安全を求めてメキシコへ:移民女性の危険な旅

暴力が激化するエルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラ(北部三角地帯)を後にする市民が増えるなか、米国やメキシコへの移住の増加にメディアの注目が集まっている。メキシコは、北部三角地帯からの移民の通過国および目的地国として、移民の流入に対処するための最善策を模索している。メキシコはその過程で、移民女性など、より大きなリスクにさらされている移民に注目することが必須となるだろう。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は先日、北部三角地帯の女性たちを対象とする暴力に焦点を置いた報告書「Women on the Run(逃げる女性たち)」を発表した。このUNHCRの研究では、米国で庇護を申請している中米出身の女性たちにインタビューを行い、その85%が犯罪武装集団に支配されている近隣国からやって来た人々だということがわかった。さらに女性たちは、強姦、暴行、恐喝、およびその他の脅威を経験、またはそのリスクにさらされており、64%の女性が米国への移住を考えた主な理由としてそれらを挙げている。

極度の暴力は国連薬物犯罪事務所のデータにも表れており、殺人の件数でホンジュラスは1位、エルサルバドルは5位、グアテマラは6位となっている。さらに、女性の殺人の数では、エルサルバドルが1位、グアテマラが3位、ホンジュラスが7位となっている。

北部三角地帯の市民による庇護申請件数は、2008年から2014年までの間に13倍と激増した。

多くの女性が、自国で安全な生活を送ることができず、国際的な庇護と保護を求めて国を後にしている。メキシコ、ベリーズ、コスタリカ、ニカラグア、パナマを合わせると、北部三角地帯出身者による庇護申請件数は、2008年から2014年までの間に13倍と激増した。Comisión Mexicana de Ayuda a Refugiados(メキシコ難民委員会)が2014年の最初の8カ月間に受けた庇護申請件数は、2013年の1年間に受けた申請件数を17%上回った

一部の女性 は、米国の前にまずメキシコで庇護申請を行ったが、米国よりもメキシコの方が、当局への申し立ての立証が難しかったと答えている。また、メキシコの保護制度についてあまり知らなかったため米国に行ったが、もし情報や施設がもっと充実していればメキシコで庇護申請を行っていたと答えた女性たちもいた。さらに、メキシコでの庇護を意図的に避けた移民もいる。米国にやって来たエルサルバドル出身のある庇護希望者は、UNHCRに次のように説明した。「メキシコはエルサルバドルと同じくらい状況が悪いのに、なぜわざわざメキシコに行くべきなのでしょうか?それでは逃げる意味がないでしょう。むしろ、メキシコには知り合いが誰もいないのだから、エルサルバドルより危ないかもしれない」

恐喝、誘拐、虐待、ジェンダーに基づく暴力

移住は、困難で費用のかかる危険なプロセスである。移民は多くの場合、移住プロセスを円滑に進めるために、「コヨーテ」(密入国あっせん業者)高額な手数料を支払う。さらに、警察やInstituto Nacional de Migración(移民局)の職員などの役人も、しばしば恐喝を行う。他にも、バスの運転手などの地元民が、当局に知らせると言って移民を脅す場合もある。ある調査によると、インタビューの対象となった拘留中の移民女性の43%がメキシコで恐喝の被害にあっており、中米出身移民の大半が恐喝を経験していた。

メキシコの犯罪集団は、毎年20,000人以上の移民を誘拐している。Comisión Nacional de los Derechos Humanos(メキシコ国家人権委員会(CNDH))の報告によると、2008年から2009年にかけての6カ月間で10,000人近くの移民が、また2011年の上半期で11,333人の移民が誘拐された。犯罪集団にひとたび捉えられると、移民の家族は身代金を要求される。家族が身代金を払えない移民は殺される可能性がある。その間、移民は拷問や虐待を受ける場合もある。

アムネスティ・インターナショナルによると、移民女性・女児の60%は移住の途中で強姦される。また、別なデータによると、女性の80%が移住プロセス中に強姦や性的暴行を経験するとのことである。

移民女性は、通常、移民が直面する恐喝、誘拐、暴力のリスクに加えて、強姦や性的暴行など、性やジェンダーに基づく暴力にもさらされやすい。女性たちは、しばしば国境の近くで性的暴力や強制失踪の被害にあう。アムネスティ・インターナショナルによると、移民女性・女児の60%は移住の途中で強姦される。また、別なデータによると、女性の80%が移住プロセス中に強姦や性的暴行を経験するとのことである。

