京都議定書を越える

2010年3月、日本は2020年までに二酸化炭素(CO2)排出量を1999年の25%削減することを約束する新たな二酸化炭素排出削減目標が閣議決定された。この決定を熱烈に歓迎する人々もいる一方で、計画の実現性に疑いの声も上がっている。2050年までに80%削減するという長期的な目標についてはいうまでもない。目標実現までの詳細も示されており、環境省が任命した専門家グループに議論がゆだねられた。

提案されたロードマップには、政策案として次の4つの柱が示されている。
(1) 排出削減に努力する人・企業が報われる仕組み(2) 排出量の見える化 (3) 既存技術の大量普及を推進する施策 (4) 低炭素インフラ整備/研究開発の促進/人材育成・環境教育/環境金融の活性化

特に2010年代初めには、2020年の目標値を達成するために、キャップ・アンド・トレード方式、地球温暖化対策税、固定価格買い取り制度の3つを導入する必要がある。

京都議定書に定められた、2012年までに1990年の排出量の6%を削減するという日本の目標はどうなってしまったのかという疑問もあるかもしれない。2008年の日本のCO2排出量は概算12億8,600万トンであり、京都議定書の目標値を7.9%上回っている。しかし、図1が示すように、森林吸収量(3.8%)やクリーン開発メカニズムによる相殺分(1.6%)を差し引けば、日本が京都議定書の目標値達成のために削減する必要があるのは、残り2.5%に過ぎない。京都議定書を越えた目標を設置することは、日本を低炭素社会の世界的先進国に位置付けようとする政治的戦略といえるかもしれない。

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経済復興に伴い増加が見込まれるエネルギー消費量は抑えられているものの、この目標を実現させる方法はいまだ詳細がはっきりしない。しかし、日本はまた、経済成長から原料とエネルギーの使用をある程度切り離さなければならないのだ。環境省の報告によると、1995年以降、原料の投入量が毎年平均5,000万トン減少している一方で、全体のエネルギー使用量は比較的変わらないままであるという。

短期的には、日本は京都議定書の条件に基づき、すでに京都議定書の掲げる目標を達成して他の国に炭素クレジットを売ることを認められた国々から、炭素クレジットを購入している。これらの国々からクレジットを買った国は、そのクレジットを自国のCO2排出量の削減目標を満たすために使うことができる。日本では、1億トン分のクレジットを購入する計画である(目下、3,000万トン分の排出権をめぐってウクライナと交渉中だが、先の政権交代のあいだに、日本がウクライナに支払ったはずの約1億8,000万ドルが行方不明となったもようだ)。

長期的には、低炭素社会という日本政府の構想は、現在稼働している55基の原発を2030年までにさらに14基増やすことで成り立つ。これは、5万メガワットという現在の原発の発電能力を、35%増加させることを意味している。

このような低炭素戦略は、より大規模な日本の環境戦略(21世紀環境立国戦略)に組み込まれたものだ。この環境戦略は、次の3つの柱からなる。

・循環型社会
・低炭素社会
・自然共生社会

また、非常に重要な構想の1つに、「エコタウン事業」がある。これは、グリーンインフラを促進するため、政府が大幅な資金援助を行い、廃棄物処理業者やリサイクル業者を支援すると共に地域経済の活性化を図る助成制度だ。2007年時点で、日本では26の地域がエコタウンの承認を受けていたが、そのうちの1つである北九州市は、最近、インドで新たに開発予定のエコタウンのモデル都市とされている。

個人は変化を起こす原動力となるか?

日本のCO2排出量をいくつかに分類した場合、産業部門の排出量が、1990年に比べ13%減少し、4億2,000万トンになったことが分かる。しかし、運輸業やサービス業、家庭からの排出量は、1990年以降、それぞれ8.5%、41.3%、35%ずつ上昇している。

世論調査の結果では、80%以上の人が京都議定書について詳細を知っている、もしくは聞いたことがあると答えたが、家庭や会社、サービス業では、人々のこういった意識を排出量削減にうまく結び付けるに至っていない。もし日本が今を転機と望むなら、人々の変革への意欲と実際の行動とのギャップを埋めなければならないだろう。もちろんこれは、世界的な目標でもあるべきだ。

2007年、企業の環境問題への取り組みに関して、数カ国にわたる世論調査を英調査会社のイプソス・モリ社が実施した。5大陸15カ国のなかで、日本の一般の人々はいくつかの点で高い値を出した。

