感染症に対する万能薬はワクチンでなく、別の策

ブラジルは、過去2年間で2度目の記録的な黄熱病の蔓延に苦戦している。オランダで発症した1人を含め、感染を疑われる患者が数百人に達する中、政府は最近、最も感染が広がる各州で3,800万人に予防接種を施し、蔓延を止めるという計画を発表した。それはブラジルだけの話でない。大西洋を越えたナイジェリアでも、2017年9月から黄熱病が流行し、過去最大規模の予防接種キャンペーンが展開されている。

かつて都市黄熱病は世界的な猛威を振るい、数千人の死者を出した。そして、19世紀には、感染症の国際的監視システムの創設に向けた取り組みが始まった。1950年代以降、黄熱病はある特定の地域に流行する病として、アフリカと南米の一部に限定されていた。しかし、この数十年で発症頻度は急上昇している。こうした新たな流行は、都市黄熱病が恐ろしい速さで蔓延することを改めて示している。

このような流行を防ぐため、通常、政府は3つの戦略のいずれか(1つまたは複数)を採用する。一つ目の戦略である予防接種は、1回1米ドル程で一生分の免疫を確保でき、人から人への感染を防ぐ安全な方法だ。二つ目は、感染症を媒介する生物への対策で、病原体を運ぶ蚊の個体数を減らし、感染を抑える策だ。三つ目は、流行地域を往来する渡航者に国際予防接種証明書を義務づけ、感染の疑いがある人の移動に制約を加える戦略だ。

これらの戦略は、ローカル、グローバル双方のレベルで、短期的にその効果を証明してきたが、いずれも新たな感染症に対する万能薬とはなっていない。

その理由は次のとおりだ。

第1に、ブラジルとナイジェリアにおける大規模キャンペーンで見られるような予防接種は、賢い選択のように見えると共に、高い効果を上げてきた。しかし、大規模な蔓延の場合においても(小規模の目に見えない蔓延の場合は言うまでもなく)、このようなキャンペーンの財源や政治的意志の維持は難しいという点が問題となっている。ブラジルは、2017年に黄熱病が流行した際、既に国民への予防接種を約束していたが、財源面の懸念から、その計画を完遂できなかった。また、ワクチンの供給(全国で予防接種を展開するには、大量の薬品や機材が必要になるため)と予防接種への同意(感染のリスクにもかかわらず、予防接種を受けない人々が多いため)に関する問題もある。

第2に、蚊の駆除は厄介な作業となっている。都市に生息し、黄熱病を媒介することで知られている熱帯縞蚊(ネッタイシマカ)は、デング熱やジカ熱、チクングンヤ熱など、他の病気も媒介する。20世紀半ばの長期的な大陸規模キャンペーンにより、熱帯縞蚊は南米からほぼ駆除された。政府主導によるこの取り組みは、トップダウンで大規模であったため「準軍事的」と評されている。しかし、この対策プログラムは多額の費用がかかったため、感染者がいなくなったことを理由に中断されてしまった。また、ボトムアップ型でコミュニティを巻き込むこともなかったため、蚊はすぐに息を吹き返し、再び元の生息域全体に広がった。

第3に、人間の移動を制限することは、かつてないほど困難となっている。移動性を高めた人々がますます遠くへ、頻繁に動き回るため、現地住民と旅行者の境なく病気が急速に蔓延し、国境で予防接種の確認をする効果は低下してきた。2015年から2017年にかけてアンゴラで流行した黄熱病は、隣国のコンゴ民主共和国だけでなく、空路を通じて中国やケニアにも広がった。また、ブラジルで流行中の黄熱病も、すでにオランダに飛び火した症例が1件見られる。

このように、主な予防戦略のそれぞれに固有の課題がある中で、複雑なグローバルヘルス問題の現実的な解決策を見出すためには、どうすればよいか。

都市の拡大、貧困の増大、人間や病原体、商品のグローバルな流れの加速で生じる感染症のリスクに対応すべく、都市の設計、構築、管理の方法を考え直す必要がある。

感染症を根絶するための科学的知識を充実させ、これを基に疾病対策を着実に進展させる必要がある。その中には、短期的な流行対策プログラムでなく、長期的で持続可能な根絶プログラムの実施が含まれるべきだろう。例えば、南米は、ネッタイシマカの根絶に成功したとして予算を削減し、プログラムを打ち切った。その結果、蚊が再発生してしまった。より持続可能な手法を採用し、トップダウンとボトムアップの活動を結合すれば、そもそもの流行の可能性が下がるだろう。

更に幅広い観点から見れば、都市の拡大、貧困の増大、人間や病原体、商品のグローバルな流れの加速で生じる感染症のリスクに対応すべく、都市の設計、構築、管理の方法を考え直す必要がある。感染症対策は、地球公共財(どの国にも、単独でリスクを管理する能力も誘因もないが、すべての国に影響を及ぼすという意味で)とみなし、相応の取り組みが行われるべきだ。2017年に発足した黄熱流行の排除に向けた国際戦略(EYE)は、多数の部門が関与し、対象範囲が広く、ハイレベルで強力な政治支援もありえるという点で、歓迎すべき動きだ。

今日のグローバル化と相互接続が進む世界は、過去に例を見ない都市化と大量の人々の移動を特徴としており、病原体の移動も国境を越えている。国際予防接種証明書による旅行者と受け入れ国両方の保護を土台としながら、国際保健規則は新しく、効果的に強化される必要がある。

感染症が流行する度に、大量のワクチンを投与して退治しようという取り組みは、必ず失敗する。感染症の流行によって高まった意欲と政治意志を生かして、長期的で持続可能、かつ総合的な疾病予防へのアプローチを確立すべきだろう。

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著者

パスカル・アロテイ教授は、国連大学グローバルヘルス研究所(UNU-IIGH)所長。4つの大陸で20年間、グローバルヘルスの研究者として健康と福祉の増進に努めてきた。主な研究分野は健康の公平性、健康と人権、ジェンダーと健康の社会的決定要因、強制移住と疎外、性と生殖に関する健康、感染症と非感染症。

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