土地利用および気候変動適応と先住民族

先住民族にとって、レジリエンスは伝統的な知識に深く根差したものである。それは、環境の変化に適応する彼らの能力が、何よりもまず、土地に関する深い理解に基づいていることからもわかる。気候変動が先住民族のランドスケープに与える影響はますます大きくなっているが、コミュニティは独自の方法で対応し、適応している。

国連気候変動枠組条約締約国会議に向けて最近発表された声明文で、気候変動に関する国際先住民族フォーラム(IIPFCC)は次のように述べている

「……私たちは、私たちの伝統的知識に対する認識が高まるがことが必要だと考えています。伝統的知識は、私たちが何世代にもわたって持続可能な方法で利用し、実践してきたものです。そして、私たちは世界規模、各国規模、地域規模でそのような知識の統合が必要だと訴えてきました。私たちは伝統的知識で気候変動への適応およびその緩和に大きく貢献をすることができます」

地域のレジリエンスは地域の知識にかかっている

先住民族のコミュニティにとって、土地との関わりは重要なレジリエンスの源だが、このレジリエンスはその関係を醸成し、管理する能力にかかっている。Tebtebba(先住民政策提言・教育国際センター)でエグゼクティブ・ディレクターを務めるビクトリア・タウリ・コープス氏は、先住民族の知識は「各地域できめ細やかに調整されており、それは気候変動への適応と長期的なコミュニティのレジリエンスに欠かせないものである」と指摘している。

メキシコで最近、開催された会議で、タウリ・コープス氏の同僚のウィリー・アランギ氏は共同論文を発表し、伝統的な森林管理に関する3つのケーススタディを紹介した。それらはロイタ・マサイ族(ケニア)、ミスキート族(ニカラグア)、ダヤック・ジャライ族(インドネシア)によって実践されているものである。これらのケーススタディが行われた地域の先住民族にとり、森林は生計と生活の糧というだけではなく、アイデンティティ、文化、知識体系、社会構造のまさに基盤でもある。

コミュニティに基づくこれらの森林管理戦略においては、保全地域、伐採および流域管理区域を別に設定する。これは森林減少のプロセスを逆転させ、それにより炭素隔離を図り、地域の発展を促進するのに重要な役割を果たす。

ニカラグアのミスキート族は土地を耕作地、牧草地、森林地の3つに分けて維持している。インドネシア、ボルネオのダヤック・ジャライ族の典型的な村では、モザイク状の土地を順次利用するパターンができており、その中には自然林、保管林、焼畑と休耕をローテーションさせる農地、常時使用する農地などが含まれている。

これらの森林管理戦略を支える複合的な土地利用のシステムは、生活設計でもあり、レジリエンスの源でもある。しかし、これらのコミュニティに共通する問題は、自らの土地や森林を支配する政治力がないことだ。たとえば、ロイタ・マサイ族が守ってきた森林資源はケニア政府から委託されたナロク県の評議会の管理下にある。ミスキート族は政府の規範や規制に阻まれて、自然林への立ち入り、利用、管理が自由にできず、その一方では外部の居住者が森林伐採を行っている。ダヤック・ジャライ族は、政府が推進するパームプランテーションの拡大と長年継続している鉱業会社の事業に対峙している。

「現地の人々による土地資源の管理が妨げられれば、これらのコミュニティの脆弱性は増していきます」とタウリ・コープス氏とアランギ氏は言う。「現地のコミュニティのレジリエンスを維持するには、彼らが土地保有権を持ち、それによって、自然資源に自由にアクセスし、管理し、利用できることが前提です」

農業と牧畜業に従事するニャンガトム族:脅威にさらされる不安定な生活

ザビーネ・トレーガー氏はHorn of Africa Regional Environment Centre and Network(アフリカの角地域環境センターおよびネットワーク)で気候変動パートナーシップ・プログラムを率いている。同氏はエチオピア南西部で農業と牧畜業に従事する小民族、ニャンガトム族と関わっている。そこで経験したのは、以前は脆弱な環境にうまく適応していた彼らの生活システムが、さまざまな悪影響が致命的に重なったことで、困難に直面していることだ。そして、その中には、社会システム全体を危うくしている気候変動も含まれる。

