今こそ女性の健康を増進するために政府がすべきこと

1995年に採択され画期的であった、女性に関する「北京行動綱領」では、女性の健康に関する優先課題が明らかにされたが、2020年はそれらがどのように前進したかを検討する機会となっている。25年を経た今も、行動綱領はまだ実現していない。例えば、世界の妊産婦死亡率は2000年から2017年にかけ38%低下しているものの、既婚女性による近代的避妊法の利用は2000年から2019年までにわずか2%しか増えていない。

明らかに女性の健康増進が一様に進んでおらず、複数の形態の差別(エスニシティ(民族)や階級、障害に基づくものなど)や貧困に苦しむ女性は、最も取り残される可能性が高いということだ。例えば64カ国のデータによると、医療従事者が出産に立ち会う割合は最富裕層世帯で92%に達しているのに対し、最貧層世帯では54%にとどまっている。

感染症のパンデミック(世界的流行)やその他の危機があった際、女性とその健康に不当に大きく影響するという事実が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって浮き彫りになった。しかしその一方で、これから目指すべき未来では女性の健康と権利が疎かにされず、ジェンダー平等も達成でき、それを目指すことが当たり前になるよう、考え直す機会にもなっている。

COVID-19でジェンダー平等に向けた前進が鈍化または逆転

以前から存在していたジェンダーやその他の社会経済的不平等は、COVID-19の危機によってさらに拡大した。COVID-19の感染者を見る限り、女性と男性の間にほぼ差はない(感染者の48%は女性)が、最前線の医療従事者の大半を占める女性は、感染のリスクが最も高いグループに含まれる。すでに無報酬のケア労働を男性の3倍も担っている一般女性の負担は、さらに重くなっている

多くの国では、女性に対する暴力、特に親密なパートナーによる暴力の増加も報告されている。都市封鎖(ロックダウン)措置は、保護を提供する社会的ネットワークを混乱させる一方、経済不安が増す中で、女性をはじめとする数百万人が失業している。こうした事情によって、基本的な生活必需品やサービスを女性が得られなくなっており、いくつかの国では、性と生殖に関する保健サービスの優先度が下げられることで、この動きにさらに拍車がかかっている。

女性の健康のための総合的アジェンダに向けて

上記の問題はどれも目新しくはない。女性の健康に関するアジェンダの中心にあるのは、女性が自らのセクシュアリティと出産を自主的に決定できる必要性だ。同時に、不健康であることによる負担を転換させるためには、このアジェンダを拡大し、生殖器のがんや精神疾患、その他の非感染性疾患の発症率上昇のほか、女性に偏って大きな影響を及ぼす新たな感染症(ジカ、エボラなど)の発生にも対処しなくてはならない。女性がより医療にアクセスできるようにするためには、プライマリヘルスケア(健康を基本的な人権とし、その達成の過程で住民の主体的な参加や自己決定権を保障する理念)や地域医療従事者への投資、例えば最前線で働く医療従事者の賃金や労働条件の向上が必要となる。女性の健康に関するアジェンダという点では、大気汚染の悪化や急激な都市化、男女をめぐる固定観念を利用したアルコールやたばこのマーケティングにも取り組むべきだ。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(すべての人が適切なサービスを、支払い可能な費用で受けられること)を達成するためには、不平等にしっかりと関心を向けなければならない。それには、不平等なジェンダー規範に対抗し、女性に対する暴力を予防し、また女性が社会的・経済的保護を確実に得られるようにするための対策が含まれる。

女性の健康への投資は単なる道徳的要請ではない

女性の健康とジェンダー平等への投資は、命を救い、健康を増進し、人権を守ることになる。財政面において、政府はCOVID-19のパンデミックによって予算配分上の明確な選択を迫られている。女性の健康への投資が経済的・社会的に理にかなうことは明白で、貧困の削減、生産性の向上、および経済成長の刺激につながる。学業成績や労働参加率、社会的貢献が高まるため、投資額の9倍もの収益が実現できるのだ。

インクルーシブな未来の構築を

保健と開発の計画、またCOVID-19からの復興に関する計画ではいずれも、女性の健康を優先課題とする必要がある。女性は全人口の半数を占めているが、そのニーズは後付けで考慮されることがあまりにも多い。いくつかの国では、政府が先駆的な復興計画を策定している。性と生殖に関する保健サービスを復興計画に含めるとともに、介護をする人や親に加えて家庭内暴力の被害を受けた女性を支援するための予算配分を行い、また最も影響を受けやすい世帯に向けた社会的セーフティーネットを提供する取り組みを行なっている。

私たちは、国連加盟国が女性の健康と権利を実現するために「すべての人の健康な生活と福祉のためのグローバル行動計画」などを通じた支援を続けていく。また政府やパートナー機関に対して、性と生殖に関する健康への取り組みを含め、ジェンダー平等と女性の健康を優先課題とするよう呼びかけている。私たちは、保健政策の立案における女性のリーダーシップを推進していかなければならない。男性のリーダーに対しては、保健政策におけるジェンダー公平を実現するための仲間、そして擁護者となるよう強く求める。

力を合わせれば、女性のために、そしてすべての人のために、より良く、より健康な世界をつくることができるのだ。

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この記事は、最初にThe BMJ Opinionに掲載され、クリエイティブ・コモンズの表示 – 非営利 3.0 IGO (CC BY-NC 3.0 IGO)の下、改めて掲載されたものです。

著者

デイビッド・マローンは、外交官として国連のカナダ大使(1990-1994年)をはじめ、国際平和アカデミー(現国際平和研究所)所長や、カナダ駐インド高等弁務官、ブータンおよびネパールの非常駐大使、国際開発研究センターの総裁を務めた後、201331日より現職。
モントリオール商科大学経営学士、ハーバード大学ケネディ行政大学院行政学修士 、オックスフォード大学にて国際関係の博士を取得。
著書に『The UN Security Council in the 21st Century 21世紀の国連安全保障理事会)』(共編、2015)ほか。