マンズール・カディルは、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)水と人間開発プログラム担当アシスタントディレクター。
世界で急増する都市下水の中から、貴重なエネルギーや農業用養分、水を大量に回収できる可能性があるということが、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)が共著として参加した新しい調査報告書で明らかになりました。
現在、全世界では年間約3,800億立方メートル(1m3 = 1,000リットル)の下水が排出されており、これはナイアガラの滝の年間水量の5倍に相当し、アフリカのビクトリア湖をおよそ7年、カナダのオンタリオ湖を4年、レマン湖を3カ月未満で満たせる量にあたります。
さらに調査報告書によると、下水の量は急増しており、2030年までにおよそ24%、2050年までに51%の増加が見込まれています。
排出される下水の主な養分を見ると、全世界の年間下水排出量に対し1,660万メートルトンの窒素のほか、300万メートルトンのリン、630万メートルトンのカリウムが含まれています。理論上、これらを下水から全部回収できれば、全世界の農業におけるこれら養分の需要の13.4%をまかなえる計算になります。
下水中の養分は、全世界で136億米ドルの収益を生み出すことができます。その内訳は、窒素回収によるものが90億米ドル、リン回収によるものが23億米ドル、カリウム回収によるものが23億米ドルです。
一方、下水に含まれるエネルギーで、1億5,800万戸に電力を供給できることも明らかになりました。これは米国とメキシコの世帯を合わせた数とほぼ同じです。
全世界では年間約3,800億立方メートル(1m3 = 1,000リットル)の下水が排出されており、これはナイアガラの滝の年間水量の5倍に相当し、アフリカのビクトリア湖をおよそ7年、カナダのオンタリオ湖を4年、レマン湖を3カ月未満で満たせる量にあたります。
このような養分を回収すれば、経済的な利益だけでなく、富栄養化を最小限に抑えるなど環境面でも重要な利益が生まれます。富栄養化とは、一定水域の養分が過剰になり、植物が増殖したり、酸素不足で水生動物が死滅したりする現象を指します。
本調査はカナダ政府の資金提供により行われ、UNU-INWEHが出した推計と予測は、報告されている全世界の年間下水排出量の新しい分析方法に基づいています。
多くの国では、下水に関する正式なデータが分散していたり、モニタリングや報告の頻度が不十分もしくは不明です。それでも、本報告書は、下水が持つ世界的、地域的潜在性について重要な知見を提供しています。
本調査ではまた、アジアが最大の下水排出地域であることが明らかになり、1,590億立方メートルの下水が排出されていると推定されます。これは全世界の都市下水排出量の42%に相当し、2030年までに44%に達する見込みです。
それ以外に大量の下水を排出している地域としては、北米(670億立方メートル)と欧州(680億立方メートル)が挙げられ、北米より欧州のほうが都市人口は多い(北米の2億9,500万人に対し5億4,700万人)にもかかわらず、下水排出量はほとんど同じとなっています。この違いは、1人当たりの下水排出量にあり、ヨーロッパの124立方メートルに対し、北米は231立方メートルとなっています。
これとは対照的に、サハラ以南アフリカの1人当たり下水排出量は46立方メートルです。限られた水供給量と、都市部での下水回収システムのずさんな管理を反映しており、全世界平均(95立方メートル)の約半分に止まっています。
下水資源の回収にあたっては、高い回収率を達成するためにさまざまな制約を克服する必要がありますが、それが成功すれば、持続可能な開発目標(SDGs)や気候変動への適応、「ネット・ゼロ・エネルギー」のプロセス、環境に優しい循環経済を含むその他の目標達成に向けて大きく前進することになります。
淡水の需要が高まり、水資源の枯渇がさらに強調される中、安全に管理された下水を活用する機会を逃すことは大きな損失です。
下水養分回収技術は大幅に進歩し、現在回収できている資源と今後回収できる可能性のある資源との差はどんどん縮まっています。リンの場合、回収率は25%から90%に達しています。
また、中低所得国においては、ほとんどの下水が未処理の状態で排出されているため、回収率を上げるためには民間資金を活用し、規制と金融の環境を整える必要があります。
都市下水はかつて、そして今もしばしば汚いものと見られています。しかし、私たちが下水から得られる水や養分、エネルギーの回収を改善する中で、経済的利益やその他環境面での利益の潜在性が極めて大きいという認識が広まり、変化が生まれています。
淡水の需要が高まり、水資源の枯渇がさらに強調される中、安全に管理された下水を活用する機会を逃すことは大きな損失です。
今回の調査結果が、各国政府が下水の回収、資源回復および再利用のための行動計画を策定するような後押しになればと私たちは考えています。
下水の安全な管理はSDGsの達成に向けて鍵となり、特にターゲット6.3で掲げられている、2030年までに未処理の下水の割合を半減させ、リサイクルと安全な再利用を世界全体で大幅に増加させる目標を達成するためには不可欠です。
この記事は最初にIPS Newsに掲載されました。