トレーガー氏は、「地域の生態系、家畜、ニャンガトム族の人々の間で精緻に築き上げられた共生関係」が破壊されてしまったと語る。ニャンガトム族の報告によると、気候変動と環境のパターンの変化、具体的には雨期の遅れ (エチオピアでは2月から5月にかけて短期的にある程度まとまった量の雨が降る)と気温の上昇により、彼らの生活は甚だしい影響を受けている。人々は、姿を消しつつある植物や動物を環境変化の指標とし、このような変化はもう後戻りできないと見なし、季節のカレンダーの調整をしなければならないだろうと話し合っている。

コミュニティのレジリエンスに必要な社会資本も(法規制、共有の「儀式」、相互扶助などに含まれるもの)、社会の一体性とアイデンティティ要素の消滅と共に危うくなっている。

悪影響の例を挙げると、かつては牛を飼育して豊かな暮らしをしていた畜産農家が貧しくなったこと、女性が夫に依存するようになったこと、所属する一門と一家のステータスを示す革のスカートが綿になったこと、季節の儀式と実際に起きている自然事象にずれが生じていることなどがある。

トレーガー氏は、ニャンガトム族の人々は自分たちが直面している変化に適応しようとするうちに「以前とは変わってしまうでしょう。彼らは社会の変容を受け入れざるをえなくなります」と言う。

同氏は、そうなると新しい制度を設けることが必要になり、それと共に社会のヒエラルキーや権力構造も変わるだろうと説明する。

そして、次のように疑問を投げかける。「牧草地の管理や子どもたちの学校があるので、畜産農家は動くことができません……適応への望み希望はあるのでしょうか?  前に進むことでより良い暮らしが保障されるのでしょうか?」そのためには社会を作り直し、制度の枠組みをこれから決めて、取り入れるしかないのだと、同氏はしめくくった。

喪失に直面しても希望を失わない「クジラの民」

榊原千絵氏は、オクラホマ大学の文化地理学者(アメリカ先住民研究プログラム)である。榊原氏は現在、立場の弱い人々が地球温暖化という不確かな環境変化に直面した時、彼らの文化的習慣がどうなるか、ということを研究している。特に、アラスカ北極圏のホッキョククジラとの伝統的な関係を研究対象としており、中でも「クジラの民」を自称するイヌピアックの人々に注目している。

北極圏は、地球上でも最も急速かつ深刻な気候変動が起きている場所で、それはイヌピアックの人々とホッキョククジラの結びつきを様々なレベルで脅かしている。気温は世界全体の平均の2倍以上の速度で上昇している。解氷期の終りの北極圏の氷山はこれまでで最も低くなり、この傾向は加速しながら進んでいる。雪や氷の状態が不安定になってきたことも、ホッキョククジラを含め、多くの動物の分布および移動パターンに甚大な影響を及ぼしている。

榊原氏は、気候変動がイヌピアックの人々の社会にどれほど大きな影響を及ぼしているかについて語っている。問題は、クジラの数が減ったことから、その結果、科学技術への依存が高くなったこと、クジラとの関係を持続させるために遠くまで出かけざるをえなくなったことにまで及ぶ。また、「カルジ」と呼ばれる、人々を物心両面で海に結びつけている聖なる儀式の場も失われている。

しかし、先住民族は自らのレジリエンスで変わりゆく故郷に適応しようとしていると榊原氏は指摘する。

「フィールドワークを行っている間、イヌピアックの人々の間で現代の物語が伝えられているのに気がつきました。その物語は、未来は予想がつかないものであることを明らかにし、それに対処するのに役立つ内容でした。消えゆく土地との関係を維持する方法も示していました。これからも生きていくために、イヌピアックの人々はクジラとのつながりを持続させる力を自分たちの文化に新たに取り込んでいます。これは希望の物語です」

