新鮮な魚を買うのは難しい。世界中の多くの地域でそうであり、たとえ海のすぐそばに住んでいても同じである。漁業で知られたカナダのノバ・スコシア州最大の街であるハリファックスでは、地元で捕れた魚の切り身が漁船からスーパーマーケットまでたどり着くのに、少なくとも6日かかる。海から食卓に上るまで約1週間もかかるのだから、その魚は新鮮だとは言い難い。
この状況が今、変わりつつある。5人の漁師がアトランティック・カナダにおける魚の売買方法を改善しようとOff The Hook(オフ・ザ・フック)を創立した。彼らは地産地消運動の地域支援型農業(CSA)の一環である直接販売プログラム、すなわち農家の人々が直接顧客に農産物を売る方法に賛同し、この活動を地域支援型漁業と呼んでいる。CSAと同様に、Off The Hookの組合員は漁期の初めに一括料金を支払う。そして毎週、捕れた魚の割り当てを受け取る。例えば嵐に見舞われた昨年の夏のある週のように、漁獲量がゼロだった場合は、割り当てもゼロだ(漁師達は契約上の義務はないものの、後日、大目に魚を配った)。
しかし大抵の場合、30センチほどのモンツキダラやヘイク、タイセイヨウマダラなどが、組合員に十分行き渡るほど捕れる。換算すれば週60ドルとなるフル会員料金を支払えば、最高5匹の魚を自宅に持ち帰ることができる。また、週30ドルのハーフ会員なら2匹を受け取れる。
こうして受け取る魚はスーパーマーケットで買う魚とは異なる。第一に臭くない。海で捕れてから通常24時間しか経っていないからだ。魚は船上ですぐに氷づけされ、その後コンテナに入れられてトラックで運ばれる。さらに、漁獲方法も異なる。今日の商業漁業はトロール船を用いる。トロール船は巨大な網を海底で引きづり、そこに引っかかる物はすべてすくい上げてしまう大きな船だ。この侵襲的な漁法は、1990年代初めに起きたカナダ東部のタラ資源の激減の大きな原因となった。
Off The Hookでは、何十年も漁師達が行ってきたように、縄に取り付けた多くの針にエサを付け、モンツキダラのような底生魚が生息する海底へ縄を沈めて魚をとる漁法を採用している。
一方この協同組合では、環境へのダメージが少ない底はえ縄漁と呼ばれる環境に優しい漁法を採用している。何十年も漁師達が行ってきたように、縄に取り付けた多くの針にエサを付け、モンツキダラのような底生魚が生息する海底へ沈める漁法だ。漁師達は、はえ縄を12時間沈めた後、小型船で魚を引き揚げに行く。この漁法で漁を行う人たちは今ではますます少なくなっている。なぜなら漁獲量が比較的少なく、港での売値は安いからだ。一方、大型のトロール船は毎日何千ポンドという大量の魚を捕るという規模の経済で稼いでいる。
「漁師達はアトランティック・カナダのコミュニティーを構成する中心的存在です。彼らを失えば、私たちのアイデンティティーにとり重要かつ不可欠な何かを失うことになります」とセイディー・ビートン氏はハリファックスで語った。彼女はエコロジー・アクション・センターの地域支援型漁業コーディネーターで、Off The Hookの創立を支援するために同組合に雇われた。
ところが捕った魚の販売方法については、漁師達は伝統に背を向けつつある。植民地時代から、海洋漁業は遠く離れた市場にも海産物を供給し続けてきた。かつての漁師達はfishing lord(漁主)、すなわち仲買人に漁獲物のすべてを買い取ってもらうしかない弱者だった。
今年の夏、Off The Hookは、魚を切り身にし、それを協同組合に戻してくれる地元の加工業者を見つけた。港で売られた魚は広範囲を網羅する食料システムに直接渡されるのが一般的だ。協同組合を創立し、近隣の街に住む消費者に直接販売することで、漁師達は従来の供給網を新たに作り変えている。そして、そうすることによって、より多い収入を得ることができるのだ。昨年の夏、仲買人が支払ったモンツキダラの買値は1ポンド当たり80セントから1ドルだったのに対し、漁師達は協同組合に3ドルで売ることができた。
「私たちは次世代に漁業を残すために、漁業を生かし続けようとしているのです」とOff The Hookのオーリー・ディクソン氏は語った。彼は少年の頃、父親と一緒によく釣りに行ったという。
自分たちの食べ物を知ること
昨年秋のある蒸し暑い日、魚を受け取りに来た組合員たちは、たとえ高くついても魚は漁師から買った方がいいと話してくれた。
「ヨーロッパでは、漁村へ行けば魚を買えます。ノバ・スコシアではそれができないんです」と100人ほどいる組合員の1人、アンドレア・チャーコップさんは言った。
「食料品店では魚がどこから来たのか明らかではない気がします」と語ったのは、やはり魚を受け取りに来ていたダルハウジー大学の博士研究生ジュリー・ジョーダンさんだ。
アイデアは広まりつつある。Off The Hookでは同様の活動を地元で始めるにはどうしたらいいか知りたい人々からの問い合わせが後を絶たない。
ニューイングランドの漁師の協同組合からヒントを得てOff The Hookが誕生し、ブリティッシュ・コロンビアには魚の直接販売プログラムがいくつか存在する。つまりアイデアは広まりつつあるのだ。今ではニューファンドランドの人々が興味を示しているし、ノバ・スコシアにはロブスターの協同組合も1つ存在する。グーグル社の社員たちはサンフランシスコ湾岸地域の漁師達とともに独自の地域支援型の活動を始め、Off The Hookでは同様の活動を地元で始めるにはどうしたらいいか知りたい人々からの問い合わせが後を絶たない。
顧客にとっては、スーパーマーケットから直接販売に単に乗り換えればいいという話ではない。なぜなら学ぶことがたくさんあるからだ。野菜と同様に魚にも旬があり、手に入る魚を工夫して調理しなくてはならない。例えば、昨年の夏はモンツキダラが豊漁だったが、今年の漁期は状況が異なるかもしれない。
ほとんどの人は魚を切り身で買うため、見た目だけでは魚の種類を識別できない(ちなみに最近の報告によれば、切り身は表示された魚種でさえないこともある)。さらに丸ごとの魚を手に入れても、さばき方が分からない人が多い。今年の夏から、Off The Hookでも切り身魚を提供する予定だが、顧客である組合員は魚のさばき方をまだまだ学ぶ必要があるだろう。
そしてそうした魚で、気軽に様々な料理を作ることができる。例えばフィッシュ・タコス、レモンとハーブを添えた焼き魚、こんがり炒めたタマネギとライスを添えた切り身の1品などだ。
*
漁師のクリフトン・”トニー”・サンバー・ジュニア氏と彼の家族。協同組合や漁師達についての詳細はOff The Hookのウェブサイトをご覧ください。
翻訳:髙﨑文子