海洋温暖化が大幅に過小評価されている可能性

大気の温度は予想されたほど急速には上昇していない。しかし、今日までの研究は温室効果ガス排出による熱が海洋温暖化に与える影響を過小評価していたことが、新たな研究結果で明らかになった。

先日に発表された研究によると、1970年から2004年の間に、海洋の特定の海域は過去の推定より24%から58%多くのエネルギーを吸収していたことが分かった。このことは、海面レベル、地球のエネルギー収支、気候感度の各評価に重要な影響を与える可能性がある。

カリフォルニア州にあるローレンス・リバモア国立研究所のPaul Durack(ポール・デュラック)博士のチームは、海温の直接的な計測値と推定値を気候モデルの結果と比較した。この3種の測定値のすべてが、北半球の海洋温暖化に関する推定がほぼ正しいことを示唆していた。しかし、研究チームが『Nature Climate Change(ネイチャー・クライメート・チェンジ)』誌に報告したところによると、南半球の海洋における1970年以降の温暖化の推定値は、調査があまり進んでいない同海域での限られた直接的計測に基づいて科学者たちが過去に推定できた数値よりも、大幅に高い可能性がある。

南半球の海洋に関する信頼度の高いデータは、歴史的に少ない。なぜなら、この海域が遠隔にあり、海洋データを収集するのに役立つ商業船の行き来が少ないためだ。デュラック博士のチームは人工衛星からのデータと、アルゴフロートという新しい情報源からのデータを利用することができた。アルゴフロートとは、海中を漂流する3000以上の観測装置の一群で、海洋の水深2000メートルから海面までの水温と塩分濃度を計測する。

エネルギーの不均衡

1年前、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第5次評価報告書を発表した。英国南極調査所の元所長であり、ロンドンの科学博物館の元理事でもあるクリス・ラプリー教授は報告書の発表当時、Climate News Network(クライメート・ニュース・ネットワーク)に対し、海洋に関するIPCCの見解への警戒感を述べた。

彼は、地球のエネルギーの不均衡や、海洋によって吸収されるエネルギー蓄積量の93%がそのまま集積されている証拠をあげて、地球の表面温度の上昇が減速していることは「ささいな一時的変動」のように思われると語った。

地球のエネルギー均衡と熱流動は多くの要因に左右される。例えば、大気中の化学構成(主に煙霧質および温室効果ガス)、地球表面の特性のアルベド(反射率)、雲量、あるいは植生や土地利用のパターンなどだ。地球のエネルギー収支の影響による表面温度の変化は、即座には生じない。なぜなら新しいエネルギーに対する海洋や氷雪圏の緩慢な反応(惰性)があるからだ。全体的な熱流動は、まずは海洋で緩和され、その後、正と負の放射強制力と気s候の反応が安定すると新たな均衡状態が生まれる。

最新の研究について、ラプリー教授はクライメート・ニュース・ネットワークに次のように語った。「新しく報告された研究結果は、海洋の熱量に関するモデルと、人工衛星によって世界各地の海面上昇を計測した結果を組み合わせ、さらにアルゴフロートによる現地での計測値の分析を結びつけたものです。その結果、いわゆる地球温暖化の『中断状態』は表面温度のデータに限られており、かつ地球のエネルギー不均衡は弱まる様子がないという証拠が裏付けられました」

「いま一度、私たちはどれだけのリスクを負うことができるのかを算定する必要があります。そして、食料や水供給への脅威、異常気象の影響、それらが世界の経済システムと人間の健康な暮らしに与える影響を最小限にするために私たちがどのような行動を取るべきか、真剣に考える必要があります」とラプリー教授は語った。

冷たい深海

ネイチャー・クライメート・チェンジ』誌に発表されたもう1つの研究は、カリフォルニア州パサディナにあるNASAのジェット推進研究所の科学者たちによるものだ。この研究によると、2005年から2013年までのすべての海洋の温暖化は、水深2000メートルから海面までの範囲で生じており、海面上昇あるいはエネルギー吸収への深海の影響は検知できなかったと暫定的に結論づけている。

この研究は、デュラック博士チームの研究と同様に、NASAで新たに結成されたSea Level Change Team(海面レベルの変化に関するチーム)による調査の一環である。共同執筆者のJosh Willis(ジョシュ・ウィリス)氏は、研究結果は気候変動それ自体に嫌疑をかけるものではないと述べた。彼は次のように語っている。「海面レベルは今でも上昇しています。私たちはその具体的な詳細を解明しようとしているのです」

したがって、この研究は結果的に、いくつかの疑問に対する答えをまだ見いだせていない。例えば、さらに多くの研究を行えば、実は深海が温暖化しているという証拠を発見できるのか? 海洋が以前よりも多くの熱量を現在明らかに吸収している理由とは? さらに、南半球の海洋がより急速に温暖化しているなら、それによって南極の氷の溶解スピードは加速するのか?

答えを見いだすべき差し迫った疑問として、人間の活動から生じる過剰な熱量を海面近くの海水が吸収し続けられるのは、あとどのくらいかという疑問がある。もう1つの疑問が、海洋が熱を吸収できなくなり、熱を放出し始めた場合、何が起きるのかという点だ。これらの疑問に対する答えは、不穏なものかもしれない。

翻訳:髙﨑文子

本稿はクライメート・ニュース・ネットワークに掲載されたアレックス・カービー氏による原稿に加筆したものです。

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海洋温暖化が大幅に過小評価されている可能性 by キャロル・スミス、アレックス・カービー is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.
Based on a work at http://www.climatenewsnetwork.net/2014/10/oceans-greater-heat-explains-warming-pause/.

著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。