ケイト・エバンス氏はオーストラリアのフリーのジャーナリストで、Kiwiのメンバーである。シドニー大学でジャーナリズムを、オーストラリア国立大学で国際関係論を学んだ後、オーストラリア放送協会に3年間勤務した。その後、ビデオカメラとアフリカンダンスへの愛情を携えて西アフリカに移り住んだ。現在は、環境問題に焦点を当てるフリーのビデオジャーナリストであり、CIFORのコミュニケーションコンサルタントとしても活躍する。
アフリカではしばしば未開墾の森林地帯を「ブッシュ」と呼び、そこで得られる野生動物の肉を「ブッシュミート」と呼ぶ。同盟団体Bushmeat Crisis Task Force(ブッシュミート危機対策委員会)によると、営利、違法、持続不可能な食肉の狩猟により、アジアや西アフリカでは野生動物の大規模な局所絶滅が起きている。
事態は危機的なスケールに達していると同委員会は語る。ブッシュミートを狙う狩猟(ブッシュミートハンティング)が、それまで対象でなかった国や生物にまで急速に拡大しているのだ。これは商業的な森林伐採の増加によるところが大きい。森林伐採のために整えられたインフラ設備が、森やハンター達と、発展を遂げる都市や増え続ける消費者を結び付けてしまうからだ。
国際林業研究センター(CIFOR)の研究によれば、ハンター、商人、科学者、自然保護論者、それぞれのブッシュミートに対する見解は異なる。しかし唯一、意見が一致しているのは野生動物が姿を消しつつあるという点だ。
始めにそれぞれの見解の概要を説明し、文末のビデオでその全体像をご紹介しよう。
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タマンガ・エクワヨーリさんは、槍、なた、罠に使うワイヤーを携えて野生生物の狩りに出る。
エクワヨーリ氏はコンゴ民主共和国ルコレラ近郊、トゥンバ湖‐レディーマ森林保護区に隣接する村に住み、人生の殆どを狩猟に費やしている。
「すぐにお金になるから狩りが好きです」と彼は言う。「神のご加護があれば、サル、イノシシ、アンテロープなどを仕留めることができます」
エクワヨーリさんの罠は、小枝で地面に固定したワイヤー製の輪を落ち葉で覆い隠し、別のワイヤーで近くに生えている若木を曲げ、輪を締め上げるスプリングとして使用する。
狩りに出ると1日に50から100の罠を仕掛ける。「このまま2週間は放っておかなければなりません。人間の臭いが取れるまで時間がかかりますから」
2週間後に罠に戻ると、大抵小さなアンテロープが5~6頭、ヤマアラシやイノシシが2~3頭かかっている。
「獲物を4~5頭捕らえることができた日は、何頭かを家族で食べ、残りは売ります。獲物が少ない日は全て家族用になります。」
しかし、売る分まで捕れないことが殆どだと、同氏は言う。
「私が狩りを始めた頃は、たくさんの動物がいました」
「以前はもっと多くのサル、イノシシ、ヤマアラシ、チンパンジー、アンテロープを村で売ることができました。村人はそういった動物を好むんです」
「でも、日に日にみつけるのが困難になっています」
ジャンヌ・ムワキンベ氏は、コンゴ民主共和国ルコレラ村のモウトゥカ・ヌネネ市場でワニと大きなアンテロープを売っている。
「毎週火曜か水曜にカヌーで二日かけてマンガまで出掛けます」アンテロープの毛深い腿にナイフを突き刺しながら同氏は言う。「そこでブッシュミートを買って来るのです」
「ブッシュミートは狩りから戻ったハンター達から買い付けます。森にはワニ、サル、アンテロープ、リス、ヤマアラシなどがいて、時には象の肉も手に入れることができます」
伝統的に男性のみが食べることを許されている動物もあるが、誰もがお気に入りをみつけている。
「個人的には、ワニ肉が好きです」とムワキンベさんは答える。
こう話しながら、彼は客のためにワニ肉をバナナの葉で包んでいる。あの言葉は売り込み文句だったのかもしれない。
「私の村では、たくさんの人たちがブッシュミートを食べます」
しかし、珍重される野生動物はどんどん希少なものになっていく。
「たった2匹で相当なお金になります」ムワキンベさんは言う
「でも今は、夫と子供たちを置いて2日の旅に出ても、1頭も手に入れられずに帰ってくることもあるのです」
「みんなとても心配しています。」
ジャン・マピーマ氏は、新たに2006年に指定されたトゥンバ湖‐レディーマ森林保護区の管理責任者だ。
森林保護区内外での狩猟が増加し続けていると、マピーマ氏は語る。
