ロバート・サンドフォードは国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)でEPCOR水の安全保障研究チェアを務めています。
2020年という年は、この先永遠に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)が発生した年として人々の記憶に残るだろう。しかし同時に、2次的な気候変動の影響が急増した年としても歴史家に認識されるようになるかもしれない。
世界気象機関(WMO)が4月に発表した最新の「地球気候の現状」報告書にあるとおり、よく知られた1次的な影響とは、現在継続中の陸と海の温度上昇、海氷と氷河の融解、海面上昇、降水パターンの変化のことだ。
また、2020年には気候変動の影響による10年来の問題が続き、特にアフリカやアジア、さらには南米、米国にも干ばつ、熱波、山火事、サイクロン、洪水などが広範囲に発生したした。
これらはすべて2次的な影響をもたらし、食料不足の拡大と世界各地で強制的な移住や移動の爆発的増加を招いた。
2010年から2019年にかけて、気象関連の事象が引き金となって推定で年間平均2,310万人が強制的な移住を余儀なくされた。そして2020年前半には、主に水文気象ハザードと災害によっておよそ1,000万人が避難した。
移動の大半は国内で発生しているが、国境を越えた移動も起きている。
今年で25周年を迎えた国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)は、環境悪化を現代における最大の環境問題の1つとして最初に取り上げた国際機関の1つであり、環境が悪化した故、国を追われた人々の大移動が一世代のうちに起こると2007年という早い時期に警告していた。
当時、政府の各レベルでの政策改革のための解決策として、政府省庁間での政策の調和、国境をまたぐ河川流域の地域管理への取り組み、そして国際的には、国際条約の成果のさらなる統合などがあった。
人々は、気候関連の災害によってはるか昔から移動を余儀なくされてきたが、現在は、水文気象現象によって引き起こされる避難状況の多くが長期化している。人々はかつて住んでいた場所に戻ることもできず、地域に溶け込んだり、どこかほかの場所に定住したりするといった選択肢もなくなる。
結果的に、恒久的な避難生活を送る気候難民が増えている。
例えば、モザンビークは「ケネス」と「イダイ」という2つのサイクロンに立て続けに見舞われ、国の発展が数十年遅れた。そしてモザンビークは、度重なる気候ショックにより恒久的に避難生活を送らざるを得ない可能性のある人々がこれまでになく増えている数多くの場所の1つに過ぎない。弱い立場に置かれる多くの移動者は、理由の如何を問わず、様々な規模の気象・気候危機にさらされるリスクの高い辺境地に最終的に定住する。
気象危機と人間の流動性は、それより大きな社会的・政治的緊張や紛争と必然的に交差するため、マルチハザード型防災対策の調整や積極的な実施が困難になる。
世界保健機関(WHO)が明らかにしたように、こうした状況を打開する唯一の方法は、「WHO災害・健康危機管理に関する枠組み」で概説されているように、リスクに基づいた全社会的アプローチを適用することだ。
また、同報告書は食料不足、強制移住、グローバルな人道支援活動の限界に対する気候変動の複合的な影響も明らかにしている。そして、見て見ぬふりをしてきた問題がまさにこの分岐点で顕在化する。
2019年には、世界人口の9%に当たる6億9,000万人が栄養不良に陥り、10%近くに当たる約7億5,000万人が深刻なレベルの食料不足にさらされた。危機的状況、緊急事態、飢餓状態にあると分類された人々の数は55カ国で約1億3,500万人に達した。
2020年には、5,000万人が気候関連災害とCOVID-19のパンデミックによる農業部門と食料サプライチェーンの混乱の両方に見舞われ、食料不足、栄養失調、栄養不良のレベルが上昇した。
パンデミックに関連した移動制限や経済低迷により、弱い立場に置かれた移動者への人道的支援や、それ以前の気候ショックによって人生が保留状態になってしまった人々の回復を支える取り組みが遅れている。
人類は2020年に最悪の事態に直面したが、その状況は今も変わらない。
そして、さらなる暗雲が立ち込めている。哺乳類や鳥類が持っている何十万ものウイルスが人間に感染する可能性があり、COVID-19より常習的で致死率が高く、拡散しやすく世界経済へのダメージがさらに大きなパンデミックを発生させるかもしれない。
そうした病気は、水域および陸上の生態系の変化や生物多様性の喪失と関連している。都市化の拡大、湿地や氾濫原の干拓、森林から農地への転換などにより、異なる生息地にいる生物種の間の相互作用が増加しつつあり、動物から人間への動物由来感染症(ズーノーシス)の伝播が起こりやすくなる。
持続不可能な自然資源の開発・管理の慣行をなくし、リスクを低減してパンデミックを防ぐコストは、そうしたパンデミックに対処するためのコストの1/100と推定される。
人々は移動を頻繁に繰り返すことを強いられ、1つのショックと次のショックの間に回復する時間がほとんどない。こうした状況は、災害への備えや管理に影響するだけでなく、レジリエンス(回復力)を育む解決策が必要なことも意味している。そうした解決策を早期に得られなければ、一度難民になってしまうと恒久的にその状態が続いてしまい、いつまでも複合的なリスクと脆弱性を抱えて生きることになるかもしれない。
移動を回避または最小限にするための条件を整え、人々が今いる場所にできる限り安全に留まれるようにして、尊厳ある移住の利点を見据えたり活用したりするには、人の流動性に関する政策と協力のためのプラットフォームを近代化する必要がある。これには、COVID-19後の世界を見据えて様々な決断を各国が下そうとしている今がふさわしい。
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この記事は最初にInter Press Service Newsに掲載されました。
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