2008年世界エネルギー展望

2008年11月17日 ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

国際エネルギー機関(IEA)が世界エネルギー展望 (The World Energy Outlook)の、2008年版を発表した。この報告書の結果に、我々は果たして笑うべきか泣くべきか。これは、我々の見方によっては、楽観的にも悲観的にも解釈できる問題なのだ。

報告書は、2030年までに世界のエネルギー需要が伸び続け、現在より45%増加するとの見方を示している。年率平均で1.6%増加し、今後も石炭が主たるエネルギー源であり続けると予想される。

石油に関しても、1日当たり1億600万バレルの増産を見込んでおり、現消費量の8500万バレルに比べると、これは大幅な増加だ。拡大する需要を満たすには、サウジアラビアの現生産量の6倍に当たる供給が必要になるだろう。

さらに、現存する油田から採掘される原油生産量が、年率約6.7%の割合で急速に減速していることもエネルギー事情を悪化させている。需要と供給の格差を埋めるためには、新規油田の開発に加え、石油燃料代替資源や液体天然ガスの開発も必要になってくる。

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2030年までの世界の石油生産予測

困難な道

石油産業の展望が変化する中、石油生産国の国営石油会社の存在感が増し、従来の石油メジャーの影響力が薄れ始めている。IEAは、石油輸出国機構(OPEC)が増産に向け十分な投資をすれば、OPECの石油生産が大幅に伸びるだろうとの見方を示している。

「非OPEC加盟国による石油生産は、すでに停滞しており、次の10年の半ば頃には落ち込み始めると予測されている。」

また、2015年までに新たに3000万バレルの増産が必要とされており、適切な投資なくして、石油危機を回避することは難しくなる。今後は、石油価格の急騰が予想され、景気低迷が回復すれば、2015年までに平均価格は1バレル100ドルに達するとの試算もある。石油が安く手に入った時代は終焉を告げた、とIEAは協調する。

IEAは(現段階では)ピークオイル論を支持しているわけなく、むしろ「問題は資源不足ではなく、投資不足だ」との見方を示している。OPEC加盟国には十分な備蓄があり、開発コストも低く抑えられるとの考えだ。

もう一つの明白なメッセージ

この報告書で注目すべきは、「石油需要を維持していく上での不安の高まり」に加えて、「近年のエネルギー供給と消費の傾向が明らかに持続不可能になっている」と指摘している点にある。

そこで問題となるのは、「我々がどう行動すべきか」だ。

世界のエネルギー展望2008年版は、エネルギーシステムの本格的な脱炭素化を訴え、2つのシナリオを提示している。ひとつは大気中の二酸化炭素(CO2)濃度を550ppmに、もうひとつは450ppmに安定した場合だ。いずれの場合も巨額投資が不可欠で、増え続けるエネルギー需要を満たすために燃料混合に転嫁する、または需要の伸びを抑えていかなくてはならない。

これらを実現させるためには、来年コペンハーゲンで開催される温暖化会議で、気候変動に対応する有効な体制を構築しなければならない。IEAは楽観視しているように見えるが、懸念も拭えないのが現実だ。

「全世界の政府、生産国、消費国は、独自にまたは協力し合い、よりクリーンで、優れた、かつ競争力のあるエネルギーシステムを構築する力を持っている。我々に残された時間は少ない。今こそ行動に移す時なのだ。」

さあ、すぐに始めよう。あなたにはこの新しい活動の兆しが見えているだろうか?

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著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。