アフリカが直面する課題とチャンス

国際開発に関する文献の多くは、アフリカのサハラ砂漠以南の地域で長期化している開発危機について言及している。

サハラ以南の国々では民主化と透明化、統治機構の強化と改革、商品価格の上昇、より効果的なマクロ経済政策の採用と推進など数多くの要因のおかげで近年の発展が著しいが、それでもなお持続可能な開発に関する難しい問題が山積している。

48カ国、人口7億人、1人あたりの所得が1日約1米ドルというサハラ以南の国々は今なお世界で最も貧しい地域である。

48カ国、人口7億人、1人あたりの所得が1日約1米ドルというサハラ以南の国々は今なお世界で最も貧しい地域である。

国際開発という観点でみると、アフリカの開発の前に立ちはだかる困難には明らかなパラドックスが伴う。世界的には、1980年以降、多くの地域で極貧レベルは減少しつつあるというのに、アフリカでは絶望的な貧困の中で暮らす人々の数は増加している。エコノミスト、ダンビサ・モヨ氏は、影響力のある著作『Dead Aid: Why Aid Is Not Working and How There Is a Better Way for Africa』の中で、極貧状態で生活する人の数はこの20年間(1991-2002年)で2倍近くなったと述べている。

アフリカの発展には困難が伴うとはいえ、この大陸には再生可能な自然資源も、再生可能でない自然資源も豊富に供わっている。持続可能性、特に「環境」と「開発」の複雑な関わりを考慮しつつ、一体どうすれば自然資源によってアフリカ大陸の持続可能な開発を促進することができるだろうか。アフリカの統治、制度的枠組み、政策をどのように強化すれば、この大陸と人々が対峙する次々に現れる新たな困難に対処できるだろうか。

継続的な課題

21世紀に入り、アフリカの自然資源(石油、鉱物、その他原料物質)への継続的な需要がある一方で、資源を持続的に管理するための制度的容量がいまだに不足している。気候変動に対して脆弱なアフリカ大陸で持続可能な開発を進めるためには、環境(自然)、経済成長(富)、統治(権力)を三本柱として有効に結び付け、貧困を削減することが必要である。

アフリカの社会・経済的発展と、自然・エコロジカル・気候要因を結び付ける考え方は開発に関する文献で取り上げられてきており、同時にこの複雑な開発・環境・気候の関係を管理するには、効果的で信頼でき透明性のある制度的枠組みが必要であることも訴えられてきた。

アフリカでこの必要性を認識し、開発・環境・気候統合策が行われれば、ミレニアム開発目標の達成に向けて前向きな結果が現れるだろう。

アフリカのサステイナビリティ学

サステイナビリティ学(持続可能性科学)とは「地球、社会、人間の3つのシステムの相互関係、およびそれらの相互関係に破綻をもたらしつつある複雑なメカニズムと人類の幸福をおびやかすリスクを解明しようとする」新たな学問だ。

サステイナビリティ学の傘下に複数の学問体系や、組織的学問研究結果が集まれば、アフリカの現状に合わせた多様かつ並列的な優先事項を訴える声も届けやすい。具体的には農場収入の脆弱性、地球環境変動対策としての森林管理、水の供給に関する統治である。これらの優先事項はナイロビ大学チームによる「Strategy for Global Environmental Change Research in Africa: Science Plan and Implementation Strategy(アフリカにおける地球環境変動研究のための戦略:科学計画と導入の戦略)」に挙げられている。

これらの研究は一部地域に焦点を絞ったものではあるが、アフリカの国々が直面するより大きな環境課題の縮図となることが望まれる。またアフリカの持続可能な開発に関する文献にこれまで不足していた資料ともなりうるだろう。

