複数の言語で人間のような会話をし、作曲を行い、医師国家試験に合格することが可能なAI(人工知能)技術の最近の急速な成長には、テクノロジー専門家さえ驚愕している。医療などの分野におけるAIの潜在的恩恵は実に心強いものである一方、変化のスピードは急速で、その未来については依然多くの不確かさがある。
AIが今後自分のキャリアやプライバシー、安全性にどのような影響を及ぼすのかが心配だと感じているなら、それは「AI不安症(AI-nxiety)」かもしれない。この用語はあるマーケティング代理店が造り、ソーシャルメディア上で広まったものだが、AIが人間の創造性と独創性に与える影響に関して抱く不安な感情を指す。
不安障害はしばしば、不確かさや曖昧さに対処することが困難な場合に現れる。人々は実在するものだけでなく、未知のものに対しても不安を抱く。例えばAIがフェイク動画を作り出し、人々を分裂させる偽情報を拡散するなど、AIが持つ可能性への不安感にAI不安症は由来する。AIによって生み出されたコンテンツには、視聴者に否定的で感情的な反応を引き起こすものもある。AI生成のキャラクターや声が不気味なほど人間に近く、しかし完全に人間のものではないときに感じるこの落ち着かない気持ちは、「不気味の谷(uncanny valley)」と呼ばれる。
こうした感情が必ずしも新しいものではないことを思い起こすとよいかもしれない。「コンピューター恐怖症」、「コンピューター不安症」そして「テクノストレス」といったテクノロジーの進歩にまつわる類似の不安は、1980年代には既に現れていた。
多くの点で、AI不安症は数多くの若者が気候変動について感じる「エコ不安症」と似ている。環境の悪化同様、急速なデジタル化も人間活動の結果である。多くの人が今、環境問題もデジタル化も自分たちの手に負えなくなりつつあると感じている。
だが、AI不安症に生活を支配されてしまう必要はない。過度の不安は日常生活に影響を及ぼすのみならず、別の健康問題さえ引き起こし、デジタル化が進展することで得られる数々の利点に気づけなくなる可能性がある。以下は、AI不安症に対処するための4つのヒントである。
AIテクノロジーに馴染んでいないと感じるために、それに対する恐怖や不安が引き起こされることがある。AIがどのような形で既に私たちの生活の一部となっているか、少し時間を取って考えることで、類似のアルゴリズムを採用した新しいAIツールへの恐怖感が減るかもしれない。
例えば、多くの人が近くのレストランを探すためにアップル社のSiriを利用したり、ネットフリックスのおすすめに基づいて映画を選んだりする。Duolingoで新たな言語を学ぶ時にも、知らない都市で移動するためにグーグルマップを使う時にも、そこにはAIが関わっている。
AIが次世代の労働人口に影響を与えることはほぼ確実である。世界経済フォーラムによる2020年の報告書は、2025年までに8,500万人の仕事がAIに置き換えられると予測する一方、AIが26カ国で9,700万人分の新たな職を生み出す可能性を示している。
だが、AIツールを最大限に活用する方法を学ぶことで、現在の、あるいは将来のキャリアに備えることは可能だ。オンライインコースなどを活用すれば、あなたの職業分野にAIが与える影響について理解することができ、デジタルスキルを伸ばしてそれに備えることができるだろう。
ここで重要なのは、対人スキルや感情的知性(EI)といった、AIが(まだ)置き換えることのできないヒューマンスキルで後れを取らないよう留意することだ。デジタル面とソフト面のスキルを組み合わせることが、未来の労働人口の健全性のために必要となる。
気分が滅入ってしまった時は、デジタル機器のスイッチを切るか、スクリーンから一時的に目を離せばよい。新しいAIツールを使ったり、AIに関するメディアの見出しを読んだりすることで、不安や落ち着かない気持ちを感じるかもしれない。研究によると、仕事以外の場面でデジタル画面の閲覧時間を減らすことが、幸福感と全般的な気分の向上をもたらすそうだ。皮肉なことに、スクリーンタイム削減を助けてくれるDigital Detoxなどの便利なデジタル支援ツールも存在する。
オフライン生活を豊かにするために、AIやその他のデジタルツールを活用することもできる。例えば、安全なサイクリングルートを決めるためにグーグルマップを使ったり、友人と料理する際のレシピをChatGPTに尋ねたりする。このような活用法によってスクリーンから離れる時間を設け、同時にテクノロジーが生活にもたらし得る恩恵を感じることができ、どちらもAI不安症を軽減するための打ってつけの方法だ。
AI規制の進捗について最新の情報を得ておくことも有用かもしれない。もちろん、AI規制を調べることに時間のすべてを費やすべきではない(ヒント3参照)。エコ不安症を抱える人は、各国政府が迅速な行動を取っていないことに苛立ちを感じるかもしれないが、AI不安症を抱える人にとっては、国によっては政府がAIのもたらすリスクを深刻に受け止めているのだと知り、安心できるかもしれない。
例えば、EUは社会におけるAIの利用を規制するためのAI法案を可決したばかりである。
AIクリエーターやその他のテクノロジー専門家は、利用が拡大する前にAIを規制することがテクノロジーへの信頼を築くために不可欠だと考えている。適切な規制は、AIが社会にもたらす価値を最大化すると同時に、リスク、そしてAI不安症を最小限に抑えることができるかもしれない。
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この記事は、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づき、The Conversationから発表されたものです。元の記事(英語)はこちらからご覧ください。