住み心地の良い都市のための都市農業

時として開発の失敗の象徴、迷惑、ナンセンスなどとみなされることもある都市農業は、実際には近年復興の時期を迎えている。地元で育てられた新鮮な食料を提供しようという社会的機運が高まっている。都市計画者は都市化する世界が直面する社会的、環境的問題への独創的な解決策を模索しており、科学者は都市の生態系が不可欠な生態系サービス(食料、ヒートアイランド現象抑制、水管理など)を提供してくれるものと期待している。都市農業は地元に健全な生活をもたらし、エコロジカルフットプリント(環境への負荷)を減らすものだ。

都市農業に関しては、日本は特殊なケースである。高度な工業国であるにもかかわらず、全国の都市部では共通して農業の土地活用が見られる。国全体の農業産出の実に3分の1近くが都市農業によるものだ。また日本の農家の25%を都市部の農家が占めている。

加えて、日本の都市農業は地方の農業より生産的でもある。2010年の農林水産省のデータによると、都市部では耕地面積当たりの収穫の経済価値が全国平均を3%上回り、最も生産的だ。農民1人当たりの収入は都市部では中間・山間農業地域の2倍であり、平地農業地域より10%多い。 世界で最も大きく最も人口密度の高い都市の1つである東京ですら、鉄道、道路、建物、電線網が張り巡らされる中、都市住民の70万人に供給しうる野菜を生産している。

日本の都市農業に関して特殊な点とは何か。なぜそれが重要なのか。都市(そしてその周辺部)で行われているという点で、地方の農業とはいくつかの点で明確な違いがある。日本では最近になって政策立案者たちが都市農業の社会的、環境的機能を認識し始めた。農水省は都市農業の役割として以下を挙げている。

こういった役割に加え、都市農業は都市の持続可能性と健全性にも貢献する。例えば 洪水抑制に役立つ雨水浸透性機能の向上や、気温を下げヒートアイランド現象を緩和するなどの効果がある(よってエネルギー需要も削減)。また都市農業は、生息地を提供し種を管理することによって(受粉の促進、在来種の育成など)、生物多様性と生態系サービス向上にも貢献する。さらにフードマイル(食料の輸送距離)を減らし、(管理された森林などから)生物燃料も提供してくれる。

しかしこのような実質的、潜在的利益にも関わらず、日本の都市農業は脅威にさらされている。過去10年だけでも、農業用土地利用は都市化関連の影響で40%以上減少した。国の人口はほぼ変わらないというのにである。また都市部での農業従事者の数も劇的に減少した。例えば東京では、1975年以降、農作業に関わる世帯数は60%以上減っている。

課題

都市農業の1つ目の課題はその定義と、その規制である。日本では都市農業は、農業政策を担当する農水省と、都市計画を行う国土交通省の監督下にある。この2つの省は都市化を優先させる地域と農業を優先させる地域とを異なる類型で区分しているため、「都市農業」という用語が何を指すかについては定義が矛盾している。それによって根本的なところで政策的困難が立ちはだかり、さらに地域、自治体ごとの規制によってさらに複雑化している。

そのほかに都市農業に対する課題は次のようなものがある。

農民の高齢化 —  都市農業における重大な課題は、国全体の人口構成に起因するものだ。ほとんどの都市部の農業従事者の平均年齢は、地方でも同様だが、急速に高齢化している。それに伴い、今後数十年の農地での耕作の可能性や、生産方法、新たな土地利用への転換については非常に不透明だ。これにより現在都市農業が果たしている環境的、社会経済的機能が危機にさらされる可能性がある。

税金の壁 —  都市部で生産的な農地を維持することは、いわゆる相続税など高額の税金が課されることを意味するため、土地所有者にとっての経済的負担が大きい。国の法令には都市部で営農する農民には免税を認める特別条項があり、さらに都市ごとのインセンティブも設けられている。しかし都市の不動産価格は高額で、免税の対象となるには厳しい用件があり(場合によっては30年以上の長期営農継続が必要)、多くの農民を生産中止や土地転用などに追いやっている。

商業化 —  日本の都市農業が、地元で採れた環境に優しい農産物の消費を現在のニッチ市場から主流市場に変えて生き残れるかどうかは大きな課題である。直売所での直接販売は珍しくはないものの、都市の農産物はしばしば地域市場、国内市場、あるいは国際市場で商業化されてしまうため、都市農産物に付加価値をつけることで地元経済を強化したり、フードマイルや包装・加工の工程を削減して持続可能性に貢献したりする機会が奪われている。

生産性のシフト —  都市農地は人口密度の高い地域に隣接しているため、化学物質の使用は特に低減傾向にある。2005年の農林業センサスでは東京、大阪、神奈川における低濃度の化学物質使用または無農薬による栽培は国の平均をはるかに上回った。だが日本の都市ではまだ真に生態学的に健全な実践は行われていない。土壌保全、有機施肥、エコロジカルな害虫管理、種子の多様性増加、その他森林や利水システムなどの都市の生態系を全てひっくるめたシステマティックなアプローチが計画・管理レベルで欠如しているのだ。都市農業が地元の持続可能性とその地域の健全性に真に貢献するには、都市の生物多様性やその他の生態系サービスを脅かすことなく、長期的に生産を維持できるような完全に系統的でエコロジカルなアプローチに転換しなければならない。