サハラ砂漠以南特有の地形、民族、歴史、政治体系をもつ国々の一例がモザンビークだ。この国は、水力発電が行える大流域と豊富な自然資源を持つ沿岸国である。しかし、カカオと金の世界一の輸出国であり、モザンビークと似た地理的な特徴を持つガーナと比べ、モザンビークは持続可能な開発のために資源を使っているとはいえない。研究者Aurélio Bucane氏とPeter Mulder氏の指摘によれば、モザンビークはトランスペアレンシー・インターナショナルによると腐敗認識指数がもっとも低い(腐敗度が高い)レベルであり、制度的インフラが脆弱で、豊かな自然資源が経済には否定的な影響を及ぼすかもしれない。

サステイナビリティ学の専門誌

アフリカの持続可能性の問題点に関する興味深い研究は続いており、サステイナビリティ学の専門誌「Sustainability Science」が発行した特別号には、アフリカの地域的視点に関する様々な最先端の学際的研究が掲載されている。(ワンガリ・マータイ氏のメッセージも掲載)

この特別号の最初の論文は、モデル化法を使い、モザンビークでの気候変動による影響と適応の選択肢について検証している。国連世界開発経済研究所(UNU-WIDER)の応用経済学者、ジェームズ・サーロウ氏と共著者らは、地域規模、地球規模の両方で、雨量が最も少ない場合と多い場合の両方について、モザンビークでの環境と経済における様々な影響をモデル化のフレームワークを用いて検証している。意外な結果だったのは、極度の気候条件が地域規模か地球規模かによって、対照的な影響が現れるという点だ。著者らの予測によると、極度な気候条件が地球規模の場合、大洪水の頻度は2倍から4倍になるが、雨量の極端さが地域規模の場合、頻度は変わらないという。作物の収穫高はどちらの条件でもマイナスの影響、プラスの影響ともに見られるが、水力発電や道路ネットワークにおいてはどのような気候変動の条件下でも否定的かつ長期的な影響が出るようだ。

翻訳:石原明子

翻訳:石原明子

特別号に掲載されたこれらの論文は、繰り返しになるが、環境の持続可能性は貧困削減対策と結び付けて考えられなければならないことを訴えている。資源やサービスを提供してくれるエコシステムを機能させ、それを土台として個人の幸福と地域の回復力を改善していくべきである。アフリカについての選りすぐりの地域的研究を著したこれらの論文は、コミュニティ(地域レベルから国家レベルまで)が、複雑に絡み合う問題の数々に、持続可能な方法で対応するための政策課題やチャンスについて強調している。

これらの研究は一部地域に焦点を絞ったものではあるが、アフリカの国々が直面するより大きな環境課題の縮図となることが望まれる。またアフリカの持続可能な開発に関する文献にこれまで不足していた資料ともなりうるだろう。

アフリカ開発銀行の2007年アフリカ開発報告にあるとおり、アフリカの自然資源が急速な発展と貧困削減を促すためには、安定した環境管理と効果的な統治が欠かせない。課題をクリアするには、これらのフレームワークは透明性があり、信頼でき、国民の代表者によるものであり、一般市民の意見を考慮に入れたものでなければならないのだ。

この記事は、学術専門誌「Sustainability Science」のAfrican Regional Perspectives(アフリカの地域的視点)を特集した特別号の論文に基づいたものです。

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アフリカが直面する課題とチャンス by オビジオフォー・アギナム and 武内 和彦 is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

国連大学国際グローバルヘルス研究所(クアラルンプール)の副所長であり、シニア・リサーチ・フェロー兼グローバルヘルスガバナンス部門長も務めている。

武内和彦教授は、2008年6月1日に国連大学副学長に就任した。過去30年にわたって、東京都立大学(1977-1985年)、東京大学(1985年-)で研究教育活動に従事してきた。武内教授は、1997年から東京大学大学院農学生命科学研究科緑地創成学研究室の教授を務めている。また2005年からは、東京大学総長特任補佐(国際連携本部長)、サステイナビリティ学連携研究機構副機構長、2007年には国際連携担当総長特任補佐(副学長)に就任した。