ウンベルト・マルケス氏は、開発、環境、人権、市民社会といった問題を扱う独立系報道機関インタープレスサービスの記事を執筆している。IPSネットワークは約130カ国に330の拠点を持ち、参画するジャーナリストは370人にのぼる。
ラテンアメリカとカリブ海沿岸諸国には、化石燃料の消費に頼らずに地域経済を成長させ、よりクリーンなエネルギー源に基づく「グリーン経済」を拡大しながら、同時に社会的不平等を是正できる潜在能力がある。
ラテンアメリカ経済機構(SELA)の事務局長、ホセ・リベラ氏はIPSに次のように語る。「ラテンアメリカでは3人に1人が貧困状態にあり、9000万人近くの人々が1日1ドル未満で生きながらえています。私たちは、より平等で環境も維持できる、長期的な成長を必要としています」
リベラ氏は述べた。「生産および消費のパターンを一夜にして変えるという問題ではありません。重要なのは、その方向に進みながら、投資、公共政策、インセンティブ、補助金、規制、トレーニング、啓蒙、国際協力などについて、地域のコンセンサスを築いていくことです」
SELAには、28ヵ国のラテンアメリカおよびカリブ海沿岸諸国が加盟している。SELAは、「ブラウン(茶色)経済をグリーンにする」ために、まず地域内で新たなエネルギーマトリクスを確立することが必要との考えに基づき調査を行った。つまり、同地域は化石燃料に依存する経済から、クリーンで再生可能なエネルギーに基づく経済へ迅速に移行を図ろうとしている。
調査の中で、現在のエネルギーマトリクスについて分析を行った結果、同地域は2009年時点で、石油換算で74億バレルを生産し、そのエネルギーの80%が炭化水素系および石炭系であった。
過去50年間、資本主義は、自然資源と人間の両方から略奪、搾取することで生産システムを成立させてきました。グリーン経済の究極的なゴールは、地球上のバイオマス(生物量)を利用することで、その生産システムを永続させることにあります。(アンデス大学の正教授であり農学者、エドガー・ハイメス氏)
燃料をエネルギーの種類別に見てみると、50.2%が石油、23.9%が天然ガス、10.8%がバイオマス(薪炭材とサトウキビがそれぞれ5.4%)、6.6 %が水力、6%が石炭、1.3%が風力、太陽光、その他の再生可能エネルギー全般、0.6%が原子力、0.6%が地熱であった。
主要なエネルギー生産国は、メキシコ(同地域全体の24.7%)、ブラジル(22.9%)、ベネズエラ(20.4 %)、コロンビア(9.8%)、アルゼンチン(7.7%)、トリニダード・トバゴ(4.2 %)、エクアドル(2.8%)である。
SELA加盟国の地域内における石油生産についてはベネズエラが最も生産量が多く、それにメキシコ、ブラジルが続く。天然ガスに関してはメキシコが最大の生産国で、それをアルゼンチン、トリニダード・トバゴが追っている。石炭はコロンビアが同地域の3分の2を生産している。ブラジルは薪炭材、サトウキビによるバイオマス、水力、その他の再生可能エネルギーの大部分を生産している。地熱エネルギーの生産が同地域内で最も多いのはメキシコで、原子力エネルギーの主要生産国はブラジルとメキシコである。
地域全体のエネルギー供給においては、74.4%が非再生可能エネルギー源からであり、87.6%が大量の二酸化炭素を排出する高汚染エネルギー源である。
世界的な気候変動評価の専門組織、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のフアン・カルロス・サンチェス氏は次のように話した。「ラテンアメリカには、よりグリーンなエネルギーを開発する高い潜在能力があります。特に有望視されるのは水力発電で、ブラジルを筆頭に、ベネズエラ、メキシコ、コロンビア、パラグアイ、アルゼンチンに見込みがあります」
ベネズエラだけでも、2万メガワット時の電力を生産する水力および熱電の発電能力を有しており、同国には、水力、風力、バイオマスといったエネルギー源からさらに10万メガワット時の電力を生産する能力がある。
サンチェス氏によると、その他の有望なエネルギー源は風力と太陽光だが、これらは大規模な投資を必要とし、まだ具体化されていない。
