食料と栄養の目標達成は遠い

世界銀行と国際通貨基金(IMF)が最近発表した報告書によると、食料と栄養に関する世界的目標は開発途上国で深刻な遅れが見られ、子供と妊産婦の死亡率は依然として容認しがたいほど高いという。

ミレニアム開発目標(MDGs)全般の進捗状況を評価する年次報告書『グローバル・モニタリング・レポート(GMR)2012』は、国際的な食料価格の急騰が一部のMDGsの進捗を遅らせたと説明している。さらに残念なことに、先週発表された世界銀行の『食糧価格動向』最新版によれば、食料価格は再び上昇傾向に転じ、2011年10月から始まった短期間の下落傾向を覆している。石油価格の上昇、食料輸入へのアジア諸国の強い需要、そして主要な食料生産地の悪天候が要因となり、世界の食料価格は全体として2011年12月から2012年3月までに8%上昇した。

同時期に、米を除くすべての主要穀物の価格が上昇した。米の価格が抑えられたのは、供給量が多く、輸出国間での競争が激しかったためだ。価格の上昇率を見るとトウモロコシが9%、大豆油が7%、小麦は6%、砂糖は5%だった。さらに同時期に、原油価格は13%高騰した。もし、現在の予測どおりに食料生産が増えなければ、世界の食料価格はさらに高い水準まで高騰する可能性があると、世界銀行は警告している。

『GMR2012』では、前進を遂げたMDGsもあるという良いニュースも報告している。極度の貧困の削減と安全な飲料水へのアクセスに関連した目標は、2015年の目標期日よりも数年早くに達成されたとのことだ。

安全な飲料水を持続可能な形で利用できない人々の割合は、1990年には24%だったが、現在はその半数になった。教育や就学児童数の男女比に関する目標も明らかに達成に近づいている。同報告書の推計では、1日1ドル25セント未満で暮らす人々の割合は、世界の貧困率が推計43.1%だった1990年から、少なくとも50%削減された。

貧困削減のスピードが最も速かったのは東アジアおよび太平洋地域で、中国における極度の貧困は1990年の60%から13%に削減された。開発途上国全体では、貧困率は37%から25%に削減された。サハラ以南のアフリカおよび南アジアでは、貧困は依然として広く見られるものの、かなりの改善もなされた。南アジアでは貧困率は54%から36%に削減され、サハラ以南のアフリカでは2005年から2008年の間に貧困率は4.8ポイント下落し50%未満となった。これは貧困率の国際的な調査が開始されて以来、サハラ以南アフリカで最大の削減である。

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1990年以降、極度の貧困の中で暮らす人々の数はサハラ以南アフリカを除くすべての地域で削減された。サハラ以南アフリカでは、人口増加率が貧困削減率を超えたため、極度の貧困にある人々の数は1990年には2億9000万人だったのに対し2008年には3億5600万人に増加した。貧困人口が最も多い地域は南アジアで、1日1ドル25セント未満で暮らす人々の数は5億7100万人だが、2002年の6億4100万人から減少した。

つまり進捗状況は地域によって異なる。高中所得国では、ほとんどの目標が達成される見込みだが、低所得国や脆弱な国では進捗に遅れが見られ、達成済み、あるいは順調に進捗中の目標はわずか2つだった。

ところが健康に関する目標を見ると、5歳未満の子供と妊産婦の死亡率の削減に関する目標における進捗は世界的に著しく遅れている。その結果、どの開発途上地域においても、2015年までに目標は達成できない見通しだ。妊産婦の死亡率における前進が最も遅く、今までのところ、削減目標のわずか3分の1しか達成されていない。乳幼児の死亡率削減についても進捗状況は同様に芳しくなく、削減目標のわずか50%しか達成されていない。

報告書は、より大きな前進が2015年より早い時期にも期待できるとしている。しかし「特にサハラ以南のアフリカや南アジアなどで、何億もの人々が引き続き貧困に苦しむだろう。こうした地域では、劣悪な健康条件と教育機会の欠如が生産的な雇用を阻み、環境的資源は枯渇あるいは損なわれ、汚職や紛争、誤ったガバナンスが公共資源を台無しにし、民間投資を妨げる」と警告している。