チャンス

このように様々な障害もあるが、日本の都市農業の役割を、ガバナンス、経済的、環境的、社会的な面から持続可能性と地域の健全性に向けて強化するチャンスも存在する。

新たな概念的アプローチ —  最近では、都市部の生態系を農業生産に利用するという考えが広がりを見せている。例えば継続的に生産的な都市ランドスケープ という概念は地域の持続可能性を増し、都市への影響を減らす計画フレームワークである。周囲を農業用の土地で囲んだコンパクトな都市を設計すれば産業的生産、過剰な包装、長時間の輸送の必要性が大々的に削減できる。日本に関連するものとして里山・里海のコンセプトがある。これは「人間の福利のための各種生態系サービスを提供する管理された社会生態学的システムの動的モザイク」と定義されている。いずれも、もともとは地方を背景として生まれてきた概念だが、都市にも重要な教訓を示してくれる。例えば都市周辺部での里山ランドスケープは農業生態的生産の重要なホットスポットとなり得る。これにより特に人口が減少傾向にある地域では、都市の食料、エネルギー、文化的サービスの需要を満たし、地域経済を活性化することができる。

農業に対する都市住民の関心 —  近年、都市住民の間で農業への関心が高まっている。農水省の調査によると、東京在住の80%以上が新鮮な野菜と緑地空間を確保するため耕地があるほうが望ましいと考えている。農民とともに各種活動に参加できる「体験農園」と農地を区分けし貸し出す「市民農園」が、都市で住民が農業に参加できる最も人気のある2つの形態だ。地方では貸し農園の数は過去10年間変わらないが、都市部では67%上昇した。2010年の農水省のデータによると全国の既存の畑の数に対し、市民農園への応募数は30%多かった。高度に工業化された川崎、名古屋などの都市では畑の需要が供給の3倍以上もある。

グリーンエコノミー:持続可能な消費・生産ネットワークを持つ都市農業 —  都市化する社会では、都市はグリーンエコノミーを達成するためのカギとなる。この概念は国際的持続可能な開発における中心的課題である。農産物の商品市場の影響を受けやすい地方と比べると、都市農業は消費者との距離が近いため都市の需要に焦点を絞り易い。日本では全国的に見て、都市部では従来の稲作と畜産は劇的に減少し、付加価値のより高い野菜や果物などへの転換が起こっている。都市農業作物の消費者は環境に優しい生産物への関心が高いため、都市での生産・消費ネットワークの設立は経済的機会を創出すると同時に持続可能性にも貢献する。横浜ブランドや金沢の加賀ブランドのような都市のブランド商品や、消費者への直接販売の形態は、まだ全国的に普及はしていないものの、既に確立されたメカニズムである。

革新的金融メカニズム:都市の生態系サービスと生物多様性に対する支払い —  市場に影響されない環境商品やサービス提供に対する経済補償はグリーンエコノミーを可能にするための革新的メカニズムである。それらの支払いスキームは特に都市や農業に特化して設立されたわけではないが、これにより都市農業による地元の生物多様性と生態系サービスの提供者としての役割を強化し、クリーンで生物多様性を守る生産方法へ転換するためのインセンティブとなるだろう。都市農業の規模と生産量における重要性や、現在問題となっている人口分布による脅威を考えると、生物多様性と生態系サービスを向上し、経済的機会も創出することはウィンウィンの解決策といえる。2010年名古屋での生物多様性条約COP10で採択された「生物多様性のためのサブナショナル政府、都市その他の地方自治体に関する行動計画」のような新たなガバナンス機構がこのような転換を可能にする。

都市農業のための都市再生と政治的勢い —  不十分な都市計画メカニズムのもとで急速に発展した多くの日本の都市には、ビルやコンクリートの道路の間をぬってモザイク状の緑が散りばめられている。全国の各都市では、環境を向上し健全性を増大する都市景観を目標にした都市再生政策が策定中だ。このような状況の中、特に工業化の進む大都市や都市の中心地において都市農業は強く必要とされている緑を提供することになるだろう。国のレベルでは日本の環境戦略における都市農業の重要性が最近になって見直されている。

グリーンノベーション —  日本のような技術大国には、グリーンイノベーションのための資質は存分にある。都市居住者が畑を耕せる屋上庭園から、公共のビルの断熱に使われる食用植物の緑のカーテン、コンピュータベースの屋内菜園に至るまで、新たな都市農業の形態が現れてきている。技術的可能性と伝統的農業と食文化に根ざす持続可能な農業の原則を結びつけることにより、日本は都市農業のイノベーションにおいて先頭を切り、やがて他国がそれに倣うことになるだろう。

日本では都市農業は国の農業セクターにおいて重要な要素であると同時に、欠かすことのできない都市空間でもある。都市が生態学的、社会経済的に利益を最大限に発揮できる総合的な政策が立てられれば、地元の生態系サービスや生物多様性は増し、フットプリントは減り、都市農業はその住民の持続可能性と健全性に大きく貢献することだろう。

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住み心地の良い都市のための都市農業 by ラケル・ モレノ・ペナランダ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

ラケル・モレノ・ペナランダ博士は国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニットのリサーチフェローである。主な研究領域は、都市と農村における持続可能性と幸福の関係に注目した、持続可能な自然資源の管理である。彼女はコンサルタント、アドバイザー、リサーチコーディネーターとして、地方自治体や国際的な環境NGOや市民社会組織や多国籍開発機関との多くの経験を持つ。母国スペインでは生物学で学位を修め、カリフォルニア大学バークレー校ではエネルギーと資源の博士号を修得した

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