次期アメリカ大統領候補の気候変動への見解

元副大統領で、合衆国大統領候補でもあった、著名な気候変動活動家のアル・ゴア氏は先日、自身と同じ民主党のバラク・オバマ大統領が任期中に気候変動対策をさらに推し進めるための十分な努力をしていないと批判した。

「オバマ大統領は今までのところ、気候変動に関する大胆な行動の必要性を訴えるために公職の権威を活用できていない」と、ゴア氏は『ローリング・ストーン』誌に掲載された克明な評論で主張している。

ノーベル賞受賞者でもあるゴア氏は、オバマ大統領はグリーン景気刺激策や地球温暖化の原因となる汚染物質の規制強化策を採用することで、ある程度は政策を確実に前進させたと認める一方で、大統領がメディアや連邦議会の反対派たちに真っ向から立ち向かっていない点を特筆している。

「……オバマ大統領はアメリカ国民に対して一度も気候変動問題の重大さを示したことがない。行動を起こす必要性を訴えたこともない。いまだに続く、不実で激しい攻撃から科学を守ったこともない。さらに、全米科学アカデミー1を含む科学者のコミュニティーが大衆に気候科学の現実を提示できる場を大統領として用意したこともない」

気候変動のような重大な問題にオバマ大統領がどう取り組んだかという記録は、任期が終了するまでの期間全体を通して慎重に分析すべきである。気候対策のように大規模な経済政策やエネルギー政策の変更は数年かかることが多く、その効力が現われて評価が下されるまでには何十年もかかる場合さえある。少なくとも2013年初頭の任期終了後まで、そして再選された場合にはさらにその4年後までは、恐らくオバマ大統領に完全な成績表を渡すことはできない。

では、次期合衆国最高司令官の候補者たちは気候変動に関してどのような見解を示しているか。2012年11月の大統領選挙で共和党候補がオバマ氏からホワイトハウスを奪還した場合、共和党はアメリカの排出量削減のために何をするだろうか。

有力候補たちの信条や政策案は、アメリカの有権者にとってだけでなく世界各国の市民にとって重要だ。アメリカは世界最大の経済国であり、世界第2位の温室効果ガス排出国(2007年に中国がアメリカを抜いて総排出量では世界最大の排出国となった)であるため、気候変動に関する国際的な協定を成功させるにはアメリカの合意が不可欠である。失敗に終わった京都議定書の経験から明らかなように、主要国には世界のプロセスを行き詰まらせる力があるのだ。

「保守穏健派」たち

共和党の大統領候補指名選挙戦はまだ初期段階だが、ギャロップの世論調査によれば、オバマ氏の本命対抗馬は前マサチューセッツ州知事のミット・ロムニー氏だ。有力候補全員の中で、世界の科学的コンセンサスを受容しているロムニー氏はメインストリームの議論に最も近い立場だ。

「私は地球が温暖化していると信じています。そして、その原因は人間だと信じています……重要なのは私たちが、温暖化の大きな原因かもしれない汚染物質や温室効果ガスの排出を削減することです」と、ロムニー氏は今年6月の支援者集会で語った

科学への信頼はあるものの、ロムニー氏は今のところ気候変動の問題や、さらに広い意味では環境劣化という問題をあまり重要視していないようだ。自身のウェブサイトで、ロムニー氏はエネルギー安全保障の問題に軽く触れているだけで、新たな化石燃料の発掘や原子力発電を引き続き支援することを示唆している。

ロムニー氏は明らかに、気候変動について語りすぎるのを避けたいのだ。なぜなら、ティーパーティー(保守派の草の根運動)2が政府や科学者やメインストリームのメディアに向けて発した懐疑論的なメッセージに魅了された多くの共和党有権者に、自身があまりにも中道的に見られることを恐れているからだ。

共和党候補者の様々な見解がある中で、リベラルな傾向を持つ保守派と定義されている「ウェット(保守穏健派)」の1人に、合衆国下院元議長のニュート・ギングリッチ3氏がいる。ギングリッチ氏は2008年の両党出演のビデオで次のように主張している「アメリカは気候変動に取り組む行動を起こさなくてはなりません……私たちが結束してリーダーに行動を要求すれば、必要な改革をスタートさせることができるのです」

しかし当然のことながら、オバマ政権の初期から、政治の世界では右派にとっての追い風が吹いた。ロムニー氏と同様にギングリッチ氏も、政府の介入を要求するリベラルな主張だと見なされる見解に同調している様子は決して見せたくないようだ。今や彼は全米科学アカデミーの調査に疑問を呈するだけでなく、気候変動に関する行動と、真実であるかどうかは別として政府が国民生活に介入することへの人々の不安を結びつけている。

「現在、左翼知識人にとって4気候変動は、国民生活をコントロールするための最新の口実です。この最新のネタを根拠に、彼らは私たちの生活を取り仕切る新たな官僚制度を求めているのです」と、彼は2011年5月にニューハンプシャー州で開催された集会で観衆に語った。

