メロンから散髪まで:ナイジェリアの価格高騰

ほとんどの住民が家路につく午後10時、ナイジェリアの商業中心地ラゴスの郊外、ソモルにあるアレイド市場が最も活気づいてくる頃だ。

缶を利用して作られた、間に合わせの灯油ランプが夜を照らす。建ち並ぶ店や木製の売店から売り買いの声が聞こえてくる。洋服、台所用品、果物、野菜、魚、肉を陳列した店が連なる通りは、マーケット・ロードと呼ばれている。自動車が通行するスペースはなく、この迷路を通り抜けられるのは人力車や自転車だけである。

10日前、この市場には人影がなかった。通りや店、学校、銀行も同様だった。1月1日、政府は燃料補助金の廃止を突然発表したため、ガソリン価格は一夜にして65ナイラ(0.41USドル)から141ナイラ(0.88USドル)に急騰した。これに対するストライキと抗議活動により、街は1週間にわたって閉鎖状態となったのだ。

グッドラック・ジョナサン大統領によれば、補助金廃止によって節約された財源(79億USドルに上る)は、崩れかけた発電所の改修や、穴だらけの道路の修復、健康と教育の向上のために使われるという。

しかし燃料価格が2倍になったために、商品価格や輸送費も2倍となった。ナイジェリア国民は、過去数十年間で最大の抗議活動を街で展開した。

1月16日、政府は譲歩し、補助金の一部を復活させたところ、生活は徐々に通常に戻った。市場のけん騒の中、物売りの女性たちは近所の人々や客に対して「ハッピー補助金」と声を掛ける。燃料補助金の廃止以降に誕生した新しいあいさつだ。しかし、平常どおりといったアレイド市場の雰囲気は、ラゴスの他の地域での現実を映し出すものではない。抗議活動を鎮圧するために派遣された軍隊が、今では街をパトロールしており、多くの住民は戸惑っている。そして、人々の怒りの裏側にある根本的な問題(補助金が持続不可能である理由)は解決されないままだ。

32歳の商人で2人の子を持つOdutuyo Muibat(オドゥトゥヨ・ムイバット)さんは、メロンや魚の干もの、粉コショウといった商品を並べている。彼女は少女の頃から25年間、商売をしてきた。

「補助金廃止によるガソリン価格の上昇で、私たちはとても大きな影響を被りました。例を挙げてお話しましょう。以前なら、たらい1杯分の皮むきメロンを小売価格1万5000ナイラ(94USドル)で買っていました。それが今では1万8000ナイラから2万ナイラ(112~128USドル)も払わなくてはなりません。同じように粉コショウも、今はたらい1杯で1000ナイラ(6.24USドル)ですが、通常なら500ナイラ(3.12USドル)程度で買えるのです」

“ナイジェリアは1日あたり200万バレル以上を産出する、世界第6位の石油産出国である。にもかかわらず、汚職と貧弱な管理のために、国内で原油を精製することができないでいる。”

彼女は輸送費も急騰したと話す。「マイル12市場からオニパヌのバス停留所まで商品を運ぶ運賃は、以前は200ナイラでしたが、今では500ナイラです。荷物運びを手伝ってくれるポーターに支払う賃金も、200ナイラ(1.25USドル)から300ナイラ(1.88USドル)に上がってしまいました。だから、私たちはこういう経費をすべて計算に入れて、その一部をお客さんにも負担してもらうしかないのです」

ムイバットさんは板挟み状態だと感じている。仕入れと輸送費が高騰する中、彼女も商品の値上げするしかないのだ。

「ガソリン価格の高騰で状況が変わって以来、多くのお客さんが苦情を言っています。例えば中サイズの缶に入ったメロンが200ナイラから300ナイラになったと伝えると、怒り出すお客さんもいます。きちんと説明すれば、多くの人は最終的に納得して代金を払ってくれますが、みんな政府の悪口を言っていますよ。中には、価格高騰のせいで現金がなくなってしまったから、今は払えないと言い出す人もいます。あとで払うという約束で、掛けで売ってほしいと頼まれるんです。私はそういう頼みを断りません。特に長年知っているお客さんの場合にはね」

ところが、燃料価格が下がったにもかかわらず、経費は下がっていない。

「こうして話している今も、何も変わっていないのです」とムイバットさんは言う。「価格は高くなったままなんです。それに、補助金の廃止以降、自宅用のタイガー小型発電機の燃料を買えなくなりました。高すぎるからです」

「補助金廃止に関して私が聞いた唯一の情報は、ガソリンの値段が高くなるということだけです。テレビやラジオで補助金廃止について話していたのは、教育を受けた人たちばかりでした。市場で物を売る私たちに誰も何も説明してくれませんでした。道路や学校や病院を建設するという約束なんて、私たちは信じていませんよ。あの人たちは私腹を肥やそうとしているのであって、約束どおりにお金を使うわけがないと私たちは思っています」