サンチェス氏は次のように述べた。「しかし、再生可能であろうとなかろうと、いわゆる『グリーン』なエネルギー源についても、その影響は必ずすべて考慮しなければなりません。たとえば、バイオエタノールやバイオディーゼルは土地保有権や土地利用上の大きな問題、さらには農薬汚染を引き起こすこともあり、そうなると、非常に深刻な社会問題になります」
ベネズエラのアンデス大学で正教授として教鞭をとる農学者、エドガー・ハイメス氏は次のように語る。「グリーン経済は新たな資本主義の世界観です。過去50年間、資本主義は、自然資源と人間の両方から略奪、搾取することで生産システムを成立させてきました。グリーン経済の究極的なゴールは、地球上のバイオマス(生物量)を利用することで、その生産システムを永続させることにあります」
ハイメス氏は続けた。「地球上の一次生産量としては、2500億トン以上のバイオマスがあります。そのうち、現在、人類のニーズや産業需要を満たすのに使われているのは620億トンにすぎません。新たな『グリーン』モデルはその残りを利用して、収入を生み出したり、資本主義者の利益を増やしたりする算段です」
移行を促進し、活発にすることを目的とした公共政策を通して、政府が直接的に関与する必要があります。しかし、グリーン経済への移行を目指すだけでは十分ではありません。包括的な取り組みが重要です。(ラテンアメリカ、カリブ海沿岸諸国による経済機構)
こういった警告があるにも関わらず、SELAは「ラテンアメリカとカリブ海沿岸諸国はグリーン経済に乗り出すべきだ」と主張する。「持続可能な成長に向けて、それ以上の選択肢はありません。石炭依存の経済は限界に達したという事実について、意見は広く一致しています」
やはりアンデス大学で教授を務めるフリオ・センテノ氏は次のようにまとめた。「経済は化石燃料の消費から切り離し、よりクリーンなエネルギーに基づくものにする必要があります。もっとも、石油輸出国機構(OPEC)加盟国のような国々には受け入れがたいことでしょう」。ちなみに、この地域ではベネズエラとエクアドルがOPECの加盟国だ。
SELAは次のように警告した。「移行を促進し、活発にすることを目的とした公共政策を通して、政府が直接的に関与する必要があります。しかし、グリーン経済への移行を目指すだけでは十分ではありません。包括的な取り組みが重要です。すなわち、就労世代にある人々がグリーン経済の中で働けるように、雇用調整やトレーニングを、政策として確実に実施しなければなりません」
また、特に注意が必要なのは、化石燃料がクリーンなエネルギーに取って代わられた時に、存続の危機を迎えることになるかもしれない生産セクターだ。
SELAは、この地域では各国が、移行推進政策を計画するために、再分配型グリーン経済の基本構成要素を一覧として挙げるべきだと言う。
同機構はまた、地域の自然資本(利用可能な環境財やサービス)および地域と炭素系エネルギーセクターとの結びつきについて調査を行い、各国および地域全体の比較優位を組み合わせることのできるテーマ分野やプロジェクトを明確化することを推奨している。
その見解では、この地域はさらに、これらの政策やプロジェクトの追跡調査を行うメカニズムの確立、活動の調整、グリーン経済に関する南南協力プログラムの策定、新しいプロジェクトのための資金源の明確化も行うべきである。
国連持続可能な開発会議(リオ+20)が2012年6月20日から22日にかけてブラジルのリオデジャネイロで開催されるのに向けて、リベラ氏は述べた。「この地域は、2011年12月に発足したラテンアメリカ・カリブ諸国共同体の枠組みの中で、グリーン経済に向けて『やるべきこと、やってはならないこと』を含めた、独自のロードマップを策定、採用すべきです」
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本稿は インタープレスサービス (IPS)のご厚意で掲載されました。IPSはグローバルな報道機関を核とした国際的なコミュニケーション組織であり、開発、グローバリゼーション、人権、環境といった問題に関する南半球や市民社会の意見を発表しています。
翻訳:ユニカルインターナショナル
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