エネルギー革新と伝統的知識

広まる猛暑。急上昇する気温。制御不能な山火事。前例のない洪水。過酷な干ばつ。このような極端な現象が当たり前になり、これこそ気候変動が進行しつつあることの動かぬ証拠だと主張する科学文献が増大している。

こういった文献の1つがアメリカの国立気候データセンターが発表した報告書「State of the Climate in 2011(2011年の気候の状態)」である。このピアレビュー誌は48カ国378人の科学者によって編纂されたもので、2011年の相次ぐラニーニャ現象(東部太平洋赤道域で海面温度が低下する現象でエルニーニョ・南方振動周期の一部)はこの地域の気候に影響を与え、年間を通し世界各地で発生している大規模な気象災害にも関わっている。

それらの災害には東アフリカ、アメリカ南部、メキシコ北部での歴史的干ばつも含まれる。他には北大西洋のハリケーン地域で平均以上の熱帯低気圧のシーズン、北太平洋東部で平均以下のシーズンとなり、オーストラリアでの2年連続最多降雨記録(2010年、2011年)などの現象も起こっている。

ワシントン・ポストに掲載された最近の論説では、NASAゴダード宇宙科学研究所のジェームズ・ハンセン所長が次のように述べている。「地球温暖化が極端な気象現象を増加させる可能性があると主張するだけでは十分ではなく、個々の極端な気象現象は気候変動とは直接的な関係はないなどという抗議を繰り返すのも不十分だ。それどころか我々の分析によれば、ここ数年の極端な暑さは気候変動が原因であるという以外に説明のしようがないのである」

エネルギー政策再考

気候変動の現実とその影響とリスクに対する認識が高まる中、多くが現在のエネルギー政策について再考し、世界的気候の危機を引き起こしている従来のエネルギー源への依存を見直すようになってきた。多くの国々が温室効果ガス削減のために低炭素技術や、クリーンで再生可能なエネルギーを開発しているものの、BP社の『BPエネルギー統計2012年版(Statistical Review of World Energy 2012)』に述べられているように化学燃料が現在も主要なエネルギー源である。以下報告書から引用。

「高い成長率にも関わらず、再生エネルギーは今日のエネルギー消費のごく一部を占めるのみである。再生可能な電力発電(水力を除く)は世界の電力発電の3.3%と計算されている。しかしながら、再生可能エネルギーは電力の成長においては重要な役割を担いつつあり、2010年の電力発電の成長率の8%を占めている」

再生エネルギーとは、水力、風力、波力、太陽光、地熱エネルギー、可燃性の再生可能エネルギーおよび廃棄物(埋立地ガス、廃棄物焼却、固形バイオマス、液体バイオ燃料)を指す。

西洋で「資源」と呼ばれるものを、私たちは「親類」と呼ぶ。” author=”オノンダンガ国酋長 オレン・ライオンズ

再生可能エネルギーの成長が重要な突破口を示す一方で、これら代替エネルギーの収穫において適切な計画が立てられていなければ深刻な環境的・社会的影響があることを決して忘れてはならない。特に地元や先住民コミュニティにおいてである。それでも、化学燃料から再生エネルギーへの転換は、低炭素社会への移行にあたり、中心的なものとならなければいけない。

先住民族と代替エネルギー

多くの先住民族の領土には膨大な風、太陽光、バイオマス、地熱資源があり、エネルギーに関連した気候変動緩和策が先住民族や地域のコミュニティに肯定的な影響を与えているのか否定的なエネルギーを与えているのかに関しては様々な意見がある。リサーチによると、問題となるのは先住民族が代替エネルギーの開発や導入の過程で、それに参加できない、相談もされないという場合だ。
例えばグアテマラでは、巨大な水力発電計画が行われ、マヤ族のコミュニティが土地を追い出された。

「クリーンエネルギーだとは分かっています」とイシリ族のフェリぺ・マルコス・ガジェゴ氏は言う。「しかし、資源が平等に配分されなかったり水力発電の恩恵を得られないのは困ります。先住民のコミュニティは森林保護、水分発生、下流の水力発電に貢献しているのですから。これはイシル族の尊厳に対する冒涜(ぼうとく)ですよ」

似たような状況はメキシコでも見られると国際インディアン条約会議のソール・ヴィンセント・ヴァスケス氏7は言う。「問題は、このような再生エネルギーの開発段階が先住民族コミュニティと共有されていないことです。彼らはその過程に参加することができず、領土の資源は一方的に使われるだけで利益は何も得られません」

