バイオ燃料は 必ずしも悪ではない

2008年6月、世界的な原油価格は1バレル当たり127ドルという最高値を付け、代替エネルギー源に関するついての議論はヤマ場を迎えた。バイオ燃料の可能性とその生産を促進するための政策に対し、多くの国々が強い関心を寄せた。

アジアにおけるバイオ燃料の主要生産地のひとつがインドである。同国のバイオエタノール生産は2008年に10億リットルに達し、中国に次いで生産量第2位となった。

インドがバイオ燃料に着目した主な理由は、高額な原油の輸入費用にある。インド石油・天然ガス省によると、同国が2008年度に輸入した原油はおよそ9億3,500万バレル、額にすると年間730億ドルであったという。

また、インドの雇用問題もバイオ燃料生産を後押しした要因のひとつである。農村部に暮らす多くの人々は季節的失業や偽装失業で苦しんでおり、彼らに有給雇用を提供する必要があったのだ。

議論をあおる

バイオ燃料に関する議論の的となっているのは、高まる需要を満たすエネルギー生産の必要性と、その生産をいかに持続可能にするのかということだ。これら代替エネルギーの持続可能性と開発上のメリットについては矛盾した情報を載せた報告書が数多く出回った。中には、バイオ燃料生産で地域が得る経済的・社会経済的利益をひどく過小評価したものもある。

Climate Change Policies in the Asia-Pacific: Re-Uniting Climate Change and Sustainable Development(アジア太平洋の気候変動政策:気候変動と持続可能な開発の再融和)へ寄稿するにあたり、2008年に私たちが行った研究の一環一部として、バイオ燃料生産地であるインド南部アンドラプラデシュ州のマブーブナガル県を調査した。

調査では、バイオ燃料生産が地元経済にもたらす利益や既存政策の問題点について知識を得るため、小規模な起業家(ハイデラバードのRohini Biotechなど)、農民、関連する政府関連機関など様々な立場の人を対象に、政策枠組み、実施や監視メカニズム、政策上の制限や今後の計画などに関するインタビューも行った。

アンドラプラデシュ州

アンドラプラデシュ州はインドのバイオ燃料推進をリードする拠点のひとつであり、2005年にはバイオ燃料の使用を促進するインド政府の戦略の一端として、エタノールが5%混合された燃料が導入された。

州政府は、バイオ燃料の原料であるヤトロファクロヨナといった植物の生産を、現在進められている開発プログラムに組込むことでエネルギー需要を満たそうと試みている。これらの植物は文化に根付き人々にもよく知られた存在であるため受け入れられやすいのが利点だ。

バイオ燃料のプランテーションが本格化したのもアンドラプラデシュ州である。統計によると、降水量が著しく少なくい雨影陰と呼ばれる州内13地域の土地16,000ヘクタールの内、およそ15,000ヘクタールはバイオディーゼル原料のプランテーション(ヤトロファとクロヨナ)として活用されている。このような土地が、原料となる植物の育成に適していることは州政府も認定している。荒れ地を所有している中小規模農家も、地元自治体が運営する’Gram Panchayat‘(全村民を代表する組織。村議会という意味合いを持つVillage SabhaやPanchayatとも呼ばれる)に加わり積極的な取り組みを見せている。

州政府は地方開発局に対し政策的支援を行うRain Shadow Area Development Department(雨影陰地域開発局)を設置し、地元の起業家やGram Panchayatの協力の下、バイオ燃料のプランテーションを進めている。

資金的な援助は、National Rural Employment Guarantee Scheme(国家地方雇用保障計画)から得ている。この計画の主目的は、地方住民に年間100日以上の雇用を提供し生活を保障するもので、中央政府がスポンサーとなっている。

農民が所有する荒れ地。アンドラプラデシュの乾燥地帯で何年も空き地として放置されてきた。

農民が所有する荒れ地。アンドラプラデシュの乾燥地帯で何年も空き地として放置されてきた。

官民のパートナーシップ

州政府は、起業家達と官民恊働の体制をつくることにした。提携を結んだ。彼ら起業家はクロヨナの苗木や、拡大するプランテーションに対するついて技術的ノウハウを提供し、州政府が設定した最低価格(1トン当たり271ドル)でクロヨナの種を調達する。市場では農民たちがクロヨナの種を良い値をつけ販売することが許可されている。

