子供の目から見た気候変動

国連の報告書を含む学術的研究は、研究者の視点から報告される傾向が強く、本来それらの研究が調査を通して支援されるはずの脆弱なグループの視点を十分に反映していないと批判されることが多い。しかし、国際連合児童基金(UNICEF)の新たな研究は、5カ国の子供や若者との面接調査を通じて、気候変動の問題を子供の目で見ようと試みている。

東アジアと太平洋地域に主眼を置いた、Children’s Vulnerability to Climate Change and Disaster Impacts in East Asia and the Pacific(東アジアおよび太平洋地域の子供たちの気候変動や災害に対する脆弱性)は、インドネシア、キリバスおよびバヌアツ、モンゴル、フィリピンという4つの対象地域で行われた調査の結果報告である。1975年から2008年までの間に災害に見舞われた人々の88パーセントはアジア・太平洋地域に住んでいるため、この調査が注目した地理は適切である。また、気候変動は全地球的な問題であるため、調査結果はどの地域にも関連性がある。

調査の目的は、「気候変動と災害が子供に与える影響には、顕著なパターンや傾向」があるかどうかを調べることだった。子供たちは実際に気候変動を体感しているのか? それとも年齢が低いために、気候変動のことを教科書で読んだり、テレビで見たりするだけだろうか? あるいは、より重要なことだが、彼らは自分たちの親とは違う感覚で気候変動をとらえ、問題に対処しようと駆り立てられているのではないか?

子供の脆弱性

こうした疑問への答えを考える前に、気候変動の影響を受けやすい子供の人数や、なぜ大人よりも子供の方が気候変動の影響を受けやすいのかを考えることが重要だ。

「未来の子供たちが気候変動の被害を受ける」という決まり文句をよく耳にする。しかし、今日の子供たちはどうだろうか? UNICEFによれば「気候変動の影響」が原因で自然災害の被害に遭った子供の人数は、1990年代後半には推計で年間6650万人だったが、次の10年間で年間1億7500万人に増加したという。

気候変動の影響が原因で自然災害の被害に遭った子供の人数は、この10年間で年間1億7500万人にのぼるという。

この調査は要約すると、気候変動に対して子供は特に繊細である点を強調している。その理由は、子供たちは「生理学的および代謝的に、高温やその他の気候に関連した影響への適応能力が大人より低い」からだ。より特定的には、子供たちは「生理機能と免疫システムが未発達なので、空気や水の質、気温、湿度、生物媒介性の感染症に特に敏感である」。

こうした結論を導き出すにあたり、UNICEFは気温や降水量の変化と、マラリアやデング熱やコレラといった病気による子供の死亡数の増加との関連性を示す様々な疫学的研究を参照した。例えば、保健関連の研究は、暑い日と子供の入院件数の関連性を指摘している。対象地域の気温が2030年までに0.5~2度上昇するという仮説を考慮すれば、保健機関へのプレッシャーは増す一方であろう。

UNICEFの研究で注目に値する特徴の1つは、「自信喪失、不安、不眠」など、災害がもたらす社会的および心理的影響について言及した点だ。こうした問題への対処に関する追跡調査を行い、「X問題に着眼した政策の強化」といったよくある提案ではなく、家族、コミュニティー、市民社会支援システムを通じた対処法を調査すれば、興味深い結果が得られそうだ。

本研究は、自然災害が起こった場合、大人より子供の方がケガや死亡につながりやすいというかなり明白な点を指摘している。しかし、それほど明白ではない子供の生活への影響も面接を通じて明らかになった。その1つに、教育投資への影響がある。

例えば、バヌアツとキリバスの親たちは、極端な天候に見舞われた後の片付けや復興作業を子供たちに手伝わせるために、学校に通わせられなくなる傾向がある。こうした常に存在し続ける現実に適応した教育政策を形づくるという課題は、キリバスのような小さな島国では一層難しい。学校のように子供が頻繁に訪れる場所のほとんどが、海岸近くにあるからだ。

