ノルウェーの石油経済がバブルだとしたら?

ノルウェーの25万人の雇用は石油に依存している。こうした雇用は高給であり、高度な技術的スキルを必要とし、国の給与水準を押し上げている(ノルウェーの製造業の賃金は欧州連合(EU)の平均より70パーセント高い)。ノルウェーのような小さな国にとって、これほど多くの石油関連の雇用は将来的な財政難を招く原因になりかねない。ノルウェーはオランダ病に向かいつつあるかもしれないと指摘することも可能だ。オランダ病とは、資源開発への依存によって製造部門が衰退する状況であり、ここで言う資源とは石油である。

さらに厄介なのは、ノルウェーの主要政党が経済のコントロールをスタトイル社に手渡してしまった可能性があることだ。2013年9月に行われた首相候補選挙では、ノルウェー経済の画一性に関する懸念が話題となり、地球温暖化は世界が抱える最大の課題であることも触れられた。

しかし、非石油産業への減税が提案された以外には、打ち出された方向性に大きな変化はなかった。熟練労働者を吸い上げ、他の産業に労働力不足を生んでいる石油産業に対し、減税措置は限られた影響しか及ぼさないだろう。失業率は3.5パーセントほどでしかなく、そのうち約3分の1は長期的失業者である。つまり摩擦的失業(労働者が新しい雇用を探している期間あるいは次の雇用へ移るまでの期間の失業)が恐らく失業率の大きな割合を占めている。

経済協力開発機構(OECD)によると、ノルウェー経済は2013年および2014年、堅調に拡大すると予測されている。その主な理由は石油産業における投資であり、「石油以外の輸出は引き続き低迷する一方、労働力への高い需要が失業率を抑え、賃金伸び率を高めるだろう」と予測されている。ノルウェー国民の高齢化なども相まり、労働力の需要に応えるためにノルウェーへの移民数は過去最高を記録している。ノルウェー統計局によると、「移民と、移民である親の元にノルウェーで生まれた人の人数は、2012年に5万5300人増加した。これは過去最高の伸びである。2013年初め、ノルウェー国内にいる移民は59万3300人、移民である親の元にノルウェーで生まれた人は11万7100人だった」。

労働力不足は、経済危機にあるEU諸国からの熟練労働者によってある程度までは補える。しかし、多くの仕事は海外からやって来る低賃金の単純労働者によって埋め合わせるしかない。その結果、クウェートやカタールなど中東地域の小さな石油輸出国で見られる状況に似た過程において、外国人の二流労働者階級が形成されていく。

石油の高値に依存する

ノルウェーの石油経済は石油価格の高値を必要とする。こうした観点で言えば、ノルウェーは他の石油産出国と同じ利害を共有している。さらにノルウェーのエネルギー担当大臣たちは、例えばサウジアラビアを定期的に訪問している。富の創出のための石油輸出へのこうした依存は、オルタナティブなエネルギー源への投資を制限する結果を生みかねない(ノルウェーは大規模な水力エネルギー源に恵まれているにもかかわらず、その他の再生可能エネルギーへの投資は比較的低調なままだ)。

ノルウェーやサウジアラビアのような石油輸出経済国にとっては残念なことに、スウェーデン、デンマーク、ドイツといった石油輸入諸国は、石油への依存と需要を組織的に低減しようと努めている。その一方、フランス、イタリア、スペインなどの石油輸入量は不況の影響で減少しつつある。中国でさえ、石油輸入への需要が伸びるペースをコントロールしようとしている。

より長期的な観点からすれば、石油、ガス、石炭は再生可能資源ではないため、いずれは消滅する。最も確実に入手できる安価な資源が最初になくなるのだ。その次に高価で非従来型の資源(タールサンド、シェールオイルやシェールガス)が2番目になくなる。周辺的な資源に掛かる費用、特に外部費用は増加し、利益率は減少する。石油はさらに高価になり、代替資源は安くなる。従って、石油部門は斜陽産業であり、再生可能エネルギーは成長産業なのだ。

石油への継続的投資には気候政策の失敗が不可欠

幾つかの国は、化石炭素の価格を上昇させる効果的な気候協定を支持している。このような協定が実際に施行された場合、石油需要の急速な減少と収益の激減に結びつく可能性がある。世界の石油価格は現在1バレル当たり約110USドルだ。石油需要と価格が下落した場合、ノルウェー経済はどうなるだろうか? ノルウェーで石油部門と同じ程度の高給を維持できる、創造的で生産的な産業とは何だろうか?

たった1つの大きな経済的な支柱を頼りにすることはリスクが高い。一方で、頼りになりそうなノルウェー企業は人件費が安い国外へ向かいつつある。ユーロスタットによると、EUの主要貿易相手国の2012年平均時給は30USドルだったのに対し、ノルウェーの時給は61USドルだった。このような差異があるため、移民による労働力を受け入れつつも、労働の外部委託は避けられない。今ではノルウェーのホテルやレストランの労働者はスウェーデン人で、建設作業員はポーランド人やラトビア人で、タクシー運転手はパキスタン人である。石油産業の冒険が終わりを迎えた時、こうした労働者のほとんどはノルウェーを離れるだろう。

この状況は無症状のオランダ病である。しかし、経済は順調であるため、患者が健康そうに見える状況では最も勇敢な政治家であっても何もできはしない。真に先を見通す政治家でなければ対処できないうえに、政治という短期的な世界ではそれは容易なことではないのだ。現在のノルウェー経済の脆弱(ぜいじゃく)性を認識し、早いうちにリスクを低減することが、より責任ある政策である。

