ドゥミンダ・ペレーラ氏は、国連大学水・環境・保健研究所のシニア・リサーチャー(水文学と水資源担当)。
アフリカ各国の「水の安全保障」、すなわち安全な水の安定的かつ十分な供給については、29カ国で過去3年から5年の間に何らかの前進が見られたものの、25カ国では全く前進がなかった。
このデータは、国連が初めて行ったアフリカ各国の「水の安全保障」アセスメントで得られたものである。国連大学の水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)が発表したアセスメントでは、10の指標を用いてアフリカの54カ国の「水の安全保障」を定量評価している。アジア太平洋地域については過去に同様のアセスメントが行われたことがあったが、アフリカについては今回が初めてとなる。
国連の「水の安全保障」の概念は、飲用水、経済活動、生態系、ガバナンス、資金調達、政治的安定など、様々なニーズや条件を包括する。したがって、「水の安全保障」には、単にその国がどれだけの量の自然水を有しているかにとどまらず、いかに上手く水資源を管理できているかも関係する。
今回のアセスメントは、飲用水や公衆衛生へのアクセスに関するデータが極めて不十分であるという制約があるものの、一定の予備的な(とはいえ明白な)結論を示すものである。
アフリカ諸国の「水の安全保障」レベルは概して低い。各地域についてはもちろん、どの国を見ても「水の安全保障」レベルが最高位の「モデル(模範)」段階に達してるいところは一つも無い。上位5カ国(エジプト、ボツワナ、モーリシャス、ガボン、チュニジア)でも、「水の安全保障」レベルはせいぜい平均より少し上の「モデスト」段階に過ぎない。
「水の安全保障」が無ければ、人々は環境リスク、健康リスクにさらされることになる。洪水や干ばつなどの水関連災害による被害を受けやすく、経済活動、社会活動に利用できる水が不足する。
アセスメント・チームは、この定量評価ツールが整備されることで、国・地域ごとの政策提言に貢献し、アフリカにおける「水の安全保障」実現に向けた意思決定、ならびに公共や民間の投資事業の参考になることを望む。
今回のアセスメントでは、「水の安全保障」を次の5つの段階に分けた: エマージング(スコア: 0~45点)、スライト(45~60点)、モデスト(60~75点)、イフェクティブ(75~90点)、モデル(90~100点)。
スコアが70点を超えたのは、エジプトだけであった。「水の安全保障」レベルが「モデスト」に達していたのは、54カ国中13カ国にとどまった。ソマリア、チャド、ニジェールの3カ国が、アフリカ諸国の中で最も「水の安全保障」レベルが低かった。
54カ国の内、3分の1以上の国々で「水の安全保障」レベルが最低レベルの「エマージング」であり、許容できるレベルに達するには、大きな格差を解消する必要があることが示された。これらの国々は、5億人もの人口を抱えているが、状況が急速に改善している様子は見られない。2015年から2020年までの間に、アフリカ大陸全体では指標の値は1.1パーセントしか改善されていない。
指標ごとの各国の調査結果は次のとおりである:
飲用水へのアクセス
「最低限の基本的」飲用水サービスへのアクセスについては、中央アフリカ共和国の37パーセントからエジプトの99パーセントまで幅があった。アフリカ全体の平均では基本的飲用水サービスが利用できる人の割合は71パーセントで、総人口の29パーセントに当たる3.53億人が取り残されていることになる。
「最低限の基本的」飲用水サービスとは、水道水に加え、保護された手掘り井戸や湧水など、改良された水源へのアクセスを言う。また、「安全に管理されている」(敷地内にあり必要な時に利用可能で、汚染されていないこと)か、あるいは、往復30分以内で水汲みできるかのいずれかが満たされている必要がある。
公衆衛生へのアクセス
公衆衛生へのアクセスとは、公衆衛生施設及びサービスを利用、使用できることを言い、地域レベルで大きな差はない。平均して、60パーセントの人々が、限定的な公衆衛生にアクセスできている。すなわち、総人口の少なくとも40パーセント(4.83億人)が取り残されていることになる。
いくつかの国々(セイシェル及び北アフリカのほとんどの国々)が、100パーセント(あるいはほぼ100パーセント)を達成している。最も数字が低かったのは、チャドとエチオピアであった。
衛生設備へのアクセス
これは、手洗いなどの衛生習慣の活用についての指標である。アクセス率が最も高かったのは北アフリカ(67%)で、もっとも低かったのは西アフリカであった。リベリアは地域で最も数字が低く、アクセス率は10パーセント未満であった。
