、革新派と組むのは時には妙な気もするが、それだけの意味はあると言う。「私たちのグループの中では容易なことではありませんでした。でも、私が活動をともにしてきた人たちの多くからは、敬意を持ってもらっていると思います」
今月、トンプソン氏は「ランディと共に立ち上がろう(I Stand with Randy)」という、ネブラスカ州で行われた一連のイベントのシンボルとなった。彼は連邦議会に陳述書を提出し、10月にはワシントンD.C.に出向いて、国務省の公聴会で証言することになっている。彼は「積極的に関わることで目が開かれた」と言う。そして、気候変動や水質汚濁について詳しく知るにつれて、オイルシェール採掘にも反対するようになった。彼は語る。「このプロジェクトの一部始終がひどい内容なのです。このまま計画が進めば、カナダの美しい山間部が有毒廃棄物の山になってしまいます。そんなことを許してはなりません」
パイプラインに反対する声は、トンプソン氏の地元であるネブラスカ州で特に強硬だ。昨年秋、州の住民500人を対象に行われた無作為抽出調査では、パイプラインの影響を詳細に知らされた人の約半分が反対した。しかし、トンプソン氏のような人はまだ例外だ。保守派の過半数は気候変動活動家と協調する準備ができていない。そして、連邦議会の共和党議員がパイプラインに反対する人の声に耳を傾ける様子はほとんどない。ネブラスカ州選出のマイク・ジョハンズ共和党上院議員はキーストーンXLパイプラインに懸念を示しているものの、下院の共和党議員はパイプラインの早期着工を議決し、オバマ大統領に11月1日までの決断を求めている。
少なくとも一部の保守派にとってはおそらく、このパイプライン問題が、長らく目を向けなかった環境保護を再び考えるきっかけになりそうだ。
それでも、政治的にどちらに傾いていても、米国民は企業が政治に深く関わり、影響力を及ぼすことに辟易している。それに、このパイプライン計画の成り行きを見守っている多くの人は、カナダの企業が米国の地方コミュニティを当惑させていいはずはないと思っている。また、少なくとも一部の保守派にとってはおそらく、このパイプライン問題が、長らく目を向けなかった環境保護を再び考えるきっかけになりそうだ。さらにこの問題は、より多くの市民に気候変動がもたらす脅威を認識させる手段にもなりうる。
ホワイトハウスでは先月、パイプラインに反対する人たちがわざわざビジネススーツ姿で登場した。この抗議活動の主要なメッセージのひとつは、法律をきちんと守る平均的な米国民が今、気候変動を真剣に受けとめようとしている、ということだ。このパイプライン問題は、オバマ大統領にとっては千載一遇のチャンスでもある。この機会を活かせれば、彼は党派を超えた政治を志すとした公約に沿って行動し、気候変動に立ち向かうという約束を遂行し、世界で最も環境に悪影響を及ぼすプロジェクトの1つを中止できるのだから。
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この記事は YES! Magazine に掲載されたもので、Creative Commons BY-NC-ND 3.0 のライセンスに基づいて転載したものです。
翻訳:ユニカルインターナショナル
パイプライン計画で環境保護主義にめざめる by マデリーン オストランダー is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.