フィオナ・ハーヴェイ氏はガーディアン紙に寄稿するジャーナリストである。
たぶん、これからの5年間も、世界はこれまでどおり数多くの化石燃料発電所、大量のエネルギーを消費する工場、そしてエネルギー効率の悪いビルの建設を続けるだろう。世界的なエネルギー機構の詳細な分析によると、このまま行けば、世界的温暖化を安全なレベルに保つことは不可能になり、危険な状態につきすすむ気候変動を救う最後のチャンスも「永遠に失われる」という。
炭素を排出する建物が建設すれば、数十年はその建物から炭素の排出が続くのだ。エネルギー経済学における世界最高の権威は、この「ロックイン」効果が取り返しのつかない気候変動を生じさせる唯一の要因だと発表した。このような状態が今後5年間で一気に変わらない限り、その結末は悲惨なものになる。
「扉は閉じつつあります」と、国際エネルギー機関(IEA)の主席エコノミスト、ファティ・バイロル氏は言う。「とても心配です。エネルギーの使い方を今変えなければ、専門家が(安全の)最低水準としている地点を超えてしまうでしょう。そうすれば扉は永遠に閉じられてしまいます」
化石燃料設備の利用を早急に変えなければ、世界は気候変動を破滅から救うチャンスを「永遠に失う」でしょう。
専門家の間では気温上昇幅2度未満が安全域とみなされているが、そのためには大気への炭素排出は450ppm内に抑えなければならない。現時点のレベルは390ppm前後である。だが、11月9日に発表されたIEAの解析によると、現存する世界の設備は既にその「カーボン・バジェット(英国が特定期間に排出できる温室効果ガスの総量の上限)」の80%を排出している。これにより世界経済を炭素排出削減に向けるための改善余地が狭まってゆくばかりだ。
現在のように炭素排出の多い設備を作り続ければ、2015年までには少なくとも利用可能な「カーボン・バジェット」の90%がエネルギー、産業設備に吸い取られてしまう。IEAの推計では2017年には余裕はゼロとなり、カーボン・バジェットの全てが必要になるとしている。
バイロル氏による警告は気候変動に関する国際交渉における重要なタイミングで発せられた。政府は今月末から2週間開催される南アフリカのダーバン会議に向けた準備を急ピッチに進めている。「もし2017年までに効力を発する国際的合意が得られなければ、(温暖化を2度未満に抑えるための)ドアは永遠に閉じられてしまうでしょう」とバイロル氏は語る。しかし各国政府はまたもや交渉による早急な結論を先延ばしにするつもりだ。本来の目的は、1997年に採択された温室効果ガス排出に関する京都議定書(唯一の拘束力ある国際合意)が2012年に約束期間を終了するのに伴い、後継条約を策定することだった。しかし挫折につぐ挫折が何年も続いたことで、イギリス、日本、ロシアをはじめ、交渉を数年後に延期すべきだと考える国が増えている。
ロシアと日本はいずれも最近、2018年か2020年頃を新たな合意時期の目標とするよう表明した。英エネルギー・気候変動担当大臣、グレッグ・バーカー氏は「中国、アメリカ、その他BASIC諸国(ブラジル、南アフリカ、中国)に同意してもらう必要がある。2015年までに合意が得られれば2020年までに発効可能だろう」と述べている。しかしバイロル氏によれば、それでは明らかに手遅れだという。「緊迫感を持つことが非常に大事だと思います。私たちの分析には投資パターンを変えない場合の結末が示されています。そして投資パターンは国際合意がなければ変わりません」
また、これは一部の解説者が主張しているような、開発途上国の問題でもない。イギリス、ヨーロッパ、アメリカでは新たな化石燃料による発電所建設計画が数多くあり、今後数十年に温室効果ガス排出量を著しく増加させるだろう。
英国のガーディアン紙が5月にIEAの分析結果を掲載しており、過去80年で最悪の不況にもかかわらず、温室効果ガス排出量は2010年に記録的上昇を示した。昨年は30.6ギガトンという記録的な数値の二酸化炭素が化石燃料の燃焼により大気に排出された。この数値は前年を1.6ギガトンも上回る値だ。この時点でバイロル氏は抜本的な対策がとられない限り、地球温暖化を低いレベルに抑えることは「単なる夢物語である」とガーディアンに語った。
今回の研究結果には、新たなエネルギー設備や産業設備の建設を現在選択することで今後数十年のガス排出量増加がどうなるかを詳細に分析したうえで、温暖化の問題を管理可能なレベルに抑えておくことが困難になるという内容が加えられている。IEAのデータはガス排出とエネルギーに関する判断基準とされており、その数値は最も保守的だとみなされている。そのIEAがこう警告するのだから現実の深刻さは明らかだ。一番の問題は、現在稼働中のほとんどの産業設備(化石燃料の発電所、温室効果ガスを吐き出す工場、非効率的な交通機関や建物)が現在も高レベルの炭素排出を続けており、それが今後何十年も続くことだ。二酸化炭素はいったん排出されると大気中にとどまり、温室効果を100年は保ち続ける。そして産業設備は数十年の使用に耐えられるように設計されている。
中国政府は1人当たりの二酸化炭素排出量は他の先進諸国と比べて低いと主張し続けてきたが、IEAの分析によれば今後4年間に中国1人当たりの排出量はEUを超えるとしている。