チャドと中央アフリカ共和国では、下痢による死亡者数が最も多くなっている。これは、衛生習慣が不十分であることを示すものである。
一人当たりの利用可能水量
一人当たりの利用可能水量が最も多いのは中央アフリカで、コンゴ共和国がアフリカで最も水に恵まれた国であった。その一方、北アフリカの半数の国々では、絶対的に水が不足しているようであった。
最近、西アフリカ、中央アフリカ、南アフリカで利用可能水量が減少している。このことは、コートジボワール、カメルーン、ソマリア、モザンビーク、マラウイで最も顕著である。
水利用の効率性
この指標は経済的価値、社会的価値を評価するものである。スコアは、効率性を合計したもので、その国が自国内にある水を、いかに効率良く経済活動に利用しているかを示している。
この基準によれば、水利用の効率性が最も低い地域は北アフリカ(国レベルで最も低いのはソマリア)で、最も高い地域は中央アフリカ(国レベルではアンゴラ)である。
貯水インフラ
一人当たりの容積(㎥)で示された大規模ダムの貯水量は、南アフリカで最も多く、東アフリカで最も少なかった。
アフリカにおける大規模ダムの総数の25パーセント以上が南アフリカに所在するが、同国よりもガーナ、ジンバブエ、ザンビアのスコアの方が高かった。これはおそらく、これらの国々には、極めて巨大な貯水池が一つだけ存在するためである。
全体の半数の国々で、スコアが極めて低く、アフリカ大陸における貯水施設開発のレベルが低いことを反映している。ここ数年で貯水量を増やしたのは、エチオピアとナミビアのみであった。
排水処理
スコアが最も高かったのは北アフリカ諸国であった。最も低いのは東アフリカと西アフリカで、各地域内の12カ国では、排水の5パーセント未満しか処理されていない。75パーセント以上を処理している国は一つも無い。排水の処理率が50パーセントを超えるのは、チュニジア、エジプト、レソトのみである。
水のガバナンス
ガバナンスは、社会、経済、環境にプラスの影響を与えることを目的とし、様々な水利用者及び水利用を考慮するものである。これには、国境を越えたレベルでのガバナンスが含まれる。
水のガバナンスが最も進んでいるのは北アフリカと南アフリカで、最も遅れているのは中央アフリカであった。
国レベルでは、ガーナでたった2年の間に総合的な水資源管理の実施率が86パーセントに達したことが報告されており、これは飛躍的な改善である。
リベリア、ギニアビサウ、コモロのスコアが最も低かった。
災害リスク
災害リスクは、特定の期間内に特定の生態系または地域社会で生じうる人命の損失、負傷、財産の破壊または被害の可能性を示すものである。
各地域の中で最もリスクが低い(脅威が少ないか、あるいは、対応力が高い)のは北アフリカで、最もリスクが低い国はエジプトである。最もリスクが高いのは、西アフリカであった。
54カ国中49カ国で、過去5年間に災害リスク・スコアの改善が見られた。
近隣国への水依存と水資源の変動性
エジプトは、アフリカ各国の中で突出して水の依存度が高い。タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、コンゴ民主共和国、ケニア、エチオピア、エリトリア、南スーダン、スーダンの10カ国を流れてエジプトに至るナイル川に依存しているのである。また、南アフリカ地域では、利用できる水量が年ごとに大きく変動する。
我々の論文は、「水の安全保障」を測定するデータと評価に関する国際基準を定めるため、先導的な取り組みを呼びかけるものである。
「水の安全保障」を構成する重要な要素のいくつかは、十分なデータが無ければ評価できない。例えば、アフリカの総人口中、何パーセントの人が2030年までに、安全に管理された飲用水サービスや安全に管理された公衆衛生へのアクセスという重要な持続可能な開発目標(SDGs)を達成できるかを推定することは不可能である。
我々の「水の安全保障」評価ツールは、全てのアフリカ諸国がオーナーシップを持って利用できるツールとなり、国・地域別の政策提言に貢献し、アフリカにおける「水の安全保障」実現に向けた意思決定や公共や民間投資の参考になることを目標として、今後も改良されていく。
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この記事は、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づき、The Conversationから発表されたものです。元の記事(英語)はこちらからご覧ください。