多くの経済学者は、補助金は無駄であり汚職につながりやすいため廃止すべきだと主張している。昨年だけでも、ナイジェリア政府は50億ポンド(79億USドル)を補助金に費やした。この数字は、健康と教育と農業の予算をあわせた総額以上である。この支出のほとんどが、アナリストに言わせると、ガソリン輸入カルテルに流れ込んでおり、カルテルは輸入したガソリンを国外へ違法に持ち出し、巨額の利潤を上乗せして売り抜けるという。しかしナイジェリア国民は安価な燃料を政府による福祉手当の1つと考えており、国のリーダーたちがまず汚職問題を解決するために一層の努力をすべきだと言う。ナイジェリアは豊かな石油資源を有するにもかかわらず、いまだに極度に貧しい国だ。アムネスティ・インターナショナルによると、石油産出地であるニジェール・デルタに住む600万人のうち、70パーセントの人々は1日1ドル以下で生活している。

“少数派とはいえ、ナイジェリア国民の中には補助金の廃止を、国がインフラストラクチャーを改善し、貧困から脱するための苦い良薬だと見なす者もいる。”

皮肉なことには、ナイジェリアは本来、燃料への補助金が必要ないはずである。1日あたり200万バレル以上を産出する、世界第6位の石油産出国なのだ。にもかかわらず、汚職と貧弱な管理のために、国内で原油を精製することができない。さらに補助金制度が精製産業への投資を妨げている。

少数派とはいえ、ナイジェリア国民の中には補助金の廃止を、国がインフラストラクチャーを改善し、貧困から脱するための苦い良薬だと見なす者もいる。

ジェレマイア・オココ氏はフォーリン理髪店の店長として采配を振るっている。この理髪店は、犯罪が蔓延するバリガ郊外のほこりっぽいアキンウォンミ通りにある。排出口から白い煙を吐き出すTigmax発電機のブーンという大きな音が、訪れる者を出迎える。オココ氏の店は実質的に電力を発電機に頼っているため、補助金の廃止は経営コストの急上昇につながった。この国の電力供給は、ないも同然である。だから電球に電気がつくたびに、現在はナイジェリア電力会社(PHCN)に改組された国家電力公社(NEPA)をほんの一瞬だけ褒めたたえる「Up NEPA(NEPAバンザイ)!」という歓声が沸くのだ。

「政府がやったことについて、私はとても満足しています。確かに、人々は燃料補助金の廃止や、あらゆるものの価格への影響を嘆いています。でも私たちの大統領が国を改善しようとしているのは、いいことです。大統領は様々なことをやろうとしています。特に、この政策が新しい製油所の建設や、あまり機能していない製油所の改修に役立つと聞いています」

しかし一方では、ガソリン価格の高騰は散髪代の高騰を意味する。「私は料金を50ナイラだけ上げざるを得ませんでした」とオココ氏は話す。「今は200ナイラ(1.25USドル)ではなく、250ナイラ(1.56USドル)頂いています。お客さんたちは大抵の場合、支払いを渋りますが、ちゃんと説明すれば私のせいではないと理解してくれます。ガソリン価格が97ナイラ(0.6USドル)に下がったのに、値段を上げた人たちは元の値段に戻していません。だから私も料金を変えていないのです。今は利益を出すのが難しいですね。だから実を言うと、状況が好転するまで、子作りなどの計画を保留にしています。昨年12月に結婚したばかりなんですが、子供を作るのはもう少し状況がよくなるまで待つつもりです。そうすれば、子供の面倒を見る余裕ができますからね」

補助金削減の結果、オココ氏は自宅で発電機を使う回数を減らした。

「ほんの時々しか使いません」と彼は言う。「例えば携帯電話を充電したい時とか、明かりがない時だけです。不便は感じますが、これはナイジェリアの未来のためだと分かっています。私たちがしなければならないのは、政府にチャンスを与えることだけです」

「現在の電力供給はとてもひどい状況ですが、もし政府が電力を供給するようになれば、多くの人々は商売のために燃料に頼る必要がなくなります。解決しなければならない主な問題はそこにあります。私は(グッドラック)ジョナサン(大統領)の政府を信頼していますが、多くの人はそうではありません。不信感を抱く人々から信頼を勝ち取る方法が、電力などを供給することなのです」

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本稿はパノス・ロンドンのご厚意で掲載されました。パノス・ロンドンは、開発によって最も影響を受ける人々の視点を開発の決定過程に取り入れることにより持続可能で公平な開発の促進を目指す組織です。こちらのクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従って本稿は転載可能です。

翻訳:髙﨑文子

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メロンから散髪まで:ナイジェリアの価格高騰 by アームスフリー・ オノモ・アジャナク is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.0 UK: England & Wales License.
Based on a work at http://panos.org.uk/features/from-melon-to-haircuts-prices-rise-for-nigerians/.

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著者

アームスフリー・オノモ・アジャナク氏は、ナイジェリアの有力紙『ガーディアン』の特集記事ライターである。2006年から、ナイジェリア各地における環境、開発、インフラストラクチャーに関する諸問題について執筆している。

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