成長したクロヨナのプランテーションでは、1ヘクタールの土地から3~5トンの種を収穫でき、農家に年間800~1,400ドルの収入をもたらしている。このような荒れ地では十分な整地と開墾をしない限り他の作物は育たないため、農家にしてみればクロヨナのような丈夫な植物を育てることは、こういった土地を活かすための実行可能な選択肢となっている。ダニの寄生でクロヨナの葉に傷みが現れても、プランテーションで殺虫剤を使用することはない。費用的な問題に加え、ダニはプランテーションに深刻な被害をもたらさないと考えられているためだ。

農民はクロヨナの他にも豆類やトウゴマなどの間作物を育て、豊作の年であれば1回の間作で1ヘクタール当たりの土地から600~1,000ドルの収入を得ている。このような取り組みは農民に副収入を与えるだけでなく、土地を持たない労働者に対し雇用を創出することで地方開発に直接つながっている。

起業家の試算では、クロヨナのプランテーション1ヘクタール当たり年間66人日に相当する雇用を生むと見積もられていた。しかし、これは間作に要する労働力を除いた数字であり、農民が間作の利益を棒に振ることは無いに等しいため、プランテーションは当初の見積もりを上回る雇用機会を生み出すと考えられる。

なぜ農民へ支払うのか?

最も重要な問題のひとつは、なぜ政府はバイオ燃料のプランテーションを営む農民にお金を支払うのか、という点だ。これには3つの理由がある。真っ先に挙げられるのは、農民が所有する長年放置したままの広大な荒れ地を開墾する必要があるという点であること。

次に、このようなアプローチは渇水地域での雇用創出を促進する働きがある点があげられるということ。そして最後に、バイオ燃料プランテーションというものは比較的新しい概念であるため、関心を示さない多くの農民に対して始めに何らかの動機を与える必要があったという点だこと。

大切なのは、バイオ燃料の推進が国の様々な省庁に良い影響を及ぼしたということだ。地方開発省はバイオ燃料が生み出す地方雇用に満足しており、環境森林保護省はプランテーションにより樹木が増えることで、例え油を収穫出来ない異例な年があったとしても、乾燥地帯の緑化につながるという希望を得た。

繁茂するクロヨナのプランテーションは乾燥地の農民にとって貴重な恵みだ。

繁茂するクロヨナのプランテーションは乾燥地の農民にとって貴重な恵みだ。

インド農村部におけるバイオ燃料の重要性について述べるのはまだ早い。状況はまだ動き出したばかりなのだから。しかし、バイオ燃料の原料生産から得る恩恵を悪と見なすことについては、それが地方農民にとっては地元の社会経済状態を改善するのに有効な手段であるという側面とも比較し、慎重に検討する必要がある。

広大な土地が手入れもされずに荒れ果て放置されていたという事実が意味するのは、経済的に採算の合う土地の利用手段が無かったということだ。つまり、バイオ燃料がどれも否定的に扱われるべきではないとも言えるのである。例えば渇水地帯や荒れ地など、バイオ燃料開発プログラムから利益を得られる地域もあるのだ。事実、最近になり国連食糧農業機関が発表したヤトロファに関する報告では、アンドラプラデシュと類似するような特定の環境下にある世界の多くの地域では、このような植物に”貧困削減のための開発における可能性”がある、として称賛する内容が掲載された。

今回の事例が示す通り、例えば官民提携や開発計画への統合といったイニシアチブの構築や、クロヨナやヤトロファなど生育に手間暇のかからない原料の選択、そして買取り時の最低保障価格を設定し農民を搾取から守る適切な支援策を実施するなど、様々な要素を踏まえればバイオ燃料プログラムは農村地域へ十分な利益を提供することが可能なのである。

翻訳:浜井華子

Creative Commons License
バイオ燃料は 必ずしも悪ではない by S. V. R. K. プラバカール and マーク・エルダー is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

著者

2007年に日本で地球環境戦略研究機関のメンバーに加わる。どのように適応策を優先させるのか、開発計画監視の一部としてコミュニティの適応能力における進捗を政府が測定することは可能なのか、不確実な気候変動政策環境のもとで様々な利害関係者が一体となり意思決定を行うにはどうすればよいのか、などの課題に対し現在答えを模索中である。

地球環境戦略研究機関のGovernance and Capacityグループでダイレクターを務める。現在、アジア太平洋地域におけるバイオ燃料の持続可能な生産と消費に関する戦略を扱ったプロジェクトを指揮している。他にも、東アジア地区の環境管理、越境大気汚染、地方イニシアチブなどにも関心を寄せている。