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世界経済フォーラムが、第8回調査となる2013年度版グローバルリスク報告書を発表した。この報告書は、1,000人以上の専門家を対象とした調査で上位となった世界にとっての脅威を挙げるものである。前年同様、2013年においても最大のリスクに挙げられたのは、広範に影響が及ぶ大規模な経済破綻をはじめとする、経済および金融に関する懸念であった。
ここまでは十分に予測されたことだ。しかし、気候変動に関連するリスクも、不安な懸念事項として上位に挙げられている。その中には、温室効果ガスの排出量増大と、これらの気候変動に対して政府や企業が十分な緩和策や適応策を講じられないことの両方が含まれている。
レポートの発表にあたって、リスクおよび保険関連のサービスを提供しているオリバー・ワイマン・グループのCEO、ジョン・ドージック氏は次のように述べた。「2つの大きなリスクが同時に近づいています。1つは環境の嵐、もう1つは経済の嵐です。この2つは衝突するコースをたどっています」
彼の指摘によると、米国などの政府はこれまで、最後の頼みの綱の保険者としての役割を果たし、自然災害後の支援を提供して、ひたすら重くなる負担を引き受けてきた。
2つの大きなリスクが同時に近づいています。1つは環境の嵐、もう1つは経済の嵐です。この2つは衝突するコースをたどっています。(ジョン・ドージック氏、リスクマネジメントのコンサルティングを行うオリバー・ワイマンのCEO)
「このため、人々は、災害後には政府が介入して支援してくれるものだと期待するようになったのです。しかし、経済の嵐に見舞われて、政府はその期待に応えられなくなってきています」
ドージック氏はIRINに、これは国内の支援活動に限ったことではなく、海外緊急援助にもあてはまると語った。「先進国は今、経済的状況により、大惨事に直面した新興国に災害支援を提供することが難しくなっています。新興国にとって、これは新たに加わったリスクです」
調査の対象となったのは、「世界経済フォーラムのコミュニティ」のメンバーで構成される専門家たちで、政界、産業界、国際機関、学術界の重鎮も含まれている。
今年、回答者は100ヵ国以上から参加したが、ヨーロッパと北米の割合が非常に高かった。また40%以上が産業界に属する人たちで、女性は30%未満であった。さらに、回答者の中には世界的にも著名で、担っている責任上、将来のリスクを強く意識している人々も含まれていた。
ロンドンに拠点を置く海外開発研究所(ODI)で気候変動とリスクおよびレジリエンスの問題に関わっているトム・ミッチェル氏は、フォーラムの調査が実際に開発を進める人たちにどれほど有益かは疑わしいとしながらも、報告書がリスクの間の関係性を強調している点は好ましく感じている。
彼はIRINに次のように語った。「報告書で最も重要な点の1つは、リスクは互いに密接に結びついているということです。これは本当に考える必要があることです。たとえば、干ばつや洪水が食料生産地域に及ぼす影響をとっても、それはスーパーマーケットの価格にはねかえり、さらにはアフリカの人々が食料のためにどれだけ支払うことになるかにもつながります。それがさらには、バイオ燃料のための土地利用にも結びつき、そこから石油価格の上昇も起こります。リスクは触媒としての性質を持っており、ある触媒を通して、その反応として現れる結果は非常に強烈です」
農業は気候の変動性との闘いになり始めています。特に降雨量の変動が問題です。私たちは政策担当者、農業従事者、農業改良普及員を動かして、その影響について考えてもらう必要があります。(ドム・ハント氏、コンサーン・ワールドワイド)
コンサーン・ワールドワイドでリスク削減アドバイザーを務めるドム・ハント氏は、調査の一部は人道的活動をしている人々にも役立つだろうと言う。彼はIRINに次のように語った。「自分にとって重要な部分を摘み取る必要があります。サイバーリスクというようなものは、私たちが一緒に活動している、非常に貧しい人たちには大事ではありません。しかし、農業は気候の変動性との闘いになり始めています。特に降雨量の変動が問題です。私たちは政策担当者、農業従事者、農業改良普及員を動かして、その影響について考えてもらう必要があります」