「元来、狩猟は自給自足の手段であり、家族を養うために行われてきました。しかし、現在は営利目的の狩りに携わる人が増え、その数は急増しています。とても危険な状態だと思っています」と同氏は言う。
マピーマ氏の森林管理チームは、保護区域に生息する動物を守るため、密猟取り締まりのパトロールを毎日行っている。しかし、この問題が単純には解決できないことは承知済みだ。
「営利目的の狩猟は貧困や、その他の生活手段の欠如に端を発します。子供に薬を買い、自分たちの服を買うためには、狩りをするしか無いのです」
「しかし、それによって野生動物の絶滅のリスクを負うことになります」マピーマ氏は槍や銃や罠が入った武器庫を差し押さえたことがある。収まらないコンゴの内戦が、狩りの道具に影響を与えていると同氏は言う。
「高性能な猟銃が増加し、それ用の銃弾の売買や不正取引も始まっています」
「私たちは保護区域で狩りをしていたハンターから戦争の武器を押収したこともあります」
しかし、マピーマ氏の強硬姿勢により、彼のチームが周囲の住民から慕われることはなかった。森林管理人たちは、数々の制限で食べ物が獲れにくくなったたことに対する村人たちの怒りによる暴力に脅えている。
「村人は私たちに魚を売ってくれなくなりました。ハンティングを制限され肉が手に入らなくなったので、魚を売らないことで報復すると言うのです」とマピーマ氏は話す。
実際、マピーマ氏は菜食生活を送っている。唯一手に入る肉と言えばブッシュミートで、それを食べることを拒否しているのだ。
同氏は言う。「ハンティングを阻止しながら、肉を食べるというのは良心が痛みます。誉められたことではないと思うのです」
「動物は今や私の子供であり友達なのです。その肉を食べるというのはとても辛い」
国際林業研究センター(CIFOR)で研究をしているロバート・ナシ氏は、コンゴ民主共和国やコンゴ盆地でのブッシュミートハンティングが次第に持続不可能になっていると語る。
「主な原因は、地域人口の増加に伴い食用のハンティングが増加したことです」と同氏は語る。「明らかに乱獲が行われている地域がありますから、これは持続不可能と言っていいでしょう」
これは住民と環境の双方に影響をもたらすと同氏は言う。
「野生動物がいなくなれば、狩猟自体が不可能になり食料不足が起きます。その結果、タンパク質の欠乏も起きるでしょう。その上、多くの動物は種子の散布、除去、捕食において重要な役割を担っているので、長期的には森林の体系も変えてしまうかもしれません」
しかし、CIFORの調査によると、ハンティングの全面禁止は問題解決にはなっていないという。田舎には狩り以外の方法で必須タンパク質を得る手段がほとんど無いので、住民が密猟を続けるからだ。
「コンゴ盆地の地方住民は、タンパク質摂取量の6~8割をブッシュミートから摂っています。残りは魚や、カブトムシの幼虫やイモ虫などありとあらゆる昆虫から摂取します。家畜がいませんから」
「代替案なしでそういった全面規制を行っても効果は上がりません」
実際、コンゴ盆地で消費されている年間600万トンのブッシュミートを、例えば牛肉に置換した場合、環境への悪影響は計り知れないと、ナシ氏は語る。
「600万トンと言えば、ブラジルの牛肉生産量に匹敵しますが、アマゾン盆地で起きている森林破壊の6~7割は、このブラジルの牛肉生産が引き起こしていると見積もられているのです」
「つまり、牛のために2000~2500万ヘクタールの森が消滅するということです。牛は牧草の無い森には住めませんから」
ナシ氏は解決策として、ゴリラや象など危急種の狩猟は禁止し、ダイカ―(小型のアンテロープ)やヤマアラシなど回復力がある種の猟を解禁するよう提唱している。
「村人たちの獲物の殆どは齧歯動物で、その量は全体の6~7割を占めています。齧歯動物の多くはネズミに似て高い繁殖力を持ち、狩猟に対する回復力があるのです」
それに加え、消費量の問題を解決する必要があると同氏は語る。特に、国内で捕獲された肉が集まる都市部の消費量だ。
「買う人がいるから、ハンターたちは狩猟を止めないのです。すべての違法取引はそれで成り立っています」
CIFORのForest News blog(森林ニュースブログ)には、このほかにも多くの興味深い記事が掲載されていますのでご覧下さい。
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