長老政治が富裕諸国で優勢に?

記録的な不況のさなか、イタリア(2011年の『タイム』誌によると「世界で最も危険な経済国」)は、今後数週間のうちに政府の崩壊あるいは機能不全に陥る恐れがある。経済不況に加えて統制力を失い、イタリアはヨーロッパへの脅威となりつつある。

こうした最近のイタリアでの劇的状況における2人の主要な政治家が、ジョルジョ・ナポリターノ大統領とシルビオ・ベルルスコーニ前首相(有罪判決を受けた犯罪者 でもある)である。2人はそれぞれ、88歳と77歳だ。

長老政治(高齢者による統治)は、富裕諸国で勢いを増している傾向だ。多くのヨーロッパ諸国では、低い出生率と人口高齢化によって世代間の均衡が高齢者に有利な方向に変わりつつある。高齢者人口の増加により、高齢者に割り当てられる社会資源の割合がますます拡大する一方で、高齢者は政治的権力を増して恩恵を受けている。1990年から2005年までに、経済協力開発機構(OECD)の中位投票者の平均年齢は、それ以前の30年間よりも3倍の速さで高齢化した。

一部のヨーロッパ諸国(例:イタリアやドイツ)では、50歳以上の国民は有権者人口の半数以上を占めており、その他多くの欧州連合(EU)諸国も、その画期的状況に近い将来、直面する。社会資源の配分をめぐる対立は世代間でますます過熱していき、人口割合が縮小する若年層に対して高齢者層がさらに優勢になっていくだろう。

こうした傾向は、ベルテルスマン財団が持続可能なガバナンス指標プロジェクトの一環として4月に発表したIntergenerational Justice Index(IJI、世代間正義インデックス)によって裏付けされている。IJIは、持続可能性の3つの中心的原則、すなわち環境、経済・財政、社会という重要な側面を取り上げる明確な指標である。

29のOECD加盟諸国における実際的な世代間正義を評価し、比較するために、「インデックスはまず、未来の世代へ遺産を残す結果や、現世代の若年層と高齢層の間の差別を構成する結果を評価する。また一方では、現行の政策成果が現世代の若年層あるいは高齢層にどの程度偏っているかを把握することを目指す。従って、本インデックスは、産出された結果(社会的、経済的、生態学的遺産あるいは差別)のみを考察するのではなく、そのような結果(政策成果によるバイアス)に政治システムが対処するために取る政策成果の方向性も考察している」

イタリア、長老政治の最悪の事例

IJIの執筆者らによると、多くのOECD加盟国が、子供たちと未来の世代を犠牲にした上でかなりの繁栄を享受している。最悪の例がイタリアであり、同国では社会的な長老支配が政界での長老政治を生み、影響を及ぼしている。同様の傾向にあるすべての国は、イタリアの状況とその結果を考察することで恩恵を得られるだろう。ユーロ圏第三の経済国であるイタリアは、一部には同国史上最悪の不況と形容される状況に置かれている。現在、政府は崩壊の瀬戸際にあり、より安定した政府を樹立するのは難しいかもしれない。

シンクタンクのCentro Europa Ricerche(ヨーロッパ研究センター)によると、2007年以降、イタリアの国民1人当たりの実質収入の減少率は、1866~1871年および1929~1935年に起こったイタリア史上最悪の2度の不況時よりも大きい。現在生まれてくる子供は多額の公的債務を抱えており、増え続ける国の借金に充当される所得税の割合は拡大している。さらに、生産性は過去10年間停滞しており、国民1人当たりの国内総生産(GDP)は6年間、減少し続け、脱税と闇の経済活動はGDPの5分の1を占めている。一方で、失業と不平等と貧困は拡大し続けている。毎年、何万人もの大卒の若者たちが海外へ移住する。

イタリアは世界3位の高齢国である。この事実に、上院(下院議席の半数)の投票資格を25歳と定めた古代からの選挙法が伴うために、議会でも政府でも高齢者層が優勢にならざるを得ない。IJIが調査したOECD29カ国のうち、イタリアは全体的指標評価でも社会支出の不均衡でも27位だった。イタリアの高齢者層への社会支出は、高齢者層以外への支出の7倍であり、他の数カ国では3倍だった。イタリアは若年層における貧困率が5番目に高かった。子供1人当たりの公的債務は22万ユーロ(29万7000USドル)であり、OECD加盟国の中で2位だ。

豊かな高齢者と貧しい若者

イタリアでは、高齢者の利益は特定の年金受給者の政党や労働組合によって強く支持されているが、若年層のための同様の組織がない。

社会学者のマルコ・アルベルティーニ氏(イタリア語のサイト)によると、1977年当時、高齢者が低収入であるリスクは平均よりも高かったが、2004年では、そのリスクは高齢者にとっては平均よりも低く、40歳未満の人々にとっては高い。アルベルティーニ氏はまた、年金制度が報酬方式から拠出方式に転換した現段階においては、若い労働者は実際に2種類の年金に貢献していると指摘する。すなわち自分自身の将来の年金と現世代の年金受給者の年金である。

