気候変動に強い
ラモンの木

地球規模の気候モデルは、中米では今後数十年に気温が上昇し、次第に乾燥していくことを示している。降雨量が減り、水分ストレスが高まり、頻繁に厳しい干ばつが起こるという。人口増加と気候変動により自然資源への需要が高まる一方、生態系の劣化により水不足と食料不足はますます深刻となり、脆弱な立場にある人々と地域の生活環境を悪化させるという。

気候変動に適応するため、この地帯全域で森林を保護し再生するための対策が必要である。不可欠な生態系サービスを確実に得られるよう、自然の水循環の管理や食料・原料の備蓄などを行わなければならない。

ラモンの木(学名Brosimum alicastrum)はクワ科に属する巨木であり、中南米全域、メキシコ、カリブ海域の海抜1500メートル以内の乾燥地帯、季節的に乾燥する地帯、湿地、拠水林に生息している。かつては豊富だったが、新熱帯区農業の登場に伴い、薪となり、一年生作物、牧草地、バイオ燃料の栽培のため伐採されるなどして、地域によっては生存が脅かされ、一部の地域では絶滅に至った。

ラモンの木は、予測されている気候変動に適応できる数少ない樹木の1つとされている(特にその出身地においてだが、他の地域でも適応可能だろう)。この木は気温が18度から32度、年間降雨量600mmから4000mmの範囲で生存可能である。岩盤の石灰岩に蓄えられている水分を吸収し、乾燥期が長く続いても葉は青々と繁ったままだ。これが浸食を防ぎ、川岸を強化し、源泉から水を絶やさずに流してくれる。農業投入材は不要で、たっぷりの落ち葉が土壌を肥やす。気候変動や異常気象に対しての抵抗力を高めるために重要な役割を果たす。

ラモンの木はクワ科に属する巨木であり、中南米全域、メキシコ、カリブ海域の海抜1500メートル以内の乾燥地帯、季節的に乾燥する地帯、湿地、拠水林に生息している。写真: Maya Nut Institute

ラモンの木はクワ科に属する巨木であり、中南米全域、メキシコ、カリブ海域の海抜1500メートル以内の乾燥地帯、季節的に乾燥する地帯、湿地、拠水林に生息している。写真: Maya Nut Institute

ラモンの木はコロンブス以前に栽培されていた。葉、果肉、種は多くの鳥(オウム、オオハシ、コンゴウインコなど)や哺乳類(サル、ナマケグマ、ネズミ、コウモリ)にとって重要な季節の食料であり、狩猟用の動物(シカ、ペッカリー、バク、シチメンチョウ、キジ、アグチ)も含めた生物多様性を守っている。

この木は植林後5年〜8年で実(マヤナッツ)が実り始める。1本の木は約100年も育つが、樹齢50年〜85年ほどで収量のピークを迎え、収穫量は年間300キロにもなる。

マヤナッツにはたんぱく質、ビタミンB、ミネラル、抗酸化物質が豊富に含まれ、その栄養価はアマランス、キノア、大豆に匹敵する。生でも干しても食べられ、干したものなら5年は貯蔵できる。ゆでたものはジャガイモのような味で、ひいた粉を練ってスープに入れたり、タマーレ、トルティーヤ、バーガーにしたりする。また干した種をローストしてひけばチョコレート味の粉末になり、飲み物、デザート、焼き菓子に使われる。

メソアメリカでラモンの木を再生

干ばつ、バッタの大発生、ハリケーンなどによる作物の不作時や、最近では1980年、ニカラグアのコントラ戦争の際に「生き残りの食料」として貴重な役割を果たしてきたラモンの木だが、現在は地元ではあまり消費されておらず、食事に占める割合は5%にも満たない

ラモンの木は建設や燃料としても優れており、採取されるゴムは医療用に、葉はたんぱく質が豊富で消化されやすいため、家畜の飼料として最適である。

Maya Nut Institute (マヤナッツ研究所、MNI)は地域の市民社会と政府機関と協力し、12カ国で地元女性にラモンの木について教育し、地域に根ざしたBrosimum alicastrum保全を促進している。女性向けMITワークショップでは栄養、調理法、加工、繁殖に関する情報を提供している。

MNIはこのほかに、プログラムを継続させ生物多様性と森林再生の影響を最小限にとどめるため、参加型の持続可能な収穫ガイドラインを開発している。MNIは収穫者と協力し、森林管理ツール(ライントランセクト法、種子生成サンプリング技術)を立案中だ。これにより女性たちは現在の森の状態をモニターし、時間をかけて比較することができる。 また収穫地の生産量を測って収穫割り当てを理解し(導入し)、野生生物に悪影響が出ないよう図ることも可能になる。

“マヤナッツ関連産業に参加すれば、女性たちは重要な稼ぎ手となる。女性の地位が向上すれば、家族全体の食と家計の安定につながり、さらに家族内、地域内で自信と社会的地位を得られる。”


写真: Maya Nut Institute

写真: Maya Nut Institute

プロジェクト地域の各世帯で家事を担う女性たちは、生態系への気候変動の影響のほとんどを背負う立場にある。つまり、このプログラムから最も多くの恩恵を受けるのは女性たちだ。マヤナッツ関連産業に参加すれば、女性たちは重要な稼ぎ手となる。女性の地位が向上すれば、家族全体の食と家計の安定につながり、さらに家族内、地域内で自信と社会的地位を得られる。ワークショップ後は多くの女性が学校へ通い、インターネットを始め、銀行口座を開設した。