フィリピンやマレーシアなどでも数多くの先住民族がバイオ燃料プランテーション拡大のため、土地を追放されたり、村人が持続可能な森林と気候の良い未来を守る闘いを行ったりしている。

だが適切に導入されれば、再生エネルギープロジェクトは伝統的な暮らしを守り維持することに役立ち、地元の雇用を促進する。例えば北米では、再生可能エネルギーに対する需要増大(風力、水力、太陽エネルギー)により、先住民族の土地や領土はそのようなエネルギーの重要な資源となっている。化石燃料由来のエネルギーを代えれば温室効果ガス排出が削減され、先住民族にとっての経済的機会が創出される。

エネルギー主権がコミュニティを活性化する

その一例として、アメリカ南西部のナバホ国は、コミュニティ活性化の戦略の一環として風力発電の実現性評価を行っている。COUP(北米のグレートプレーンズ北部にわたる3州で10の部族を代表する部族間公共事業政策理事会)のボブ・ゴフ氏によると、部族が所有する再生エネルギーによる発電は社会・経済の発展に貢献し、同時に炭素排出も削減する。

歴史的には、増加するエネルギー需要に関して、この地域の部族はひどい目に遭ってきている。ミズーリ川では、水力発電と下流のコミュニティに洪水制御の恩恵を与えるダムのせいで、上流の部族は何度も洪水の被害に遭ってきた。

ゴフ氏はこう話す。「先住民にはダムが与えられません。彼らに与えられたのは貯水池でした。ダムは洪水制御のため建設されましたが、先住民には貯水池しかないのです。これではずっと洪水の影響を受け続けることになります」

しかし現在の風力による代替電力開発は、グレートプレーンズでの次期エネルギー開発において、地域コミュニティ参加を大いに促すものとなっている。その多くの部族代表者は部族の風力を環境正義の問題だと位置づけている。1995年以来、ローズバッド・スー族とその他のCOUPの部族は、自分の保留地の風力の実用規模の開発を行ってきている (数百ギガワットの可能性が期待されている)。そして、大規模分散風力発電との統合を行い、連邦政府の水力発電力送信網への依存を減らすよう努めている。

COUPプランはまた、先住民族保留地における持続可能な部族経済を築くための実行可能な方策として、部族所有の分散風力発電開発を支援している。先住民族保留区はアメリカのどの地域と比べても家に電気がない割合が10倍も高い。風力を生かせば保留区内のエネルギー需要を満たすことができ、クリーンエネルギーが得られるだけでなく、自らの誇りと自立心を養うだろう。さらに風力エネルギーは何万人もの人々が居住する20の失業率の高い保留地に新たな安定した雇用を創出するはずである。

さらに、電力が国の送電網に売り戻しできれば、収入を得られる可能性もある。アメリカでは先住民の土地は陸地の5%に過ぎないが、風力はアメリカのエネルギー生産全体の14%にあたる電力を生み出す可能性がある。

「(地域のコミュニティは)そのようなエネルギー主権とエネルギー自足の価値を認識しています」と最近開かれたケアンズの気候緩和会議でゴフ氏は説明した。

「私たちは今、先住民の国で『グリーンカラー』の雇用を生み出せるかもしれないと期待しています。再生エネルギーの生産は労働集約型で、製造、建設、運営、メンテナンスの職を生み出します。例えば、240メガワットの風力発電所には6カ月間の建設作業に200人と、メンテナンス、運営に40人の永続的雇用が必要となります。先住民族国の半数以上が18歳以下です。風力タービンや健康で値段も手頃で省エネの家を建設する、良い雇用を作ろうではありませんか。そうすれば持続可能な種族の経済は、保留地の人々に質の良い仕事と健全な住居を提供することができるのです」

風力エネルギーの使用は決して新しいものではないが、このようなプロジェクトは地理的に分散したコミュニティで新たなエネルギー貯蔵を促進することができる。そうすれば、規模の経済性によりコミュニティが個別に行うよりはるかにクリーンエネルギーを前進させることができる。このプロジェクトはアメリカ以外でも、大きな風力、その他再生エネルギー資源がある広い地域の文化的に似たコミュニティを結びつける1つのモデルとなり得るだろう。

持続可能なエネルギーのパイオニアたち

先住コミュニティは人工的な気候変動に対する責任はほとんどないにもかかわらず、彼らは先進国でも途上国でも自分たちの領土でエネルギー自給できるよう、再生可能エネルギーの開発において先頭に立って活動している。

