欧州委員会、スペインに対する二重基準

独立運動がスペイン当局の反対にあっていることを考えると、カタルーニャ州の状況は危機的である。

カタルーニャ州政府は対話を求めているが、スペイン政府はスペイン憲法・法体制の遵守を対話の条件としている。

欧州委員会は正式な根拠がないと主張してこの国内紛争ともいえる事態への介入を拒否しており、スペインの憲法秩序と法の支配を全面的に尊重する必要性を強調している。

こうした欧州委員会の姿勢には疑問がある。

法の支配の擁護の問題でもあるのなら、欧州委員会はスペインのこの状況を、ポーランドに関して今まさに実施しているように、法の支配の枠組みの中で検証すべきである。

欧州委員会や他の機関は、カタルーニャ州政府だけがスペイン憲法と法の支配を軽視していると見なしている。

しかし実のところ、カタルーニャ州とスペイン政府の間に対立が生じたのは、中央権力とスペインの二大全国政党(国民党と社会労働党)が過去10年間にわたり、スペイン憲法規範と法の支配を操作してきたことが原因なのである。

欧州委員会は、ポーランド政府による憲法裁判所の構成の変更について、法的不確定性と政治的論争を招く恐れがあり、判決の正当性を損なうとして非難している。

ポーランドに対する欧州委員会の懸念も、現在のカタルーニャ危機がスペイン憲法裁判所による操作と政治問題化という同様の事態によって引き起こされたことを踏まえれば、至極もっともなものである。

裁判官を指名するのは誰?

2010年、スペイン憲法裁判所は、権限の範囲(カタルーニャ州の自治に関する憲章に定められ、2006年の同州の住民投票で承認されたもの)を制限する判決を下して、物議を醸した。

この判決は4年間の審議を経た後、多大な政治的圧力の中で10人の裁判官によって下されたが、その10人のうち憲法裁判所裁判長を含む4人は既に任期が満了していた。

スペイン憲法には「憲法裁判所の構成員は9年を任期として任命されなければならず、3年ごとにその3分の1が改選されるものとする」と明確に定められているが、裁判長は3年の任期で任命される。

憲法裁判所は裁判官の任期が延長可能であるということに同意し、公平不偏(誰も自分を裁く事件で裁判官になってはならない)という常識的な法律原理を侵害した

2007年にはスペインの各政党が次期裁判官の選定で合意に達することができなかったため、スペイン国会は限定的な改革を承認して、裁判官の任期をその交代まで延長した。

その後、憲法裁判所は裁判官の任期が延長可能であるということに同意し、公平不偏(誰も自分を裁く事件で裁判官になってはならない)という常識的な法律原理を侵害した。

一方、欧州委員会は、ポーランドの裁判官の自治組織の人選における議会の支配的役割を非難している。また、裁判官の独立性を守るのは裁判官会議である旨を想起するとしている。

欧州委員会は、ストラスブールに本部を置く欧州評議会の勧告と欧州人権裁判所の判決に触れ、それらの中で裁判官会議の構成員の少なくとも半数が裁判官によって選ばれなければならないと定められている点を指摘した。

スペイン司法総評議会の全構成員は議会の両院によって選任されるが、スペイン憲法では下院と上院が推薦するのはそれぞれ4人のみであり、残りの12人は別の法律の定める条件において任命される。

現在の制度は1985年に承認されたものであり、その正当性において重大な疑問があるにもかかわらず、今なお利用されている。

2013年に与党国民党によって異論の多い改革が導入され、議会に推挙する候補者の事前選定において司法総評議会(professional association)の役割がさらに制限された。

強い不満

これらの改革は司法の独立を脅かし、この裁判官の自治組織を司法省にいっそう従属させた。こうした制度が原因となって、スペイン国会では、司法制度における自党の政治的立場を守るべく「自分たちの」候補者を推したい政党間で激しい政治交渉が展開されている。

政治的操作が継続的に行われてきた結果、スペインでは司法制度に対する社会的不満が高まっている。最近のユーロバロメーターによる調査では、スペイン国民の回答者の58パーセントが、司法制度の独立が「非常に不十分である」か、または「かなり不十分である」と回答した。

カタルーニャ危機の解決には、司法の独立に対する社会的信頼の回復が必要である

この結果はEU加盟28カ国中、ブルガリアとスロバキアに次いで3番目に低い水準を示すものである。

また、回答者の84%が、政府と政治家による司法への介入や圧力に対して否定的な評価をしている。

カタルーニャ危機の解決には、司法の独立に対する社会的信頼の回復が必要である。

これまでのところ、司法に対する政治的操作は状況を悪化させただけであった。その結果、多くのカタルーニャ州の住民が司法と違憲立法審査権の正当性を公然と批判する事態を招いたのである。

スペイン当局がどの程度まで継続的に繰り返し種々の措置を取り、法の支配を守るための制度に体系的に影響を及ぼす状況を黙認してきたかを、欧州委員会は法の支配の枠組みを適用し検証すべきである。

欧州委員会は法の支配に影響を与える必要な改革に関して、独立評価を行い、スペイン当局との対話を確立することが可能であろう。こうした措置を図ることで、二大政党がこれまでに推し進めてきた操作により致命的に損なわれることとなった、カタルーニャ州における司法と違憲立法審査制度への信頼の再建を、後押しすることができるものと思われる。

欧州委員会はこうした姿勢で臨むことにより、ポーランドに対する措置との比較で見えてくる先入観や矛盾に対する非難を防ぐとともに、あらゆる側面において条約を、そしてすべての欧州市民を守る真の守護者としての自らの役割を強化することができるのである。

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本稿で述べた見解は著者個人のものであり、必ずしも国連大学の見解を示すものではない。

この記事の初出はeuobserverに掲載されたものである。

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著者

国連大学マーストリヒト技術革新・経済社会研究所(UNU-MERIT)と同ガバナンス研究科の助教授である。また、欧州大学院大学(ナトリン校)の客員教授でもある。博士の研究分野には、公共政策の国際的普及、世界および欧州の開発協力、外部アクターがガバナンス体制の変化に与える影響などがある。