まず、排出量削減、リサイクル、新たな環境技術によって、自分たちの属する組織が環境に対してより責任を持つようになるだろうと考える人の数が、日本ではもっとも多かった。次に、個人、政府、企業のうちいずれかが先頭に立って気候変動の抑制に努めるべきか、という質問に対して、個人が努めるべきと答えた人の割合が、日本では47%、ブラジルでは49%と、回答国中もっとも高かった。これに比べ、政府や企業と答えた人の割合はずっと低かった。

排出量削減のロードマップは、社会に真の発想の転換を迫るものかもしれない。例えば住宅部門では、2020年までに照明のエネルギー効率を80%向上させることが期待されている。この際、すべての照明を発光ダイオード(LED)に変える必要がある。2009年の日本市場でハイブリットカーが最高の売り上げを誇った自動車部門では、製品の3分の1、すなわち新型車255台に対して76台を、10年以内に次世代車に変えることが期待されている。

また、ロードマップでは、典型的な日本の人々が家庭や自動車のCO2排出量を削減する方法についても述べられている。すでに、消費者を対象としたエコポイント制度や、もっともエネルギー効率の高い製品を製造したという評価を受けるためにメーカーが競合するトップランナー方式が実施されており、今後数年間は続けられる予定である。

さらに、ロードマップでは、日本はすでに世界でもっともエネルギー効率の高い国の1つであり、ライフスタイルの変革を伴わないエネルギー効率の向上では、2020年までに25%削減という目標を順調に達成することができるかどうか疑わしい、と述べている。経済産業省の主導で実施されている構想の1つに、製品にCO2排出量への影響を示すラベルを貼るというものがある。これは、確かに人々に情報を提供することにはなるかもしれないが、日本のソーシャル・マーケティング政策のためにはとうてい十分とはいえない。

京都議定書の目標達成に向けて

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2020年の目標達成に向けた政府戦略の細かい部分の多くが実施されるのは、これから先の話である。そのため、日本のCO2削減量の達成度は、図2の緑の線を描く可能性が高い。この場合、目標の2020年の直前になって、より大きな犠牲を払うことになる。望ましい進み方は、現段階において個人の行動を制御することによって、まず初めに京都議定書の目標を達成し、ついで2020年の目標を達成するために着実な道筋を辿るというものだ(赤い線)。

しかし、これでは十分とはいえないことを研究は示している。自分たちの自然環境とその限界に対して幅広い共感を抱くよう推し進めることは、原料とエネルギーの消費に夢中になっている私たちの現状とは相いれないだろう。いずれにしても、新技術、リサイクル、廃棄物削減を通した、出口処理的な解決を伴うことは明らかだ。新たな市場の展開を見込み、民間セクターはすでにこれらのアプローチを取り入れている。

私たちの経済を犠牲にすることなくこの問題に取り組むため、政府は企業の製品価値向上に対する支援を集中的に行っている。同じ原料・エネルギー投入量に対して得られる利益のさらなる増加を図ると共に、経済をサービス業に基礎を置いたものへと移行させているのだ。

日本は、自国でもっとも歴史的意義を持つ都市の名にちなんだ議定書を、失敗へと導くことになるのだろうか? おそらく日本は、どんな手段を取ってでも、2012年までに6%のCO2排出量削減を達成し、成功を主張するだろう。しかし、その先に確かな道筋を見ることはできない。

低炭素社会のパイオニアとしてとるべき道を探すなかで、結局日本は大きな問題に直面している。もし未来を少しでも見ることができたとしたら、日本の社会は、気候変動に悩む世界の先頭に立ち、戦後の工業化とその前の明治維新のような「東アジアの奇跡」を再び起こす可能性を秘めている。

翻訳:山根麻子

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京都議定書を越える by 飯野 福哉 and ダレック・ゴンドール is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

2010年4月まで、国連大学サステイナビリティと平和研究所のアカデミック・プログラム・オフィサーを務める。化学工学の博士号を持ち、これまで化学製品に関する仕事に国際レベルで携わっている。

ダレック・ゴンドール氏は作家兼編集者であり、カナダ政府の政策分析家である。過去には国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)で、国際学術誌『Sustainability Science』の編集委員および研究員を務めた。彼は公共政策の観点から人間と環境の相互作用の影響について執筆している。ゲルフ大学で生態学、またカールトン大学で公共政策の学位を修得している。

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