北極圏では、サーミ族はトナカイ遊牧キャンプで石油を使うのをやめ、太陽光テクノロジーに移行した。インドネシアでは、ダヤック族が持続可能でコミュニティに根ざした開発と保全を確立しようと、マイクロ水力発電を利用したクリーンエネルギーの電気を設置するプロジェクトを始めた。メキシコでは森林商品への依存を減らそうと、地域コミュニティが効率の良い薪ストーブを開発した。

インドのラージャスターン州にある特別な学校では、地方の男女(多くが読み書きが出来ない)が太陽エンジニアになるよう指導し、自給自足ができるよう支援している。1989年以来、ベアフット・カレッジは地方、遠隔地、電気のない村々を太陽電気化する活動を行ってきた。このカレッジでは、太陽テクノロジーについて分かりやすく説明し、読み書きの出来ない、あるいは多少しかできない人々に高機能の太陽光照明の製造、設置、使用、修理、メンテナンスを任せていることによってその使用方法を広めている。

カレッジでは、遠隔地の村から通うメンバーたちを「裸足の太陽エンジニア(Barefoot Solar Engineers)」 (BSEs) になってもらうべく、インドでの6ヶ月コースで訓練する。その見返りとして、裸足の太陽エンジニアらは最低5年間は自分のコミュニティで太陽光ライトを設置、修理、維持する。その後は他の地方のコミュニティへ移って太陽テクノロジーを伝授しても構わない。

ベアフット・カレッジはインド、アフリカ、アフガニスタンなどの広範囲で活動し、成功を収めてきている。そしてベアフットの研修方法と遠隔地の電化はアジアや南米でも行われるようになった。カレッジは特に読み書きの出来ない中年女性の研修に焦点を合わせている。地元の村出身の未亡人、家族のいるシングルマザーなどで、研修後すぐに都市へ移動してしまうのではなく、今後も村にとどまるであろう人々である。

「今日、世界で最高のコミュニケーション方法は何でしょう」ベアフット・カレッジの創設者サンジット・”バンカー”・ロイ氏は問いかける。「テレビ?いいえ。電報?いいえ。電話?いいえ。女性に言えばいいんです」

貧困地域でのそのような作業の影響をあなどってはいけない。2011年TEDグローバルカンファレンスにおいて、ロイ氏は次のように語った。「私たちはラダクへ行きました。そこで1人の女性にこう尋ねました。『ソーラー化して良かったのはどんなことですか?』。彼女は少し考えて答えました『これで冬でも夫の顔が見られます』」

北極エネルギー自給

ベアフット・カレッジのようなイニシアティブは、世界で最も孤立したコミュニティにさえも再生エネルギーとエネルギー自給に関する文化的潜在性があるということを表している。この新しいエネルギー源は気候変動を緩和するだけではなく、遠隔地においては、若者がその伝統的な土地にとどまる一助ともなるのである。

北方圏フォーラムのエレーナ・アンティピナ氏とピョートル・カウールギン氏は、容赦なく厳しい北極圏のツンドラ地方から、南国のオーストラリア北部ケアンズのワークショップまではるばるとやってきた。シベリアのチュクチ国で、トナカイ遊牧民に太陽光テクノロジーをもたらした経緯について語るためだ。

「子供たちはトナカイの放牧を継ぎたがりません」とアンティピナ氏。「どうしたらよいか。私たちは全員一致で1つの結論に至りました。それがソーラーパネルだったのです」

この太陽光ビジネスに必要な技術的能力を構築し維持するため、コミュニティはベアフット・カレッジと北極のNGO、Snowchange Cooperative(スノーチェンジ協同組合)と提携した。スノーチェンジのテロ・ムストネン氏は次のように語った。

「この活動の推進力となったのは2人のおばあさんでした。2人はコリマからインドへ行き太陽エネルギーの教育を受けたのです。紆余曲折を経て、なんとかソーラーパネルは設置され、女性たちはコリマに戻りました。遊牧民のキャンプや学校に電気を送ることが目的でした」。