イタリアの豊かな高齢者たちの収入と資産の多くは、急速な経済成長を遂げた第二次世界大戦後の数十年間に蓄積された。こうした資産は、現世代の多くの若者が蓄積を期待できる金額よりもほぼ確実に多い。なぜならイタリアの現世代の若者たちは、GDPの下落、雇用不安、低賃金、40パーセントを超える若年層の失業率という状況下で生きているからだ。

政界やビジネス界の権力者は、他の国と比べ高齢の男性世代であることが多い。ジョルジオ・ナポリターノ大統領は88歳であり、カルロ・アゼリョ・チャンピ前大統領は86歳まで就任していた。前首相(そして恐らく再任される)のシルビオ・ベルルスコーニ氏は77歳だ。「イタリアの高齢権力者の平均年齢は59歳であり、ヨーロッパでは最高齢である」と、カラブリア大学による報告書(イタリア語のサイト)は記している。同報告書によると、大学教授の平均年齢は63歳(1万6000人のうち、40歳未満はわずか78人)であり、銀行家と司教の平均年齢は67歳だ。2013年直前の3回の選挙期間中、2500人の議員のうち30歳未満はわずか2人だったのに対し、25~29歳の国民は人口の28パーセントを占めている。

投票年齢25歳とその影響

最後に、市民が25歳になるまで完全な政治的権利を享受できず、成人人口の中でも人口統計学的に優勢な最高齢層が政治を決定する国は、世界でイタリアだけしかない。投票者の年齢中央値は50歳であり、今後上昇すると予測されている。

世界で最も一般的な投票年齢は18歳であるが、イタリアの上院選挙の投票年齢は25歳だ。下院選挙で投票資格を有する18歳以上の5000万人の市民のうち、430万人(8パーセント)は上院選挙での投票資格がないが、上院の信任投票は政権維持に必須である。上院と下院で投票母体が異なるため、政治的多数派は上下院で対立することが多い。その一例が2013年2月の選挙であり、結果的に左派、右派、中道派の政党で構成される不自然な政権が誕生した。もし18歳から24歳までの市民が上院選挙に投票できていたなら、イタリアには両院で公平な政治的多数派と、より安定した政権が誕生していたことだろう。

現在、ほとんどの政策決定者は、短期的な利益を最大化するための選択をし、とりわけ生態学、技術、金融の問題に関する決断が未来に及ぼす負の影響を軽視しがちである。そのため、若年層に政治的影響力を持たせる案を多くの人々が提唱している。Foundation for the Rights of Future Generations(未来の世代の権利を守る財団)は、誕生から成人するまでの投票権を子供の親が行使するという案を提唱している。他の組織や記者たちは、この提案を受け入れるか、オーストリアやブラジルのように投票年齢を16歳に定める案に賛成している。

イタリアで70年続く長老政治は、それに相応する社会的な長老支配を効果的に保証した。世代交代の欠如や、革新力と競争力の観点からすると、長老支配の社会的代償は持続不可能である。

イタリアの長老政治を緩和する第一歩として、25歳から18歳への投票年齢の引き下げは、費用がかからずにすぐに行える単純な対策だ。世代間での均衡が保たれ、政治が安定すれば、確実に有益である。イタリアでの突発的な危機がヨーロッパ全域を不安定化させる可能性は低くなるだろう。

翻訳:髙﨑文子

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長老政治が富裕諸国で優勢に? by マルコ・ モロシーニ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

マルコ・モロシーニ博士は、フリーのジャーナリストであり作家。1952年にミラノで生まれ、イタリアとドイツで教育を受けた。2001年からスイス連邦工科大学で持続可能な開発の指標システムの研究を行っており、2004年に同校の客員教授を務めた。またドイツのバーデン・ヴュルテンベルクにあるCentre for Technology Assessment(技術アセスメント・センター)で、持続可能性指標のシステムに関する研究の監修者だった。ヴォルフガング・ザックス博士と共にモロシーニ博士は、ヴッパータール研究所の出版物で2011年に発行されたイタリア語版『Futuro sostenibile(持続可能な未来)』を共編した。彼はイタリアのニュースマガジン『インテルナツィオナーレ』の「倫理的な暮らし」面でコラムを執筆した。学会誌の他、『ル・モンド』『クーリエ・アンテルナショナル』『メディアパール』『ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング』『アッヴェニーレ』『インテルナツィオナーレ』など、ヨーロッパの主要紙に記事を発表している。