トナカイの放牧を続けるための「先住民族科学」

北極圏の別の場所では、トナカイの放牧が気候変動の影響に脅かされている。トナカイの放牧は北極域に住む20以上の民族が行ってきた、千年の歴史を持つ伝統だ。しかし、天候が変化し、冬が短くなったために、トナカイやカリブーの移動および採食のパターンが変化しつつある。また、低木の植生が北方の不毛なツンドラ地帯に移り始めており、トナカイなどの動物にとっては食料の確保が難しくなっている。

ペトロ・コウルギン氏はトナカイの放牧を行っているチュクチ族で、北東シベリアのかなたにいるトルボルギンという遊牧民コミュニティの出身だ。Snowchange Cooperative(降雪の変化に対応する共同体)に協力しているコウルギン氏は、気候変動が彼のコミュニティに与えている影響について次のように語った。

「川の氷が割れるのが早くなり、鳥が北に向かうのも約10日間早くなりました。かつては、移動して沿岸に到達するのは7月半ばでしたが、今は沿岸までまだ150kmもあります」

コミュニティの中には、気候変動に対応する努力として、先住民族の知識とその他の情報源を組み合わせて、天候の事象を予測し、別の遊牧先を探そうとしているところもある。たとえば、NASAと協力する、科学衛星システムを用いるなどして、自分の目で観察したことを補完するのである。

Association of World Reindeer Herders(世界トナカイ放牧民協会)で会長を務めるミハイル・ポゴデフ氏とNASAの上級研究員であるナンシー・メイナード氏は、先住民族の知識(indigenous knowledge)と科学(ingenuity)の組み合わせを「先住民族科学(indigenuity)」と称し、このような協業を成功させるには、共同で知識を生み出すこと、対等なパートナーシップ、プロセスの最初から先住民族の関与を求めることが必須だと言う。

伝統的な火災管理が機会を生む

オーストラリアの北東端で実施されているWALFAプロジェクト(Western Arnhem Land Fire Abatement:アーネム西部における土地と火の管理を通した環境負荷軽減プロジェクト)では、古来の土地所有者であるアボリジニの伝統的な火災管理の手法と現代の科学知識を組み合わせて、火災が起こりやすい熱帯サバンナ気候下での野火の範囲と程度を軽減しようとしている。これにより、温室効果ガスの年間排出量が大幅に削減できる。というのは、乾期の初期に戦略的に火災管理をすることができれば、乾期の後期に壊滅的な火災が発生して、メタンや窒素酸化物といった強力な温室効果ガスが排出されるのを低減できるからだ。

ほかに、先住民族の巧みな火災管理がプロジェクトに活かされる効果としては、「カントリー」(彼らの部族の土地)の文化や生物多様性が守られること、彼らのコミュニティに社会的および経済的なメリットがもたらされることなどがある。

Bushfires NT(ブッシュファイアNT) とNorth Australian Indigenous Land & Sea Management Alliance(北オーストラリアの先住民族による土地と海の管理同盟)で諮問役を務める生態学者のジェレミー・ラッセル・スミス氏はこのプロジェクトを率いる一人だ。彼もまた、このプロジェクトが成功したのは、すべての関係者が全面的に関与し、力を合わせたからだと力説する。

「このプロジェクトがいろいろな意味で成功していることは明らかです。最大の理由は、文化ガバナンスが類する取り決めの全面的な権限が得られていたことです。古来の土地所有者である先住民族の指導者も、協力して計画を策定することの必要性をよく理解していました。その計画は包括的で、彼らの文化的なニーズも満たすものでしたが、同時に長期的に持続可能なものでなければならないこともよくわかっていました」

地域の経験から新たなアイデアが生まれる

Across the pacific Ocean(アクロス・ザ・パシフィック・オーシャン)は、ベネズエラにあるシモン・ボリバル大学のビビアナ・ビルバオ博士が率いる研究チームだ。彼らは、カナイマ国立公園に暮らすペモン族の伝統的な火の利用法を研究している。なお、カナイマ国立公園はモザイクのようにサバンナと森林が入り組むランドスケープを呈している場所だ。

