皆さんの中には報告書なら最終結果だけが知りたいという方や、あるいはCOP16に全く関心がなかったという方もいるだろう。しかし確かに言えることは、皆さんはこの報告書についてほとんど聞いたこともなければ、その一部ですら読んだこともないだろうということだ。
この報告書について知らない人は多いだろう。地球環境ジャーナリストのアレクサンダー・ケリー氏が先週、こういった気象関係の調査研究をまとめた立場から、以下のように述べたそうだ。
「実際に話し合いの場にいる者は、自分たちが行った研究をそこで持ち出したりしません。そういった報告書が話題として取り上げられることは期待されていないのです。たとえ取り上げたとしても説得力が増すわけではありませんから。時間の無駄です」
実際に彼は次のように打ち明けてくれた。今や気候に関する国際会議の開催は倍増し、展示会や思想を表現する場となっている。その中で、まさに彼の報告書(184の国々のそれぞれに異なる気候への影響に対するぜい弱性を算定し評価したもの)は、参加者に強い印象を与え、ブリーフケースに詰め込まれ、そのうち読まれることになるというのだ。
温室効果ガス排出量を全世界で削減することには、いまだ政治的な障害が立ちはだかっているが、過酷な天候についてのニュースをより頻繁に耳にするようになれば、この報告書が皆さんの目に留まるのにそう時間はかからないだろう。コロンビアではこの60年間で最悪の豪雨によって、数週間のうちに何百人もの人が命を落とし、200万人に近い人々が自分の家を失った。これは特筆すべき実例である。現地のこの冬の雨季はラニーニャ現象の兆候があり、特に苛酷であったことは明らかだ。ラニーニャ現象はエルニーニョ南方振動の準周期的な気候パターンのひとつと考えられており、熱帯太平洋全域で発生している。こういった気象上の大混乱は今後悪化していくとされる。
コロンビアをはじめ世界中で発生している昨今の記録的な豪雨は気候変動の現れである。気候変動が天気に影響を及ぼして、極端な気象現象が発生しやすくなっているのだ。気候変動の影響についての予測の中に、実際にコロンビアなど熱帯地方の降雨量の増加があったことからみても、将来的に気象予測は従来の考え方にとらわれずに革新的に行われていくことが期待される。
「この報告書は、気候変動が昨今の洪水の唯一の原因であるとは言わないまでも、気候変動の影響でこういった現象が起こるリスクが増えていることを指摘しているのです」と、豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)の海洋と大気のリサーチセンターの研究員であり、気候科学の解明に努力する興味深い新しいイニシアティブの一端を担うマイケル・ラウパッハ博士は述べている。
気候変動に関しては無関心や無責任といった意識が世界中に広まっているが、その裏にある人間の心理は非常に複雑なものである。一方で、最近まとめられたこちらの論文で強調されているように、より視覚に訴えるかたちで表現された情報は読者の注意をひくだろう。そうすれば、気候変動への無関心や無責任な意識が世界中に広がっているこの状況が、少しずつ改善していくかもしれない。
今週、国連環境計画(UNEP)がまとめたような報告書の類は、おそらく一般の人々が化学をより深く理解するのに一役買うことになるだろう。また同時に、政府の代表が気候問題に敏感になる必要性をより一層感じるというドミノ効果も期待できそうだ。グラフや地図などの図表を利用することで、ラテンアメリカやカリブ海域の気候変動がもたらす主な兆候や物理的な影響(例えば環境へのダメージや病気の増加など)を分かりやすく表すことが可能となった。以下に、ラテンアメリカとカリブ海域の気候変動を表した色鮮やかな図表の実例を紹介する。
・この地域の気候変動による影響は(国によって違いはあるが)すでに深刻である。特に農業、観光、都市インフラストラクチャー、生物多様性、生態系の分野での影響が大きい。
水文気象学からみたラテンアメリカとカリブ海域における事例
・報告書にはこの地域における氷河の融解を表す多数の図表が掲載されており、気候変動がその地域にどのように影響を及ぼしているのかがはっきりと読み取れる。下にあげたグラフはそのひとつで、アンデス山脈の7つの氷河の融解が1970年代以降かなり進んでいる様子がわかる。(また今週UNEPが発表した図解入りの報告書は世界の氷河の融解の状況と影響について具体的に扱っている)
科学分野において決断をする人々――すなわち政策立案者――にむかって、この報告書は温室効果ガス排出量の現在のレベルと可能な削減量を算定し、示している。そう、明らかに行動に移すべきことがあるのだ。
おそらく政府が最も理解を示すのはお金がらみの話であろうが、この報告書によれば、気象条件の悪さによってその地域が受けた損失額は、この10年だけでも400億USドルを上回るということだ。
メキシコの場合、気候変動の影響への対策に必要な経費は現在のGDP(純現在価値)の6.22%と見積もられている。この数字はメキシコにさらなる緊縮財政を要求することになり、貧困層の減少やミレニアム開発目標の達成など、ただでさえ難しい試みをより困難なものにするだろう。
財政への影響以外にも問題点はある。報告書によると、それほど遠くない将来(2050年まで)には海面温度の上昇によってサンゴ礁が白化し、生物多様性(そしてそれが金銭的に評価されたかたちである観光業)や漁業に悪影響を及ぼすだろうということだ。このページのバナー画像から詳細なグラフを見ることができる。
また健康への影響を表した次の図を見ると、原因は熱波や水系感染症だけではなく、感染症の媒介となる生物の繁殖地が拡大した結果、健康被害が起こっていることがわかる。
このグラフからわかる通り、気温の上昇の影響で蚊の繁殖地が拡大していることは明白だ。1970年にはネッタイシマカによる感染はヴェネズエラ、スリナム共和国、ガイアナ、カリブ海域の国々でしか確認されていなかったが、2002年には南アメリカ大陸南部の一部を除くほぼすべての地域で確認されている。
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ラテンアメリカとカリブ海域における気候変動のグラフはラテンアメリカ・カリブ経済委員会の環境維持開発と人間定住の部門(the Sustainable Development and Human Settlements Division)、UNEPの極致調査センターであるグリッド・アレンダールが共同でまとめたものである。英語とフランス語の2種類のバージョンがある。PDFファイルのダウンロード、e-bookの閲覧、そして全てのグラフにアクセスするには、報告書のサイトをご覧ください。
さらに幅の広い知識を得たい方に、GRID-Arendalは環境問題に関するさまざまな報告書を公開している。
翻訳:伊従優子
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