地球温暖化が人災であるという考え方をきっぱりと無視するわけでも、受け入れるわけでもないギングリッチ氏の姿勢は、選挙戦での数回の失態によって5すでにプレッシャーを受けている候補者としては、難しい論法だろう。

極右候補

全く対照的に、最近出馬を表明したミシェル・バックマン6氏は、気候変動に関する見解が首尾一貫していないと非難することはできない。ミネソタ州選出で、ティーパーティーに人気のあるバックマン氏は、地球温暖化は「まったくのインチキであり、ナンセンスで、くだらない戯言」だと2008年に断言した。その後もバックマン氏は姿勢を軟化させていない。彼女は環境保護局(EPA)の規制権限をさらに縮小しようとしており、環境を汚染する人々がさらに汚染しやすくすることを誓っているのだ。

ミネソタ州から出馬したもう1人の候補者は、2003年~2011年に同州の知事を務めたティム・ポーレンティ7氏だ。バックマン氏とは異なり、ポーレンティ氏は自身の信条よりずっと保守的な州の共和党極右の有権者たちから支持を得るために、姿勢を変更しなければならない。そのために、彼は有力候補者たちの中では最も露骨に気候変動に関する方針を180度転換してみせた。知事としての経験は選挙戦で有利に働くはずなのに、知事時代の進歩的な気候変動政策から自身を遠ざけようとしている。そればかりか、彼が今では反対している「キャップ・アンド・トレード」方式をかつて支持していたことについて「間違いだった」と発言するほどだ。

候補者たちによく見られる傾向の持ち主で、自由主義者8であり、何度か大統領選に出馬したことがあるロン・ポール氏は、気候科学に関して流動的な見解を示してきた。にもかかわらず、ポール氏はあらゆる政府の介入には一貫して懐疑的であり、無制限の自由市場に頼る以外、再生可能テクノロジーを促進する政策を彼が支持する可能性はほとんどない。

では、共和党の候補者たちに関して最も注目されている話題は何か。この記事を執筆している現時点では、前副大統領候補で前アラスカ州知事のサラ・ペイリン氏が2012年大統領選に出馬するかどうかは未定だ。そして、気候変動懐疑派と自称する彼女が、アメリカの国民1人当たりの非常に高い排出量を削減するための行動を起こすとは考え難い。ところが、強硬な姿勢を貫くペイリン氏がこの問題に関して紛らわしい姿勢を取っていることに、読者の方々は驚くかもしれない。気候変動の信奉者だったジョン・マケイン氏の2008年の大統領選を支援していた際、彼女は次のように認めていた「人間の活動は確実に、地球温暖化や気候変動の問題を引き起こしている可能性があります」

方向転換の可能性

ペイリン氏はまだ出馬の有無を表明せず、数人の候補者たちは選挙戦における方針をまだ模索中である現在、2012年8月に開催される共和党全国大会で共和党が公式に大統領候補者を発表するまでの道のりは長い。

明らかに、ほとんどの候補者たちの気候変動に関する見解は、その時に誰が耳を傾けているか、あるいは誰が投票するかに左右される。有権者は大統領選挙戦の間に、共和党候補が保守的な民主党支持者や無党派の有権者を取り込むために自身の見解を覆すのを目撃するかもしれない。ギングリッチ氏やロムニー氏のような比較的穏健な候補者は、共和党予備選挙を首尾良く勝ち進んだ場合、気候変動の問題に関して進歩的なスタンスに歩み寄る可能性が非常に高い。そして当然のことながら、彼らはその後の選挙戦で「日和見主義者」と呼ばれるリスクを負う。

その一方で、ティーパーティーの本命馬であるバックマン氏と、出馬した場合にはペイリン氏は、自身の強硬なスタンスを翻すのは難しいと恐らく考えるだろう。そしてポーレンティ氏が勝ち残った場合も、2011年5月の候補者たちによるテレビ討論会で彼が言った「経歴の傷」を繰り返すのではなく、地球温暖化を否定する強硬な論調を固守せざるを得ないだろう。

いずれにせよ、特にバックマン氏、ペイリン氏、ポーレンティ氏のいずれかが大統領となり、共和党が政権を握った場合、国際社会で損なわれてしまったアメリカの気候変動に関する外交評価はさらに悪化し、すでに危うい状況にある、行動に向けての世界の協力体制を台なしにする可能性がある。

気候変動の緩和策に積極的な反対キャンペーンを張る人々に対し懐柔的な態度を取るオバマ大統領について、ゴア氏や批評家たちがどう考えているにせよ、全体としてオバマ大統領は気候科学を尊重し、共和党の大統領候補者たちの誰よりも優れた行動計画を提示していることは明らかである。

しかしオバマ大統領の気候政策そのものが優れているか否かという問題は、また別の問題であり、その答えは時間の経過と共に得られるだろう。そして大統領も有権者も、時間がないという事実にそろそろ気づくべきなのだ。

翻訳:髙﨑文子

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次期アメリカ大統領候補の気候変動への見解 by マーク・ノタラス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。