実際のところ、気候変動に関する政府間パネルによると、気候変動と極端な天候事象のつながりは、かつてないほど強いという。同パネルによる新しい概略報告(最終報告は2012年3月にまとめられる予定だ)が、南アフリカで最近開催された第17回気候変動に関する国連枠組条約締約国会議と、あえて同じ時期に発表されたことは間違いない。

しかし、メディア・マターズのジル・フィッツシモンズ氏がThinkProgressに寄稿した記事で強調しているように、アメリカの主要なテレビ・ネットワークは同報告をほとんど完全に無視している。

子供の目を通して見る

では、子供と若者にインタビューをして何が分かったのか?

インドネシアでの一次調査では、子供たちは少なくとも環境や自然災害の影響を認識していることなどが明らかになった(当然のことながら、気候変動と自然災害の複雑な関係を理解しているかどうかは明らかではない)。インドネシアの農村部で調査対象となった子供たちの20パーセントは「洪水や干ばつに伴う農作物の不作」のせいで学校を辞めざるを得なかった。一方、都市部の子供たちは干ばつの影響を農村部の子供たちほど意識していないが、洪水に関する体験を報告している。

インドネシアのジャワ島東部の農村の子供は、気候の変化と、食料安全保障や経済のつながりを次のように語ってくれた。「雨量が多いためにトウモロコシ畑の栄養状態があまり良くありません。つまり作物が不健康になって枯れてしまうということです。トウモロコシが枯れれば、地方の人々は経済的に苦しい状況に置かれてしまうでしょう」(残念ながら、実際の報告書に掲載されたインタビューで、これほどパワフルで有益な発言はあまり多くなかった)

インドネシアの子供たちの体験とは対照的に、太平洋に浮かぶキリバスやバヌアツの島々に住む子供たちは、海面レベルの上昇によって家を失う不安を語ってくれた。また、モンゴルの子供たちは「干ばつと厳しい冬のせいで家畜を失うこと」について話している。

子供たちはすでに、自身の体験や、環境から学んだことに基づいて、気候条件の変化による環境の変化を報告している。

子供たちの体験は、それぞれの国の気候によってそれぞれ異なるが、同報告は全体として次のような結論を導いている「子供たちはすでに、自身の体験や、環境から学んだことに基づいて、気候条件の変化による環境の変化を報告している」

子供たちは気候の変化をすでに体感してきたと言えるほど年齢を重ねてはいないかもしれないが、プラン・インターナショナルなど諸団体は、彼らは気候変動の影響について彼らの親よりもよく知っていることが多いと主張している。恐らく、政府が気候変動と災害リスク削減に関する教育を学校教育に取り入れた(あるいは取り入れ始めている)結果だ。

そういった教育が学校のカリキュラムにどの程度広まっているかは不明だが、フィリピン、タイ、インドの教育の例が報告書で取り上げられている。同報告書が指摘するように、子供たちを教育しようとする意志はあるにせよ、こうした国々の多くは教育政策を効果的に実行する制度的能力が今でも欠如している。

国連の報告書の結論を読み終える頃には、やるせなさと無力感を感じることが多い。しかしこの報告書は、子供たちが気候変動の問題を親とは異なるとらえ方をしていると結論づけている。大人と違って子供たちは「熱意を持って」気候変動への対処についてすでに語っている。例えば、インドネシアで面接した子供たちのほとんどは、自分のコミュニティーを守るために「何か具体的なこと」をやる意欲を表していた。

当然ながら、これは数カ国で行われた小さな調査でしかない。しかし今回得られた結果は一筋の希望を与えてくれる。つまり、気候変動に真正面から取り組むには、今日の大人より未来の大人の方が適任だという希望だ。その理由を、同報告書は次のように結論づけている「子供時代に環境やコミュニティーの意識をすでに身につけている彼らには、未来の社会を守るのに必要な基礎が大人になった時にはすでに備わっているのだ」

翻訳:髙﨑文子

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。