科学記者を2年間務めた後、2005年からガーディアン紙の環境記者。科学雑誌ネイチャーでの勤務経験も持つ。化学工学の博士号を取得したことで、自ら研究をするより他者の研究について書くことに面白みを見出し、ジャーナリズムという職業を選ぶ。
気候変動の研究に関する電子メールがインターネット上で公開された事件についての独立調査がまとまり、渦中の科学者たちは混乱していたが研究結果を改ざんしてはいない、と今日伝えられた。
この調査(この問題を受け設けられた3回の調査のうち第2回目にあたる)を指揮したオックスバーグ卿によると、不正を裏付ける証拠は一切発見されなかった。
この科学的な不正行為に対する批判や主張の多くは、気候問題の専門家が下した「結論を気に入らない人々」によるものだろうとオックスバーグ卿は言う。
「流出した電子メールの内容がどのようなものであれ、科学の基本は公正かつ適切に執り行われていたと思われる」(オックスバーグ卿)
フィル・ジョーンズ所長を含むイースト・アングリア大学気候研究ユニット(CRU)の科学者に対する疑惑は、それが事実と証明されれば彼らのキャリアが終わる程重大な問題であった。「流出した電子メールの内容がどのようなものであれ、科学の基本は公正かつ適切に執り行われていたと思われる」オックスバーグ卿はこのようにも述べた。
調査はCRUにおける科学的プロセスの「潔白」を証明したが、幾つかの懸念も持ち上がった。記録管理が不完全なうえ、科学者たちはデータ分析に最適な統計技術を用いなかったというものだ。
調査パネルの一員であるインペリアル・カレッジ・ロンドンの統計学者デイビッド・ハンド氏は次のように言う。統計値の利用についてCRUの科学者たちの考えに甘さはあったが、より良い技術を駆使していれば別の結果が生まれていたという確証はない。またオックスバーグ卿は、ずさんな記録管理は科学者の間ではよくあることで、これまでは「地味な」分野であった彼らの活動領域に世間の関心が集まることをCRUの科学者たちは予想できなかったのだ、と述べた。
取り調べでは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が報告書のいくつかで使用した地球温暖化に関する重要な調査結果も含め、過去20年間にCRUの科学者が作成した11の主要な科学論文が分析された。
科学論文には必要箇所に不確実性を示す断り書きや言及が記載されていた。しかし、その論文がメディアや政府機関、IPCCなどの第三者の手で公表された際、多くの場合そのような表現が削除されていた、とオックスバーグ卿は批判している。
世界気象機関(WMO)の1999年の報告書に使用された世界気温のグラフにおいては3つの異なるデータをつなぎ合わせたものが使われており、オックスバーグ卿はこのグラフを指摘し、「非常に複雑な科学的要素の不適切な描写」と表現した。グラフはCRUの専門家によって作成されたもので、「気温低下を隠す」ためにジョーンズ所長がどのように「トリック」を使ったのかが書かれた彼の問題の電子メールで取り上げられていたものだ。ジョーンズ所長は関連する誤差範囲はWMOの資料に記載されている、と述べた。
調査結果を発表する会見の場でハンド氏は、長年に渡り関心を集めてきた米ペンシルベニア州立大学のマイケル・マン氏率いる科学者たちによる1998年の研究に関する問題を再燃させた。この研究論文は「ホッケースティック曲線」として知られるグラフを取り上げたもので、20世紀にみられる気温上昇は近年の歴史においてかつてないレベルであることを示している。ハンド氏はこの研究について、「不適切な統計手法」を用いており「不安感」を覚える、と語った。
ホッケースティック曲線によって表された影響は真実だが、1998年の研究論文でその影響が誇張された。ハンド氏はそう述べ、カナダ人ブロガーでありCRU科学者への非難を起こした中心的人物であるスティーブ・マッキンタイア氏がこの問題を明らかにしたことを称賛した。
マン氏はガーディアン紙に対し、1998年の研究は全米科学アカデミーにより承認されたもので、ハンド氏の意見は「突飛で大した注目や信用に値しない」、と語った。
CRU科学者たちに対し、データやコンピュータコードの公開を継続的に求めたマッキンタイア氏らの要求は迷惑行為にまで及んでいたかもしれない。また、情報公開法が学術的状況においてどのように適用されるべきかについての問題も未解決のまま残すこととなった、とオックスバーグ卿は語った。
報告書は、CRU科学者が使用したものや、批判家たちによって要求されたような環境データの管理に対して英国政府がどこでも用いられているような政策を導入したことは「不適切」であり、この動きは研究者間でのデータの流れを妨げたとも述べている。
オックスバーグ卿の調査後、英下院科学技術特別委員会からCRUの電子メールに関する報告書が先月提出され、その中で科学者たちの不正への関与は否定された。ミューア・ラッセル卿が指揮する第3回目の調査報告は来月提出期限となる。
2009年11月、イースト・アングリア大学の気候科学者たちが書いた何千通もの電子メールがインターネット上に流出した事件を受け、同大学が調査を行った。批評家や気候懐疑論者たちはこの機会を利用し、重大な影響力を持つ気候研究の背後にいる科学者たちにはよからぬ企みがあり問題を誇張した、と主張した。
認めていない。調査によると、科学者たちの対応は誠実であり真実を伝えたいという純粋な考えをもっていた。彼らは決してパーフェクトではないが、数十年前の研究資料を管理できなかったことは研究結果に影響してはいない。
科学者たちは窮地を脱したのか?
まだ脱してはいない。今回の事件についてミューア・ラッセル卿が指揮するパネルの最終報告となる第3回目のレポートは来月が提出期限となる。その報告書では、イースト・アングリア大学気候学部内部の体質が一層明らかにされる。情報公開法に基づく要求事項に対し、科学者たちがどのように対応したかについては懐疑的な見方が示されることになるだろう。
そう考える人もいる。オックスバーグ卿は、地球温暖化対策から利益を得る団体とつながりがあり、これについて批評家たちは利害の対立であると主張する。しかし、地球温暖化の現実が疑問視されたことはなく、調査の関心は一部の科学者たちがとった行動にある。オックスバーグ卿は、調査は徹底的に行われたと言うが、費やされた時間は1カ月にも満たない。
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この記事は2010年4月14日水曜日、英国標準時11:11に guardian.co.ukで公表されたものです。
翻訳:浜井華子
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