南アフリカはサハラ以南アフリカ最大の経済国であり、その成功と失敗は周辺地域に波及します。現在、南アフリカ国民が高い失業率と経済の停滞に直面する中、 政策立案者は公債の増加を抑制し、根強く残る不平等を克服し、かつ地域経済統合を促進するための解決策を用いて、成功を導こうと努力しています。
しかし、システム全体の解決策に寄与しうるデータの不足によって、包摂的な成長 — アフリカで持続可能な開発目標(SDGs)を実現するための経済的支柱 — を目指す政策が妨げられる恐れがあります。
2018年、国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)は、「Southern Africa — Towards Inclusive Economic Development(南部アフリカ — 包摂的な経済開発に向かって)(SA-TIED)」というプロジェクトによって、こうしたデータ不足の解消を目指した研究に着手しました。
南アフリカ政府、国際食糧政策研究所、UNU-WIDER の共同事業であるこのプロジェクトは、より包摂的な成長に向かう道筋を明らかにし、南アフリカで現在最も喫緊の問題に対処するよう政策改革を導くためのものです。
南アフリカ政府省庁、南部アフリカの研究機関、国際研究機関の職員を結集させて、政策立案と研究インターフェースのあらゆる側面に関して、データの管理と研究のための能力開発を目指しています。
SA-TIEDは、現地の政策立案者の最新のニーズに合わせて研究を進展させることを目的として考案されました。そのため研究事項は、南アフリカ経済の一部重要課題の克服において中心的役割を担っている「South African Economic Sectors, Employment, and Infrastructure Development Cluster(南アフリカ経済セクター、雇用およびインフラ開発クラスター)」の職員と協力して策定されています。
現在のところ、SA-TIEDの研究論文の3分の2以上に南部アフリカの著者が含まれており、その多くは南アフリカの貿易産業省や財務省、南アフリカ歳入庁(SARS)の職員です。財務省職員のキャサリン・マクラウドは、この共同投資がプロジェクトを「成功させるための鍵の1つ」であると指摘しています。「SARS、財務省、その他の関係省庁が、このプロジェクトが機能する構造を確立するために本格的に関与しました」
このプロジェクトはUNU-WIDERの過去最大の共同事業であり、幅広い政策関連テーマについて、150本以上の研究論文を作成する予定です。そして、将来の研究が拠り所とするデータセットと経済モデルを改善・開発します。また、政府の技術職員に対して博士課程研究の資金を助成し、地域の経済政策立案者のスキルと能力の強化に貢献します。しかし全体としての目的は、最新の研究を政策立案者に提供することです。
この取り組みのほとんどが、より広範な国民に雇用を創出する包摂的な経済と、根強い不平等に対処しながらも、国の財政需要を満たせる税制度を構築するためのものです。たとえば、SA-TIEDの研究では、企業の成長と雇用の創出に寄与する要因を分析し、国庫歳入と、南アフリカの税と社会移転に関する制度の効率を調査しています。
南アフリカ財務省審議官代理のダンカン・ピーターズは次のように述べています。「最終的には政策に関連する話となります。政策が一般の南アフリカ国民の生活にどのように影響を与え、将来の成長に有意義な貢献ができるのかということです。適切なデータがなければ、こうした問いに答えることができません」
「すべての世帯に働ける人がいるわけではありません。だからこそ、社会的セーフティネットが必要不可欠です。社会プログラムを実現するための 資金集めには、税収が重要となります。そこで、私は税と給付金に関するマイクロシミュレーションモデルをつくり、このいわば特注のツールを使って、開発途上国における社会保障拡大の影響を吟味することが できるようにしていきます」 ユッカ・ピロティラ UNU-WIDERリサーチフェロ―
プロジェクトのほとんどは、研究者が企業と世帯に関する粒度の細かいデータに幅広くアクセスできるかどうかに左右されますが、そうしたデータは最近までアクセスできず、機密として保護されていました。しかし、UNU-WIDER、SARS、財務省による継続的な協力の結果、南アフリカは保護された匿名の税データを研究者が利用できる、世界でも数少ない、アフリカでは唯一の国になっています。
それによって歴史的な知識への扉が開かれ、プロジェクトは「政府の政策を評価し、ゆくゆくは政策を振り返りどのような影響が あったかを理解し」、また「『そうしたプログラムを再設計して、これらの資源をもっと有効に活用するにはどうすればよいか?』を問う」ことができるようになるだろうとピーターズは述べています。この取り組みにより、政策改革、困難な政策課題へのより的確な対処法、焦点を絞った解決策のための下地が作られるでしょう。
予定されている150本の論文のうち25本が発表されており、それらの研究は早くも南アフリカで影響を与えています。SA-TIEDの2本の論文が、週刊誌フィナンシャル・メールの独占記事で取り上げられ、2018年12月にトップニュースになりました。南アフリカでは、国家財政の約70億南アフリカランド(約5億米ドル)が、毎年タックスヘイブンに消えているのです。これらの論文は、新たに利用可能になったデータをいちはやく活用して、世界のタックスヘイブンが開発途上国の歳入に与える影響を検証しました。
研究者たちは、税務機関のデータ分析能力を向上させて、最大規模の企業に焦点を絞ることにより、不正な貿易価格設定によって失われる約10億南アフリカランド(約7,000万米ドル)のほとんどを防ぐことができると考えています。それは歳入として、南アフリカが財政収支のバランスを取り、歳出を維持するのに役立ちます。
南アフリカがより健全で包摂的な経済への持続可能な軌道に乗ることを目指す中、SA-TIEDも地域貿易と経済統合における南アフリカの役割を強化する方法を模索しています。UNU-WIDERのフェローでありSA-TIEDの地域開発研究に携わるシニア・リサーチャーのジョン・ペイジは、「南アフリカがいっそうの繁栄を地域全体に波及できるような政策設計を私たちが支援できれば、すべての人に恩恵をもたらします」と説明しています。
そうした意味で、SA-TIEDのパートナーシップは、サハラ以南アフリカでのSDGs実現への推進力となります。アミーナ・モハメッド国連副事務総長は12月にヨハネスブルクで、「アフリカはSDGsの実施において世界をリードすることができます……。2030年までにSDGsを達成するのは大仕事ですが、それはあらゆる場所で、あらゆる人の能力や才能を活用する画期的で革新的なパートナーシップのための機会でもあります」と語りました。
SA-TIEDは、独自の研究パートナーシップを通じて経済革新のためのデータ基盤を構築しています。これにより国内の障壁を乗り越え、南部アフリカ全域の持続可能な開発を達成することができます。
この記事は、国連大学2018年次報告書に掲載されています。