同チームは、ペモン族が火を用いて多様かつ複雑な方法で環境を管理していることを知った。ペモン族は、移動耕作、森林地帯での狩猟、サバンナの野焼きなどに火を利用している。サバンナの野焼きは、大規模で壊滅的な山火事につながるバイオマスの蓄積を防ぐために共同で行うものだ。研究チームはオーストラリア北部およびアフリカ南部の経験から貴重な教訓を引き出し、ラテンアメリカの将来の道筋を明らかにしようとしている。

ビルバオ博士は次のように語った。「火の管理の伝統的な仕組みが、遠く離れて異なる大陸に暮らすオーストラリアのアボリジニとアメリカインディアンの間で同じだったことは非常に印象的でした」

サバンナの野焼きが世界全体の二酸化炭素排出量削減におおいに役立つこと(世界全体の二酸化炭素排出量の約60%がバイオマス燃焼によるものである)、WALFAのようなプロジェクトが成功すれば、他の国々やコミュニティにもメリットがあると思われることから、国連大学の伝統的知識イニシアチブ(http://www.unutki.org/)は現在、世界中から多くの関係者を集めて、カーボンオフセットプログラムを策定、気候変動を緩和して、低炭素成長への移行に役立てようとしている。興味があって、詳しい情報が欲しい場合は、直接、TKIに連絡することができる。

前進の道

これらの説明や付随するビデオからわかるのは、世界の先住民族のコミュニティにとって、気候変動への対処は急を要するということだ。すでに、雨期が遅れたり、あるいは雨がまったく降らなかったりという事態が起こっており、本来は移動する遊牧民が定住の生活を強いられている。海氷が割れるのは年々早くなり、聖地が失われている。なじみ深い故郷も破壊され、あたりまえの自然現象が起こらなくなっている。伝統的な知識や生活はこれらの変化に適応しなければならない。

しかし、これまでもそうしてきたように、先住民族や現地のコミュニティは自分たちの土地を注意深く観察し、情報と経験を共有し、将来の計画を立てている。何世紀もの知識に基づいて新しいアイデアが飛び出し、先住民族と科学者が手を携えて新しい知識を創出し、気候変動の課題に取り組んでいる。

気候変動がますます不安定になってきたことを考えると、先住民族の権利の認知と敬意に基づく双方向の協業こそが、より優れた早期警告システムを構築し、レジリエンスの確立に向けた現地の努力を支えるために進むべき道である。

どうか、この議論に加わり、コメント欄に意見を寄せていただきたい。

議論のための質問

•    気候変動に適応するための現地のコミュニティの努力に関して、どのような経験をしたことがありますか?
•    先住民族のコミュニティと科学研究チームの間で敬意に基づく双方向の協業が行われている例を知っていますか?

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参考文献

•    Weathering Uncertainty: Traditional Knowledge for Climate Change Assessment and Adaptation (2012)(不確かな気候変動に対する取り組み:気候変動評価および適応に役立つ伝統的知識)
•    Indigenous Peoples, Marginalized Populations and Climate Change: Vulnerability, Adaptation and Traditional Knowledge (2011)(先住民族および過小評価された人々と気候変動:脆弱性、適応、伝統的な知識)
•     Climate Change Mitigation with Local Communities and Indigenous Peoples: Practices, Lessons Learned and Prospects (2012)(現地のコミュニティおよび先住民族と共に進める気候変動緩和:実践、学習、展望)

翻訳:ユニカルインターナショナル

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著者

カースティー・ギャロウェイ・マクリーン氏は、国連大学高等研究所で研究員として気候変動と伝統的知識について研究するかたわら、環境情報コンサルティング会社BioChimera(バイオキメラ)(www.biochimera.com)の代表を務める。オーストラリア国立大学で理学(生化学・分子生物学)と文学(認知研究)の学位を取得し、国際科学政策の分野では20年以上のキャリアを持つ。