最近の世界銀行の報告書によると、温室効果ガスの排出を削減する思い切った対策を取らなければ、私たちは「極端な熱波と命を脅かす海面レベルの上昇を特徴とした『気温上昇4度の世界』に向かう」。ノルウェーで操業しているスタトイル社や他の石油企業は石油開発への投資を削減する気が全くないようであり、今後地球の気温が3~4度、上昇する状況に手を貸すというリスクを明らかに受け入れている。EUによると、「地球の平均気温の上昇を、産業革命以前の気温と比べて2度未満に保つ可能性を50パーセントにするためには、大気中の温室効果ガス濃度を二酸化炭素(CO2)換算で450ppm未満に安定化させなければならない。400ppm未満に安定化させれば、目標を達成できる可能性をおよそ66パーセントから90パーセントに高められる」

ノルウェーの政治家たちが石油産業に規制を設けることができないようなので、石油企業は自ら規制することになる。スタトイル社は自社の純損益には責任を取るが、ノルウェーにとって何が最良策なのかという点には責任を取らない。そうなると、気温上昇2度を回避するためには大がかりな国際努力が必要となる。

地球の平均気温が2度上昇する状況は、安全ではない。実際、1度上昇しただけでも、損害は高くつく。極端な天候事象や干ばつや洪水が増えるだけでなく、大気中のCO2上昇によって海洋の酸性化がますます進む

私たちが気温上昇を2度未満に抑えられれば、劇的な変化を避ける希望はまだある。2度を超えれば、私たちはほぼ間違いなく1つ、あるいはそれ以上の転換点に到達するだろう。現実にはノルウェーの政策は未来の世代にとって破滅的な気候変動を受け入れている。私たちはあえて孫たちから未来を盗んでいるのだ

ほとんどの石油は地下に残しておくべき

スタトイル社は、将来の気候災害を回避するためには世界の既知の石油埋蔵量の3分の2は地下に眠ったままにすべきであることを、理論的には受け入れるかもしれない。さらに同社は、ノルウェーの石油生産は他の国に比べて環境に優しいのだと主張している。ノルウェーの石油生産技術は最高レベルであり、抽出された石油1バレル当たりのCO2排出量は10キログラムにも満たない。しかし環境に関する議論が重要ならば、サウジアラビアでは1バレル当たり6キログラムをわずかに超えるCO2排出量で石油を抽出している。スタトイル社が環境に優しい企業として認識されたいのであれば、カナダのタールサンドなど非従来型の資源から少なくとも手を引くべきである。そうした資源利用によって、抽出された石油1バレル当たり、100キログラムもの化石燃料由来のCO2が大気に排出されているのだ。

しかし、結局のところ、石油の抽出は主要な問題ではないことを私たちは本当は知っている。問題は燃料の消費なのだ。産出国がどこであれ、1バレルの石油が燃焼されるたびに、400キログラムの化石燃料由来のCO2が大気に排出されている。現在、世界は9000万バレル近くの石油を毎日燃焼している。大気中のCO2蓄積量はすでに2013年5月時点で400ppmに達した。その他の温室効果ガスを含めれば475ppmに達している。人類由来の地球温暖化が現時点までに引き起こした大気中の水蒸気の増加5パーセントを含めれば、500ppmにいよいよ差し迫る。行動を起こさなければ、気温上昇3度を超える状況はすでにシステムに組み込まれているのかもしれない。

こうした状況を考慮した場合、ノルウェーの石油年金基金を炭素集約的活動に投資し続けることは、明らかに無責任だ。ノルウェー国民は同基金を責任ある気候政策のための道具として利用し、グリーン技術に投資しなければならない。

今後10年間で私たちは大きな転換を目撃するだろう。経済協力開発機構の一部の加盟国は恐らく石油輸入量を半減し、再生可能エネルギーは化石燃料よりも安価になり、スマートグリッドや改良された電池貯蔵や走行距離がさらに長い電気自動車などの新しい技術が導入されるだろう。ノルウェーは石油に依存した経済により、後れを取ってしまう恐れがある。同時に、気候変動の兆候はさらに明らかになり始め、それに関連して、増え続ける難民の流入を含む社会的および経済的影響も明らかになるだろう。

こうした課題に対処し、ノルウェー経済において脆弱な25万人の石油関連雇用を減らし始めるために、ノルウェーは幾つかの変化を起こすことが可能だ。第一に、経済の多様化である。再生可能エネルギー、環境に優しい加工業、漁業、観光業、ナノテクノロジー、ロボット工学、グリーン建築、自給性、情報コミュニケーション技術は、ノルウェーにとって当然考えられる優先分野の一部だ。第二に、こうした新しい経済を実現するために、現在の富を活用することである。政府保証、減税、特別措置、その他の石油抽出や生産の増加を促すインセンティブを停止し、それらの資金を他の産業部門に支給する。第三に、選挙で選ばれた政治家が一歩踏み出して、ノルウェー経済を管理し、スタトイル社からコントロールを取り戻すべきである。

ノルウェーの経済と社会は、石油というたった1本の崩れかけた支柱に頼るべきではないのだ。

翻訳:髙﨑文子

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著者

スヴェン・オーケ・ビョルケ氏はアグデル大学の開発学センターの講師をしており、前職はノルウェーのUNEP GRID Arendal(国連環境計画・地球資源データベース・アーレンダール)で勤務していた。