トルステン・シェーファー氏はドイチェ・ヴェレの記者である。
チキン、ビーフ、ポーク―—あなたの食卓に上っているかもしれないこれらの食品は果たして気候キラーなのだろうか? 近年、気候問題への関心が高まり、菜食主義の傾向が強まる中で、この議論が盛んになっている。米国の作家、ジョナサン・サフラン・フォア氏は話題の著書「イーティング・アニマル―—アメリカ工場式畜産の難題(ジレンマ)」で工場式農業経営と商業漁業を批判、この問題に対する一般の人々の認識を大々的に喚起した。
しかし、世界でも気象科学者と農業の専門家の見方はまだ定まっていない。彼らは今でも畜産業が環境に及ぼす影響の程度を明らかにしようと奮闘中だ。それでも、畜産業が有害物質を排出していることについては議論の余地はない。
その中にはまず、家畜自身からの排出物がある。たとえば牛は消化の過程でメタンガスを吐き出す。さらには、農場における化学肥料の散布から家畜用飼料の輸送、搾乳機の使用まで、畜産業全体で温室効果ガスを排出している。
そこで、これらの排出物のレベルがどの程度かを明確にすることが科学者の仕事になる。しかし、排出量を測定するのに用いる調査方法や要因がばらばらなので、結果には往々にして差が見られる。
クラウス・ブターバッハ・バール氏はドイツのカールスルーエ工業大学およびケニアのナイロビにある家畜研究所で、家畜と気候変動の関係について調査を行っているが、彼自身も、なぜ測定値にこれほど大きな違いが生じうるのかを疑問に思っている。
ブターバッハ・バール氏と彼の同僚は、世界中の温室効果ガス排出量のうち、農業に起因する割合は約3分の1だと考えている。同氏によれば、これは何度も発表されている数値である。また、デンマークの気象学者のソーニャ・フェルミューレン氏とオックスフォード大学のジョン・イングラム教授は、2012年に「Climate Change and Food Systems(気候変動と食料システム)」を発表した。この報告書は準拠すべきものとして頻繁に引用されているが、彼らもその中で、世界の排出量のうち、畜産業に由来する割合は3分の1と述べている。
ブターバッハ・バール氏は次のように述べた。「現在は3分の1が妥当と考えられます。土地利用の変化やその結果として気候に及ぶ影響も勘案されています」
たとえば、ブラジルの熱帯雨林が伐採され、大豆農場に転用されると、貴重な炭素貯蔵能力が破壊される。というのは、土壌は二酸化炭素を封じ込め、森林そのものが巨大な二酸化炭素吸収源として機能するからだ。
土地利用の変化を含めている分、このような分析はFAOの研究より踏み込んだものになっている。しかし、WWIの研究者は51%という数値をどのようにはじき出したのだろうか? ドイツの動物保護団体、The Albert Schweitzer Foundation(アルベルト・シュバイツァー・ファウンデーション)はWWIとFAOの調査の詳細な比較検討を行った。その結果わかったのは、双方が提供するデータはいずれも確定的ではないことだった。同団体の見解によると、WWIはデータを誇張していたし、FAOは視野を非常に狭く取り、しかも古いデータで作業を行っていた。
つまり、現実として言えるのは、気候に関する研究には、なおも大きな隔たりがあるということだ。多くの組織と同様に、WWIは牛が排出するメタンガスを別途計算している。というのは、メタンガスは二酸化炭素に比べて25倍も有害だと思われているからだ。しかし、WWIはあまり知られていない、どちらかと言えば不確かな要素も含めている。その中には、家畜の呼吸が地球温暖化に与える影響や土地の再植林の機会を逃した数などが含まれる。
このような要素を数値として含めるから、全体の評価がわかりにくくなるのだと言う人もいる。アルベルト・シュバイツァー・ファウンデーションの研究者は、「こうなると、可能性がありながら実現されなかったあらゆる機会を計算しなければいけないのかと思ってしまうでしょう」と語る。
ドイツでは、矛盾するデータがきっかけで、菜食主義と環境に悪影響を及ぼさない食習慣について新たな議論がわき起こっている。議論の中心には、畜産業界から排出される温室効果ガスの割合が高いことがある。
しかし、獣医で作家のアニータ・イデル氏は、家畜を気候キラー呼ばわりするのは間違っていると考えている。同氏の言葉を借りれば、何千年もの間、土壌の産出力に貢献してきた牛は「ランドスケープの庭師」だ。それに、言うまでもなく、牧草を利用すれば、腐植土が生みだされ、二酸化炭素を封じ込めることができる。
イデル氏は「家畜が気候に及ぼす影響に関する研究はほとんどが非科学的です」と語る。同氏が批判するのは、多くの研究者が問題の一面にしか目を向けていないことだ。
イデル氏は、持続可能な畜産では、合成化学肥料を使わず、飼料としては穀物、大豆、トウモロコシではなく、牧草を活用していることを強調する。同氏は「さまざまな畜産業のシステムの比較研究をさらに行うことが強く求められています」と言う。
実際は、イデル氏によると、家畜が環境に及ぼす影響は、気候問題ではすでに憎悪の対象である工業的農業の枠組みの中で専ら論じられている。工業型農業の問題の例として同氏は、亜酸化窒素を作り出す合成窒素肥料は二酸化炭素に比べて300倍も環境に有害だと語った。
イデル氏は次のように述べた。「それにもかかわらず、メタンだけを槍玉に挙げるのは利得によるものであり、持続可能な農業を不当に扱うものです」
クラウス・ブターバッハ・バール氏によると、答えはシンプルだ。「畜産業界は変わらなければなりません。なぜなら、あまりにも多くの家畜が、あまりにも頻繁かつ集中的に牧草地を食い荒らしているからです。そのようにして劣化した土地はもはや二酸化炭素を封じ込められません」
「そこから脱却しなければなりません。たとえば、日々の生活で肉ばかり大量に食べるのをやめる必要があります。バランスのとれた食事は私たちの身体にも気候にもいいのです。お皿からはみ出すほどのシュニッツェルはいけません。理屈をこねることはありません」
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本記事はOur World 2.0のパートナー、ドイチェ・ヴェレのご厚意により、Global Ideasから転載させていただいています。
翻訳:ユニカルインターナショナル
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