しかし、ここ20年の間にますます深刻さを増す専門家の警告をよそに、新たな設備は今でも昔ながらの方法で建てられている。つまり、今日あるいは今後5年の間に建設される排出ガスの多い設備は、それ以前の設備同様、ガスを大気中に蓄積していく「ロックイン」効果を持つということである。
IEAが11月9日に発表した年次レポート「世界エネルギー展望2011年版」によると、「ロックイン」効果は進行する気候変動の危険を増大させる唯一最大の要因であるとしている。
気候科学者は産業化以前の水準から2度以上気温が上昇すると危険粋に突入し、気候変動は壊滅的で取り返しのつかないものになるとしている。そのような推計は正確とは言えないにせよ、1.5度の海水面上昇は危険なレベルとなり異常気象のリスクは高まる。2度未満に抑制することは、2009年のコペンハーゲンで署名された部分合意を含む国際合意にも記されている。この合意では主要な先進国、開発途上国が初めて温室効果ガス削減に同意した。
ガス排出を増加させる別の要因として、いくつかの国が福島での原発事故を受け原子力エネルギーを廃止しようとしていることが挙げられる。「原子力廃止の動きは状況を悪化させるだけです」とバイロル氏は言う。もし国々が原子力エネルギーを廃止すれば、排出ガスは現在のフランスとドイツの排出量を合わせた分だけ増加する。その分を補うには再生可能エネルギーへの更なる投資が必要だが、それを可能にするのは今のところ原子力なのだ。
またバイロル氏は、世界最大のガス排出国である中国も、気候変動対策においてより大きな役割を果たすべきだと警告している。中国政府は1人当たりのガス排出量は他の先進諸国と比べて低く、排出に関し厳しい対策は必要ないと何年も主張し続けてきた。だがIEAの分析では今後4年間に中国1人当たりの排出量はEUを超えるとしている。
さらに遅くとも2035年までには中国の1900年以降の累積排出量はEUを超えることが見込まれている。先進国は過去の排出量に関する責任が重いのだから負担も負うべきだという北京の理屈は成り立たなくなる。
ガーディアンによるインタビューに答えて気候変動に関する中国トップの謝振華氏は開発途上国はもっと積極的に議論に参加すべきだとし、その一方で先進国は京都議定書の継続に署名すべきだと語った。現在署名の意志を表明しているのはEUだけである。謝氏の発言に対する各国代表の反応は慎重だった。
IEAは悲観的な見通しを続け、こう述べている。「世界のエネルギー動向に必要とされる早急な変更が加えられそうな兆しはほとんど見られない」 2009年以降の世界経済の回復は均一的ではないが、今後の経済的展望は不確定なままであり、世界の主要エネルギー需要は2010年には5%も再上昇し、二酸化炭素排出量は過去最高となった。そして化石燃料の消費を促進する補助金は4000億ドル(2507億ポンド)に跳ね上がった。
その一方で、信じがたいほどの数の人々(約13億人)がいまだに電気のない生活をしている。彼らを貧困から救うにはこの点を改善しなければならない。しかし再生可能エネルギーを生産する技術を伝えるにはコストがかかる。
グリーンピースのチャーリー・クロニック氏は「今日政治家が下す決断により次世代への膨大なカーボン負債が次世代に残され、彼らがその高い代償を支払うことになります。今、本当に足りないのは世界的な計画とそれを行使する政治的実行力です。今月末に開かれる世界の気候変動に関するダーバン会議は、各国政府がこの状況を打破するためのチャンスとなるでしょう」と述べている。
気候変動会議に詳しいある人物は、IEAによって明らかになった、化石燃料に対する4000億ドルの助成金の額を「驚異的だ」とし、その助成金が市場を歪めている状況は、再生可能エネルギーへの移行に深刻な問題を及ぼすと述べた。またバイロル氏のコメントは緊迫感があり時宜にかなっているとしながらも、世界最大の排出国である中国とアメリカを国際的な場で行動に駆り立てることはないだろうと話している。
「アメリカは(共和党の反対のため)行動を起こせず、中国は行動を起こすだけの国内的メリットがありません。少なくとも中国は再生可能エネルギーを採用して進歩は見せているものの、被害の大きい石炭発電施設も並行して使用しており、今後しばらくは気候目標を満たすために使用を停止することはなさそうです」
「New Policies Scenario」による世界主要エネルギー需要の内訳
「New Policies Scenario」によるによる世界主要エネルギー需要の内訳
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クリスティアナ・フィゲレス国連気候変動枠組条約事務局長はIAEによる発表は気候問題の緊迫性を強調しているとはしながらも、ここ数年間の前進について強調した。「これは私たちが望んだシナリオではありません」とフィゲレス氏は言う。「しかし合意はたやすいものではありません。私たちが目標にしているのは国際的な環境合意ではなく、目標にするのは過去最大規模の産業・エネルギー革命にほかなりません」
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この記事は2011年11月9日にguardian.co.ukで公表したものです。
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