現在までに534人が、アイスクリーム、パン、クッキーなどマヤナッツ関連商品を生産販売する23の小規模事業を起こした。そのうち数社は商品をアメリカや日本へ輸出している。MNIは、輸出業務を統合、認証、管理し、仲介者や外部の認証組織が仲介することなく利益が直接生産者に渡るよう女性のマーケティング組織の創設を進めている。マヤナッツは中米で5000人以上の人々に収入をもたらしているのだ。

健全な食と森林再生

現在では少なくとも20万人が、森林の保全と再生を改善してきたラモンの木(マヤナッツ)の食料としての価値と市場価値を認めている。MNIが行う1日の基礎研修の成果は明らかで、女性による生産者グループが現れ(現在23グループ)、研修を行った地域での森林再生への関心は高まっている。研修を直接行っていない地域でも同様である。

別の例としては、MNIが政府当局と共に2009年グアテマラの22校で導入した「Healthy Kids, Healthy Forests Maya Nut (健康な子供、健康な森、マヤナッツ)」給食プログラムがある。2010年に教育省はマヤナッツを毎週給食として出す法律と、マヤナッツクッキー以外のクッキーを禁じる法律を制定した。

“2010年に教育省はマヤナッツを毎週給食として出す法律を制定した。”

2001年にプログラムが開始されて以来、MNIの推測では約180万本が植林され、それによって年間400万キロ以上の収穫が見込まれる。長期的な栄養不良対策と食の確保ができ、生態系機能にとっても大きな改善策となる。マヤナッツは気候変動の影響を受ける地域にとって、トウモロコシ、ソーガム、ピーナッツ、コメなど一年生作物の代わりとなるかもしれない。

このプログラムのリスク要因としては、女性が森に入る権利を阻むおそれのある借地期間の問題、材木用の森林伐採、森林を牧草地、作物、バイオ燃料へ転換する問題などがある。ラモンの木は一度絶滅すると、再生するには苗に定期的に水をやらねばならず、放牧されるウシ、ヤギ、ブタ、シカ、ラバ、ウマにとって格好の餌にもなるため困難を伴う。

事前に促進プログラムを行い、政府がラモンの木に投資するきっかけになることが期待されている。現在、グアテマラ、メキシコ、エルサルバドル、ニカラグア、ホンジュラス、ジャマイカ、キューバ、ペルー、ハイチで植林が促進されている。女性が生産した製品に対する需要はアメリカ、カナダ、日本で高まっており、これを適切に管理すれば、マヤナッツによる農産業を維持し、農業地区の貧困を軽減し、森林保全、森林再生に結びつくだろう。

The Ecosystem and Livelihoods Adaptation Network(ELAN 生態系と生活適応ネットワーク)によるラモンの木に関するケーススタディの完全版はページ右側にある「論文のダウンロード」からご覧ください。

ELAN はCARE、国際環境開発研究所、世界自然保護基金、国際自然保護連合と提携しており、適切な生態系管理を促進し、貧しく、社会の進歩から取り残された人々の気候変動による影響への抵抗力を強めることを目的にしている。人々が気候変動の影響に適応し、自然災害のリスクを減らすための知識共有、研究と能力開発を促進している。ELANは特に脆弱な国々の科学者、政策立案者、適切な生態系管理と適応政策の統合を支援する専門家らによるグローバルネットワークを構築中である。

Creative Commons License
気候変動に強いラモンの木 by エリカ ボーマン and ポーリーン バッフル is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

エリカ・ボーマン氏はMaya Nut Institute(前身はThe Equilibrium Fund)の創設者であり、事務局長を務める。カリフォルニア大学デービス校にて農学の理学修士号を、コロラド大学ボールダー校にて生物の理学士号をそれぞれ取得した。19年間におよびラテンアメリカの研究を続けており、ラモンの木研究の第一人者である。詳しくはwww.MayaNutInstitute.orgをご覧ください。

ポーリーン・バッフル氏は気候変動と適応に関し、3年以上研究を続けている。2010年に 国際自然保護連合(IUCN)に参加、プロジェクト審査、Ecosystem and Livelihoods Adaptation Network (ELAN 生態系と生活適応ネットワーク)において6件のケーススタディについて執筆を行った。現在はIUCNにおいて気候変動に関するネットワークサポートオフィサーを務める。ジュネーブ高等研究所において国際関係の修士号を、ローザンヌ大学において環境科学の修士号をそれぞれ取得した。

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  • Rie

    温暖化に適応できる木としてはマングローブが有名ですが、ラモンの木は初めて知りました。

    それにしても、マヤナッツクッキー以外のクッキーを禁じる法律(!)を制定したグアテマラはすごい。日本政府にも、気候変動に対してこれぐらいの高い危機意識をもってほしいものです。

  • Miho Ota

    あらためてラモン(マヤナッツ)のすばらしさを感じています。日本ではグアテマヤがこのプロジェクトを普及するために、活動しています。http://www.mayanuts.jp/をご覧ください。