性やジェンダーに基づく暴力が頻発しているため、多くの移民女性は、武装犯罪集団、地元民、または密入国あっせん業者により強姦されて妊娠するリスクを避けるため、移住前に避妊薬を飲む。残念ながら、避妊薬では性感染症やその他の健康リスクから女性を守ることはできず、移民女性は性やジェンダーに基づく暴力を受けても、通報もせず、何の医療手段も受けない場合が多い。さらに、犯罪集団に捕らえられた移民女性は、売春や人身売買目的で売られる危険性もある。

拘留と強制送還

もちろん、不法移民は逮捕、拘留、強制送還のリスクにもさらされている。2000年にメキシコは、取締・拘留施設を増やすことにより、拘留・強制送還プロセスの強化に着手した。メキシコは現在、何千人もの移民がメキシコや米国を目指している昨今の状況を受けて、移民の取り締まりを強化し続けている。米国が資金を提供するジョージタウン大学ローセンター人権研究所によると、メキシコは国境の警備を強化し、南部全域で検問所の数を増やし、国境の町タパチュラに特殊部隊を送り込み、移民が列車の上に乗れないよう「ラ・ベスティア」(北部行きの列車)のスピードを上げるとともに、この列車の監視と捜査の回数を増やした。

メキシコは現在、米国よりも多くの中米出身移民を拘留している。

国境の警備と取り締まりの強化は、逮捕者数と強制送還者数の増加を見ても明らかである。最近では、わずか1年の間に、中米出身の逮捕者の数が49,893人から92,889人へと80%以上も増加した。2010年から2013年までの間に強制送還者数は倍増し、2014年にはさらに30%増加した。強制送還者の大部分は北部三角地帯からの移民だ。現在、メキシコが国境の取り締まりと強制送還を強化する中、移民数は相変わらず多いにもかかわらず、米国に来て強制送還される北部三角地帯出身移民の数は減少している。メキシコは現在、米国よりも多くの中米出身移民を拘留しているが、こうした変化はここ1年の間に起っている。

ある調査によれば、チアパス州で拘留されている移民の93%が自らの権利について知らされておらず、91%は法定代理人を立てる権利について、 88%は庇護を受ける権利について知らされていなかった。CNDHなどの報告では、拘留施設における劣悪な環境、虐待や汚職、過密居住、不十分なサービスなどの規定違反が明らかになっている。残念ながら、男女別のデータはほとんどないため、女性に特化した拘留状況を把握することは難しい。しかしいくつかの報告書では、移民女性は拘留中に嫌がらせや虐待をとくに受けやすい、と指摘している。

拘留経験は、国際的な保護が本当に必要な場合でも、移民に庇護申請を思いとどまらせる可能性がある。多くの移民にとって、拘留施設の環境や、いつまで掛かるかわからない処理手続きを考えると、強制送還されて移住プロセスを最初からやり直す方がましに思えるかもしれない。移民女性の中には、拘留中に経験した不安や、とくに拘留されている彼女らの子どもの心配から、すぐに強制送還してほしいと考える人もいる。多くの女性は、強制送還後に再度移住を試みる。

メキシコに何ができるのか?

移民女性たちは、自国では貧困と暴力が深刻化し、メキシコでは取り締まりが強化されるなか、きちんとした保護を受けていない。国境警備や拘留が厳しくなると、移民はより危険で費用のかかる経路で移住を試みるようになり、道中でかくまってもらえるよう、ますます密入国あっせん業者に頼るようになり、その過程で暴力、恐喝、誘拐、人身売買の被害に遭うリスクがさらに高まる。一方、拘留された女性たちは、自国に送還される前に庇護プロセスや庇護を妨げる更なる障壁についての知識を得ることができず、援助や保護の妨げとなっている。

とくに弱い立場にある移民の権利を守るためには、メキシコは以下の提言を聞き入れるべきであろう。

こうした解決策は確かに容易なものではないが、より良い安全な生活を求め、究極の危険を冒してメキシコを目指す移民が増え続けるなか、その必要性はますます高まっている。メキシコは移民や庇護希望者を支援するプログラムや政策を確立してきたが、その実施と権利保護の強化に向けて更に多くのことができるはずであり、するべきである。

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この記事は、国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)の政策報告書「Women Migrating to Mexico for Safety: The Need for Improved Protections and Rights(安全を求めてメキシコに移住する女性たち:保護と権利の強化の必要性)」をもとに作成された。

 

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著者

アンジャリ・フルーリー氏は、国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)の移住、女性、移動に関する専門コンサルタントである。また、世界銀行のコンサルタントも務め、ジェンダー、移住、開発における人権に焦点を置いて研究を行っている。世界銀行では、Global Knowledge Partnership on Migration and Development(移住と開発に関する世界知識パートナーシップ)のチームとともに、「Understanding Women and Migration: A Literature Review(女性と移住を理解する:文献レビュー)」を発表した。フルーリー氏は、ハーバード・ケネディスクールで公共政策学の修士号を取得している。

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