農産物不足と食糧高騰に苦しむアフリカ大陸にとって、食糧安全保障は死活問題である。人間活動が引き起こす気候変動は、農業生産力の低下に拍車をかけており、情勢を不安的にしている。
また、アフリカでは環境の持続可能性が確保されていないのが現状だ。環境の管理者として農家が受け取る金額は僅かで、彼らは土壌、水、生物多様性に悪影響を及ぼす技術を使い続けている。
このように複雑な難局を乗り越え、拡大する飢餓を食い止めるにはどうしたらいいのだろうか?開発のための農業科学技術の国際的評価(IAASTD)の2008年農業評価では、食糧不足と環境悪化の打開には、国際協力が不可欠だと提唱している。
この報告書はIAASTDと連携する400人の科学者が作成したもので、農業のあり方を即座に変える必要があると指摘している。世界が人口増加や気候変動に対応しつつ、貧困や飢餓を乗り越えていくためには、食糧生産方法を抜本的に変えなくてはならない。
このメッセージは、政策立案者たちの耳にも届いているはずだろう。今年の世界経済フォーラムで、日本政府は自国の環境技術をアフリカに提供する用意があると発表した。そして洞爺湖サミットでもG8首脳は、近年減少傾向にある国際援助と農業分野での投資増額を訴え、食糧不足に苦しむ国々に100億ドルの援助を表明した。
このような措置はアフリカにとって重要である。しかし、農業と食糧安全保障に関する諸問題は複雑で、経済要因と社会的影響が絡み合っているため、今後もアフリカは多くの課題を抱えていくことになるだろう。それらの課題に着手するためは、まず諸問題を十分に理解する必要がある。
農業と経済成長
農業はアフリカ経済の中心である。アフリカでは従来、農業から工業分野への資本移転を経済発展と位置づけてきたため、農業は個別分野として捉えられている。しかし、この考え方は重要な点を見落としている。
アフリカの国内総生産(GDP)の大半を占める農業は、アフリカ全体の収入の約3分の1を支える。中央アフリカ共和国、エチオピア、コンゴ民主共和国のような国々では、農業がGDPの54%までに上る。耕作地と放牧地が重要な役割を果たしており、良質な土壌は持続可能な経済成長には不可欠である。
また、このように自然資源が重要な役割を果たす場合には、物価上昇の循環には特に注意が必要である。飼料、食糧、バイオ燃料の需要の高まりに加え、食糧備蓄の減少、生産性の低下も、食糧高騰を招いた要因だ。食糧価格は、2007年の1年間だけで20%も上昇した。
2000年以降、小麦価格は3倍に、トウモロコシと米は2倍に跳ね上がった。値上がりはすでに食糧安全保障や貧困層の生活に打撃を与えている。食料価格が1%高騰すると、途上国では食費が0.75%の割合で減少している。
アメリカのような先進国では、食費が全体収入の10%に過ぎないが、サハラ以南のアフリカではその額は60%に上る。
多様な課題
このまま低投入型農業を続け、農地荒廃が拡大すれば、土壌の潜在的生産性を向上することはできない。農地荒廃と人口増加が進めば、アフリカは2025年までに全体人口の25%しか養うことができないだろう、とガーナに拠点を置く国連大学のアフリカ天然資源研究所のカール・ハームセン所長は警鐘を鳴らす。
しかし、土壌の劣化やミネラル流失に加え、土壌栄養分の流失を招いている外的要因もある。近年、窒素肥料が値上がりし、小規模農家の手には入らなくなった。その他のさまざまな要因から(輸送費高騰、脆弱なディーラーネットワーク)、アフリカの農民は、世界市場の平均価格の2倍から3倍もの高値で購入せざるを得ない状況にある。
このようなマイナス面を念頭に置くと、アフリカ農業の課題は、増え続ける人口(年率2.4%)の食糧需要に応じて生産性を向上することでなく、革新的なやり方で肥料不足問題を解消することにあることが見えてくる。今後、生産性を維持するための農地利用法を綿密に考案する必要がある。
さらに、アフリカ農業の95%は雨水に依存していて、農家は気候の変化や変動の影響を受けやすい。食糧生産は、より一層の乾燥と水分ストレスの打撃を受け、結果的に食糧不足、栄養失調が深刻化している。
ある報告の推測よると、気候変動の影響で1990年から2008年までの間、サハラ以南のアフリカ地域で栄養不足人口が3倍に増加しているという。
さらに環境劣化には、森林破壊の問題もある。1990年から2000年までの間に、5200万ヘクタールの森林がアフリカから消失した。これは年率0.8%、世界の森林消失面積の56%に値する。エンサイクロペディア・オブ・アースによると、この10年間で熱帯林の約60%が伐採され、小農地に転換されている。
これらの予測は、気候変動に対し脆弱な国々が、食糧安全保障問題だけでなく社会安定の面においても深刻な脅威に晒されていることを物語っている。ソマリア、中央アフリカと西アフリカの一部の地域で起きた、食料の価格上昇に反対する激しい暴動は、今後の社会不安と武力衝突の可能性を示唆している。
行動を求める声
気候変動は穏やかなプロセスであることから、開発政策の延長として、革新的な適応対策を整備する余地が残されている。
今後、調査を進めるべき政策措置は次の通りである。水、環境サービス市場の創出、農地生産性と農業生産性向上のためのR&Dへの投資、災害復興と災害管理の強化、社会的セーフティネット(干ばつ保険など)の構築。
高騰する食糧価格は、アフリカ諸国の農業にとって有利に働く可能性を秘めている。肥料や燃料といった原材料へのアクセス改善と政府援助を受けることができれば、自給自足農業から商業農業へと移行することも可能である。
「Earth Instituteは、食糧価格が高騰している今、アフリカ諸国は全力を尽くして、食糧生産を増産すべきだと述べている。マラウイ政府は、農業原材料を支援することで、種や肥料の助成プログラムを廃止することができた。今アフリカで必要とされている緑の革命を起こすことも夢ではない。」
謝辞
共同執筆者のクラリス・ウイルソンに感謝。
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関連リンク:
Soaring food prices put pressure on African agriculture
FAO: The World Food Situation
Reuters: Agflation – The Real Cost of Rising Food Prices