「このプロジェクトの『紆余曲折』というのは、この2人のおばあさんたちがインドの暑さと研修場所の高度に慣れていないという健康上の問題や、ソーラーパネルを輸入するためロシアの税関に対応するため長期の遅れが生じたことなど様々でした。しかし新たに研修を受けたエンジニアたちや提携団体はそういった障害を乗り越えるための熱意を失いませんでした。コミュニティはソーラーパネルを運ぶ特別な雪ぞりを設計したり、壊れやすい荷物をトナカイの皮で包み振動を和らげるための工夫をしながら待ちました。そしてついに2年間の研修完了と共、にソーラーパネルはトゥルヴァウールギン遊牧コミュニティに到着したのです」

「やかんを暖められるし、子供たちは音楽やラジオを聴いたりテレビを見たりできます。最近ではノートブックを持ち歩くようになりました」と・カウールギン氏は話す。「重要なことは、子供たちがこの土地に残るということです。私たちの伝統的生活様式は世代から世代へと受け継がれていくべきものですから」

同様の話はチャガード・アルマシェフ氏からも聞かれた。氏はシベリア西部の大山脈、ユキヒョウの生息地であるアルタイの黄金山地に住む。アルマシェフ氏はアルタイ共和国の先住民や地域住民がこれらのプロジェクトから得られた恩恵について語った。例えば放牧家族は携帯可能なソーラーパネルを与えられ、土地や季節の移り変わりを示す目印を観察しながらの伝統的生活様式を維持しつつ、ちょうどいい時期に(しかも快適に)移動ができるようになった。

シベリア南西部ウコク高原でも別のコミュニティが研修を受け、風力太陽光混合発電所を建設し山岳農業キャンプにある研修センターの電力を賄っている。それにより、ここで周辺のキャンプや村の若い失業中の人々を研修することができるようになった。「……伝統的な文化に伝統的生活様式で暮らせる機会を与えているので」とアルマシェフ氏は語った。「新たなテクノロジーとエネルギー源をもち、さらにインターネットにアクセスでき、あるいは家の中に照明がつくだけでも若者たちはこの土地にとどまってくれます」

低炭素の未来

再生エネルギーテクノロジーを先住民や地域のコミュニティに導入するにあたって、これらのコミュニティに社会的、経済的恩恵を及ぼし近代化のドアを開くことと、負担の大きい財政的・技術的依存を生じないよう適切なテクノロジーを選択することの双方のバランスを保つことが重要である。

グリーンエネルギー経済の枠組みが現れつつある中、先住民や地域のコミュニティは自らの権利を主張し、投資を呼び、文化的に適切なエネルギー対策を探っている。

再生可能なエネルギーはエネルギー自治を促進し、遠くから運ばれる化石燃料への依存を減らすことができるため人気の解決策だ。さらに収益源や、持続可能な「グリーンカラー」技術の開発や雇用を産む可能性があり、若者をコミュニティにとどまらせるために重要なコンピューターやテレビなどの機器の電源にも使われる。

細心の注意を払って対処すれば、クリーンエネルギー対策は、従来のエネルギー対策において経験されてきた公害、生物多様性損失、その他の反環境的影響を減らし、あまりにも多くの先進国が歩んできた破壊的で炭素集約型の開発の道を避けることができるかもしれない。
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論点

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参考文献

翻訳:石原明子

Creative Commons License
エネルギー革新と伝統的知識 by アメヤリ・ラモス・カスティージョ and カースティー・ギャロウェイ・マクリーン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

国連大学高等研究所の伝統的知識イニシアチブ(TKI)にて、水管理と気候変動プログラムに携わる兼任リサーチフェロー。 地球環境問題と伝統的知恵の相互関係についての調査、地球環境問題の持続可能な解決策としての伝統的知識の役割に焦点をあてる。主な活動に、伝統的知識に基づく解決法の記録をはじめ、伝統的知識の認識を深め、国際政策へ適用させるなどが挙げられる。TKIに加わる前は、国連大学高等研究所にて、持続可能な開発のための科学政策プログラムに博士課程研究員、コンサルタントを務める。

オックスフォード大学環境研究所とオックスフォード大学ウォーター・リサーチセンターにて水管理の文化的再水和についての博士号を修得中。ラテンアメリカにおける水管理協定と先住民ガバナンスシステムの形成について研究している。

カースティー・ギャロウェイ・マクリーン氏は、国連大学高等研究所で研究員として気候変動と伝統的知識について研究するかたわら、環境情報コンサルティング会社BioChimera(バイオキメラ)(www.biochimera.com)の代表を務める。オーストラリア国立大学で理学(生化学・分子生物学)と文学(認知研究)の学位を取得し、国際科学政策の分野では20年以上のキャリアを持つ。