食料が鍵

栄養不良とは、摂取される必須栄養素の数があまりにも少ないか、必須栄養素を消耗したり排泄したりするスピードが摂取よりも速いために生じる結果だ。MDGsは栄養不良の人々を半減することを目指しているが、2015年までに目標を達成できる国はほとんどない。今までのところ、農業生産は人口増加よりも速いスピードで増加してきた。しかし高騰する食料価格と、食用作物の燃料生産への転用により、栄養不良人口の割合の減少傾向は覆された。国連食糧農業機関(FAO)は、十分な食料を日常的に摂取できない人々は2008年時点で7億3900万人だったと推計している。

栄養不良人口の割合は1990年から大きく削減されたが、『GMR2012』によると、栄養不良の5歳未満の子供は依然として1億人以上いるという。MDGの目標に向かい順調に前進している国は(十分なデータのある90カ国のうち)わずか40カ国である。子供の栄養不良は、母胎にいる時から始まることが多い。栄養不良の母親は体重不足の子供を産むからだ。栄養不良の子供たちは発達が遅く、就学する時期が遅れ、一般的に学業面でも遅れがちだ。母乳保育を促進し、母子の食生活を改善するプログラムは効果的である。

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「食料価格の高騰と乱高下は、多くのMDGsの達成にとって幸先のよい状況ではありません。消費者の購買力を損ない、健康と教育に長期的な悪影響を及ぼすだけでなく、何百万人もの人々が貧困と飢餓から逃れられなくなります」と世界銀行のチーフエコノミスト兼開発経済担当上級副総裁の林毅夫(ジャスティン・リン)氏は語った。

「栄養はMDGsの中で忘れられたテーマの1つです。私たちは不安定な食料価格を最優先課題として取り組まなくてはなりません」と林氏は語った。

簡単な答えはない

『GMR2012』は、食料価格の急騰に対する国やコミュニティーのレジリアンスを強化する数々の対策を提示している。例えば、農業従事者による生産増大を促進する農業政策の策定、レジリアンス強化のための社会的セーフティーネットの利用、乳幼児の成長を促進する栄養政策の強化、さらに食料市場へのアクセスを広げる貿易政策の策定や、食料価格の乱高下の抑制、生産性の向上などだ。

しかし国が食料価格の高騰に取り組む際に直面する状況は、世界的不況によってさらに悪化した。

「脆弱な世界経済は人間開発の目標へ向かう開発途上諸国の前進を大きく遅らせる可能性があります。なぜなら、特に低所得諸国の財政や債務、会計の現状が世界金融危機によって弱体化しているからです」と、IMFのヒュー・ブレデンカンプ戦略政策審査局副局長は述べた。

「食料価格の乱高下に対応するために、保険や、先物市場への穀物販売といったリスクヘッジを取り入れて財政や金融政策を補完する開発途上国が増えています。こうした対応は自然災害や商品価格の変動といったリスクを管理する、より広い戦略の一環となり得ます」と、IMFでシニアエコノミストを務めるリンゲ・ニールセン氏は語った。

『GMR2012』の主任執筆者であり世界銀行のリード・エコノミストのジョズ・バービーク氏は、要因が重なった「最悪の状況」が食料問題の解決を困難にすると警告した。開発援助の予算が減少し、人口増加と食料価格の高騰が続けば、貧しい人々への栄養プログラムに重点的に取り組むことはますます難しくなる。

「私たちの予測では、2015年時点で推計10億2000万人が依然として極度の貧困の中で生活しています。特に貧困層や弱い立場にいる人々の食料安全保障や栄養状態を改善するには、新たな方法で支援を強化しなければならないことは明らかです」とバービーク氏は述べた。

こうした認識があるからこそ世界銀行は、先日開催された世界銀行・IMF合同開発委員会で、「効果的で財政的に優良な」社会的セーフティーネットへの支援を拡大するという世界銀行の計画に対し加盟諸国から支持を得ることができたのだ。

「国際会議ではしばしば、金融機関に対する国際的なセーフティーネットが大きく取り上げられますが、人々の暮らしを守るセーフティーネットにも同じ様に着目する必要があります」と、世界銀行総裁を退任することが決まっているロバート・B・ゼーリック氏は2012年4月12日に述べた。

「周知のとおり、組織の影響はあまりにも大きいので崩壊させるわけにはいかず、それは危険な状況です。しかし、金融システムや規制、ファイアーウォールについて議論することよりも、人々を支えることの方が重要であることを忘れてはなりません」

だからこそ私たちは議論を超えて、行動を起こす必要があるのだ。

翻訳:髙﨑文子

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。