2017年12月上旬、コンゴ民主共和国で近年における「最悪の事態」と言及された国連平和維持活動(PKO)部隊への襲撃によって隊員14人が殺害された。
1993年にソマリアの首都モガディシュで起こった戦闘以来、最多の死者数を出した今回の事件によって、現在までに数百人を数えるコンゴでの国連PKO隊員の死者数が更新された。
国連当局は事件後直ちに、12月8日に発生したこの襲撃について、コンゴ東部における近年最悪の虐殺事件の一部に関与した反政府武装勢力・民主勢力同盟(ADF)によるものとの見方を示した。
2015年以降、国連平和維持活動の1つであるMONUSCO(国連コンゴ民主共和国安定化ミッション)は、コンゴ軍との一連の共同戦闘活動の中で戦闘ヘリコプターや重砲を配備し、数百人規模の部隊を展開させながら、武装勢力ADFの無力化を図ってきた。
こうした活動は2017年の大半において休止状態となっていたが、国連安全保障理事会が襲撃犯への正当な裁きを求めたことにより、対ADF作戦の再開に向け、国連に対しさらに強力な圧力が掛かることになる。
このような動きは、国連が今回のような襲撃に対して迅速な対応が可能であるという印象を与える一方、コンゴ東部に暮らす住民やPKO部隊にとっては、ほぼ間違いなくより危険な状況がもたらされることにもなる。
コンゴでの暴力の増大には、選挙の未実施とジョゼフ・カビラ大統領の退任拒否という背景が直接的に関係している。全国的なカビラ大統領の支持率は急落し、支持率が10%を大きく下回っているとする世論調査もある。
カビラ大統領の退陣を求める声は各地に広がりさらなる拡大を見せているが、政府はますます残忍な弾圧的手段を使って権力維持を図っている。実際に、カビラ政府の治安部隊が各地で実行している行為は、「混乱と組織的暴力をまん延させるための計画的戦略」のように見える。この1年半の間に治安部隊によって殺害された人々の数はカサイ地方だけで5,000人を超えており、政府当局側は選挙のさらなる延期の理由づけとしてこの暴力行為および混乱状態を利用しているのである。
カビラ大統領への不満は増大しており、かつての支持基盤であったベニのような地域にもその不満は拡大し、最近のADFによる襲撃を受けている。ベニでは反政府デモが暴徒化し、現在は、住民が公然とカビラ大統領の退陣を求める状況となっている。
ADFはこの政治的変化に乗じようとしているものとみられ、最近の襲撃事件の一部については政治的意図のもとに行われたとの有力な証拠が存在する。その例として、36人もの民間人犠牲者を出したADFによる2016年の襲撃事件は、カビラ大統領が現場地域にある自宅に立ち寄った数時間後に発生したものであり、これは、同地で大統領を歓迎しないとの明確なメッセージであった。また、情報によれば、ADFの一部勢力は亡命中の反政府勢力指導者であるムブサ・ニャムウィシ氏の指示下にあり、同氏は反カビラ政権の機運を高めるチャンスをうかがっているものともされている。
コンゴ東部で力による権力闘争が行われていることは明白である。政府側、反政府勢力側のいずれもが、自らの優位を確保するためには暴力を使うことをいとわないという姿勢をみせている。
MONUSCOは国連平和維持活動史上初めて設置された戦闘部隊を有しており、この戦闘部隊の任務はADFなどの武装勢力の潜伏場所を追跡することである。
コンゴ東部の密林地帯における武装勢力への攻撃は高い危険性を伴うものであり、MONUSCOは初期の段階においてコンゴ軍との共同による戦闘活動の実施を決定していた。
コンゴ軍との共同活動によって危険性を軽減できるとの主張にも十分な根拠がある一方、コンゴの人々の目には、現在の政治的意味合いの強い状況下で国連がカビラ政権側につく存在として映っている。ベニにおける反カビラ抗議行動は今や明らかに反国連の様相をも呈しており、住民は政府や国連の不十分な活動への不満を訴えている。
カビラ政権軍との共同戦闘活動を実施することにより、MONUSCOはその役割において混乱をきたしており、コンゴが極めて不安定で微妙な時期にある中、自らの公平性をも損ないかねない状況となっている。
こうした事態はアフリカにおける国連PKOにとっての悪夢のごく一部に過ぎず、同地域では、度重なる保護活動の失敗や、ベニに代表される各地での「国連の活動は公平性を保っていない」との見方の拡大を背景に、反国連の感情が悪化している。
最近の悲惨な襲撃事件を受け、国連が、何年にもわたってADFの支配下で苦しんできたコンゴの国民や国連自らの保護のために、大胆な措置を講じようとすることは当然といえる。事実、MONUSCOの活動に携わった経験を持つ立場からも、国連の軍事力を総動員して襲撃犯を罰したいとの思いは十分に理解できるものではある。
しかし、ここで戦闘活動を再開させることは適切な対応ではない。これまでに筆者や他の論者が主張してきたように、ADFに対する共同戦闘活動は文民保護という点において有効でないことが証明されており、むしろ罪のない民間人や国連PKO部隊への報復攻撃を誘発しかねないものだといえる。
MONUSCOがコンゴ東部での活動範囲を縮小しようしている今、先ごろ襲撃を受けた場所のような地域を守る部隊の数は削減されるものと考えられる(実際、昨年初頭には、まさに襲撃を受けることとなった地域の隊員数が削減されていた)。
こうした流れの中にあっても、MONUSCOは戦闘活動再開への圧力に屈することなく、むしろその大規模な軍事力を文民保護にのみ向けるべきである。
現在コンゴ東部で、MONUSCOが民間人保護の任務を果たしていると考えている住民の割合は5割を下回っており、およそ半数の住民がMONUSCOは完全撤退すべきだと考えている。こうした状況の背景には、コンゴ東部の戦闘活動においてMONUSCOとカビラ政権の連携が緊密過ぎる、との印象が一因として間違いなくある。
政治的な圧力によって国内の分裂は深まり、国民への紛争被害が世界でも最大とされるコンゴにおいて、MONUSCOが今なすべきことは、最も危険な状態にある人々を守ることにすべての力を注力させることである。
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この記事の初出はThe Hillに掲載されたものである。