世界の最も持続不可能な都市を変える

好むと好まざるとにかかわらず、都市はほとんどの人間にとってライフスタイル・モデルになりつつある。そして、あなたの第一印象がマンションに住み、通勤生活を送るファッショナブルなタイプで、どんな疑問にもマウスを2回クリックすれば必ず答えを得られる人物だったとしても、上記の傾向から免れないかもしれない。

アメリカ最大の都市、ニューヨークを世界的視野の中で捉えてみよう。この街でさえ、人口密度はテヘランと同程度でしかなく、面積では他の17都市には及ばず、そのうち14都市はアジアの街だ。アジアは巨大都市の急増に直面している。巨大都市には、貧困、疎外、暴力、病気、自然災害といった複数のストレス源に対して極度に影響を受けやすい人々が相当数暮らしている。彼らの中には、マニラの氾濫原(実際に氾濫する場所だ)に建てた掘っ立て小屋に暮らす人もいれば、バングラデシュの衣料品工場で何とか命をつなごうとする人もいる。

国連は、都市の成長の93パーセントは開発途上国で起こり、80パーセントはアジアとアフリカで起こるだろうと推測している。実際、アジアはすでに世界のどの地域よりも原材料の消費ペースが速い。こうした都市は、1世紀前に欧米諸国が始めたタイプの産業化にどっぷりとはまり、欧米諸国に追いつきたいと考えているが、追いつくことはないだろう。私たちが他の惑星を植民地にしない限り、それは不可能なのだ。

アメリカでは、自由な精神の持ち主がカントリーライフを少し味わうために街での仕事を辞めていく一方で、それよりも多くの人々が街に集まってくる。そしてアメリカの82パーセントはすでに都市化されている。

アメリカでは、自由な精神の持ち主がカントリーライフを少し味わうために街での仕事を辞めていく一方で、それよりも多くの人々が街に集まってくる。そしてアメリカの82パーセントはすでに都市化されている。多くの都市が経済や交通や土地利用における効率性を実現させるために、都市同士の近接性から恩恵を受けている。その一方で、一部の都市は社会や環境面で限られた恩恵しか享受できていない。

では都市を持続可能にする要因は何だろうか? 今では研究者や政策立案者は、唯一の解決策を計画し実行するというモデルが弱いことを認識している。そのため一部の都市はトランジション・マネジメント(TM)というフレームワークに注目し始めている。TMはヨーロッパから輸入された概念で、社会は技術、文化、組織、その他の要因の相互作用を通じて進化すると考えられている。それらの要因は時には有益に働くが、多くの場合、惰性や既得権益を通じてあらかじめ決定された結果に私たちを閉じ込めてしまう。その状況を信じられないという読者には、なぜあなたは自分の車を電気コンセントにつなぐのではなく、いまだに75USドルのガソリンで満タンにし続けているのか、自問してみてほしい。

都市経営のような複雑なシステムの場合、計画者は最良の行動パターンを推測すらできないほど不確実性が高い。推測したり過ちを犯すリスクを負ったりするのではなく、TMアプローチはまず、短期目標ではなく長期的なビジョンに基づいてアイデアをまとめ、大筋での合意を取り付ける。オランダの事例では、政府はこの手法によって複数のステークホルダーのフォーラムを促進させた。このようにして、方向性が問題解決から相互学習に転換し、ビジネス戦略と政策における漸進的実験によって技術的修正への依存を克服する方向に変わる。こうした戦略のすべてが功を奏するわけではないが、成功した数例が社会変化を好ましい方向に導き、理想的には多様な利益を調整する。このアプローチは1つの解決策で問題を解決しようとしないため、より効果的になり得る。

基本的に、これは変革における壮大な実験である。フェニックス市は、さまざまな機関の中でもとりわけアリゾナ州立大学(ASU)の持続可能性学部と提携し、TMのフレームワークを使って街がトランジションへ向かう道のりを総合計画の中で更新しようとしている。同プロジェクトに参加しているArnim Wiek(アーニム・ヴィーク)教授に、こうした提携にとってなぜフェニックスが優良候補なのか尋ねたところ、答えは簡単だと言った。

「フェニックスで持続可能性を実現できれば、どこでも実現できるからです」と彼はアンドリュー・ロス氏の著書『Bird on Fire: Lessons from the World’s Least Sustainable City(火のついた鳥:世界で最も持続不可能な街から得る教訓)』を引用しながら語った。

「自動車に依存した都市のスプロール化現象から、エクササイズを行う公共スペースの欠如まで、問題は多岐にわたり、さらにフェニックスのような砂漠の街では長期化する干ばつの問題もあります。フェニックスはこれまで、多くの持続不可能な特性を抱えてきました。だからこそ、何かを始めるには最適の街なのです!」

深刻な予算削減と実行不可能な都市計画書に直面したフェニックス市の開発計画部署は、フェニックスのトランジション計画とその実現に向けた戦略を開発するためASUと提携した。初期の草案は、強い地域経済、海外と地域の事業の統合、医学研究と開発を中心とした産業、公共事業への民間企業の参加を追求した。

「私たちは解決策に焦点を合わせ、街じゅうのステークホルダーたちと共同し、複雑な都市システムにとってどんなトランジションの経過が実行可能なのかを模索しています」      アリゾナ州立大学(ASU)Arnim Wiek(アーニム・ヴィーク)教授

プロジェクトは街が主導しているので、政治的合法性を確保している。教授ばかりではなく大学院生たちが参加しているため、解決を優先させた実践的な研究に取り組む機会でもある。すなわち、街をよりよくするためにTMの理論を運用可能にするということだ。ヴィーク教授は、フェニックス市のグレッグ・スタントン市長がこのプロセスを全面的に支援していると語った。市長は自身の任期中に都市の持続可能性を強化するという課題を公約している。

しかしヴィーク教授は、今回の取り組みが持つ変革の特性を次のように強調している。「持続可能性はいまだに、現状を分析する問題中心型のアプローチが主流です。ここでは、私たちは解決策に焦点を合わせ、街じゅうのステークホルダーたちと共同し、複雑な都市システムにとってどんなトランジションの経過が実行可能なのかを模索しています」

次のステップはすでに始動している。それは「Re-invent Phoenix(フェニックスを改革しよう)」と呼ばれる、アメリカ住宅・都市開発省からの290万USドルの助成金である。フェニックスの交通中心型の開発構想を実現するためにライトレール交通網に注目した過去の取り組みに基づく助成金だ。

こうした計画は、研究者が事業者や地方政府と提携すれば、技術変化を伴うトランジションを念頭に置いた持続可能性のための新たな未来が見えてくることを証明している。それは素晴らしい発想ではないか。

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本稿は北米都市の持続可能性指標を集めるプロジェクトから寄せられました。

翻訳:髙﨑文子

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著者

ダレック・ゴンドール氏は作家兼編集者であり、カナダ政府の政策分析家である。過去には国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)で、国際学術誌『Sustainability Science』の編集委員および研究員を務めた。彼は公共政策の観点から人間と環境の相互作用の影響について執筆している。ゲルフ大学で生態学、またカールトン大学で公共政策の学位を修得している。