「とりわけアジアの国々は世界に先んじて、リスクについて考えています。なぜなら、それらの国々では経済が急速に発展し、現在はGDPが損なわれるリスクが非常に高い開発段階に達しながら、他では普通に見られる安全対策がまだ導入されていないからです」1
「災害リスクと世界的リスクの傾向は人道的な問題だけではありません。人道的災害と危機の根底にある原因は開発の問題です。私たちは、これらの問題の対応には開発基金を用いるべきだと考えています。このような報告書は私たちの主張を後押ししてくれるものです」
今年の報告書は、通常あまり議論されないリスクにも目を向けている。
たとえば、報告書では「デジタル・ワイルドファイヤー」を大きく取り上げている。これは、うわさなどの不利な情報が、真偽に関わらず、インターネット上でワイルドファイヤー、すなわち山火事のように広がり、収拾がつかなくなることだ。報告書では、米国で制作された反イスラムのビデオを例に挙げている。このビデオがきっかけで、中東全域で暴動が起こり、数十人もの人々が犠牲になった。
また、抗生物質への耐性が高まっていることと、効果がなくなった抗生物質の代替品を開発する努力が不足していることも強調している。報告書によると、後者の原因は市場の失敗である。製薬会社にとっては、まれに、しかも短期間しか服用されないうえに、病気の方がすぐに耐性を持ってしまうような薬を作ってもメリットはほとんどない。それよりは、慢性的な症状に対する薬で、長期間にわたって服用され、かつ効果を失わなさそうなものを開発する方がずっと魅力的である。
しかし、世界経済フォーラムが報告書の中で解決策を示すことはない。これらの問題を提示しているのはむしろ、1月末にダボスで開催される年次総会と、さらに幅広い議論の論点とするためである。
英国健康保護局で感染と抗菌剤耐性に関わっているアラン・ジョンソン氏は、市場の力で新薬の開発を促進する解決策を提案している。彼はIRINに次のように語った。「報告書にある通り、抗生物質は非常に過小評価されています。おそらくその価値への評価を高める必要があります」
「私たちは、これらが必要な薬であることを受け入れなければならないでしょう。したがって、それらの薬はもっと高価で、企業が投資する価値を感じるものでなければなりません。しかし、私たちは製薬会社と対話をしなければなりませんし、他国の政府とも新たな価格設定構造について足並みを揃えるように国際協力をしなければなりません。個々の国が独自に取り組んでも成功の見込みはありません」
これらのリスクはグローバル規模だが、通常、対応は各国で行われている。世界経済フォーラムは、各国政府と協調して、リスクを管理するメカニズムを策定しようとしていると言う。また、報告書には、知覚されたリスクを管理する能力について国別ランキングが示されている。それによると最上位はシンガポールで最下位はベネズエラである。
ODIのミッチェル氏は次のように語った。「リスクは状況に非常に左右されるため、世界規模のリスクの一覧を作るのは困難です。リスクのなかには、国やコミュニティにあてはまるものや、あてはまらないものがあります。特に、グローバルな金融の流れと結びついていない場合はなおさらです。各国においては、独自のリスク一覧を作り、それに応じて行動することができるでしょう」
残念ながら、そのようにしている新興国は多くないと彼は言う。「また、そうしていても、将来、何が起こるかを予測するモデルを利用するのではなく、過去に何が起こったかにリスクの概念の軸足を置くことが多いのです」
「しかし、状況は良くなってきています。特に、巨大都市の将来を懸念している国においては、それが顕著です。とりわけアジアの国々は世界に先んじて、リスクについて考えています。なぜなら、それらの国々では経済が急速に発展し、現在はGDPが損なわれるリスクが非常に高い開発段階に達しながら、他で普通に見られる安全対策はまだ導入されていないからです」
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翻訳:ユニカルインターナショナル
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