熱帯沿岸海域でのゾーニングの必要性

2014年07月28日

さまざまな国の主要な環境および海洋科学者たちは、各国社会が世界の沿岸海域での用途別ゾーニンを導入し、施行すべきだという共同要請を発表した。用途別ゾーニングは陸上資源の管理と保護によく利用される方法である。

カナダ、アメリカ、イギリス、中国、オーストラリア、ニューカレドニア、スウェーデン、ケニアの科学者24人が学会誌『 Marine Pollution Bulletin(海洋汚染報告)』に発表した論文は、人類の5分の1(そのほとんどは開発途上諸国の人々)が熱帯沿岸の100キロ圏内に暮らしている点を強調した。人口増加と悪化する気候変動の影響によって、熱帯の沿岸海域への負荷は高まる一方だろうと警告している。

漁業、養殖業、海運業、石油やガスや鉱石の採掘業、エネルギー生産、宅地開発、観光、環境保護といった分野間で、お互いの需要が競合している。しかし、そうした需要の増大をバランスよく保つための包括的で地域規模での管理アプローチが、ほとんどの地域で欠落している。

本論文の主要筆者であり、カナダに拠点を置く国連大学水・環境・保健研究所の ピーター・セール博士は次のように語る。「開発、農場、公園、産業、その他の人間のニーズ別に、土地は区画指定されています。今日求められているのは、それと同程度の配慮と計画を沿岸海域で行うことです」

「これまで私たちは、海洋を人類に残された最後の偉大な自然だと考えがちでした」と彼は続ける。「しかし海洋、特に熱帯の沿岸海域は、人間の活動の影響を土地と同じくらい強烈に受けています。その結果、広範囲での乱獲、汚染、動植物の生育環境の劣化が生じています。非常に多くの人々が食料と幸福を得るために頼りにしている海の恵みと便益が修復不可能なほど劣化することを避けるためには、現在の沿岸海域の管理対策は痛ましいほど不十分です」

現時点では多くの地域で欠落している、包括的で地域規模での沿岸海域の管理体制を築き上げるためには、多大な努力と強力な政治的意志が必要となる。セール博士と同僚らは、海洋空間計画(MSP)のかなり大規模な適用を提唱している。MSPとは、競合する用途別に沿岸海域を分割するための客観的手続きである。しかしMSPの適用によって、地域規模での包括的アプローチは各国に極めて重要な沿岸管理も推し進めることになる。

「私たちは海洋空間計画とゾーニングの広範囲での適用を枠組みとして、さまざまな活動に沿岸海域を割り当てることを提案しています。そうすることで、多元的な目標と規模のアプローチを推し進め、同意によって設定された生態学的、経済的、社会的目標を達成できます」とセール博士は語る。

論文によると、例えば沿岸海域での漁業と養殖業は、頻繁かつ深刻度を増す対立関係にある。両者とも、熱帯の沿岸地域住民の食料安全保障にとって極めて重要である。安易な対応しかされない沿岸海域の汚染はないがしろにされ、生育環境を劣化し、漁業と養殖業両方の活動能力を低下させている。環境の健康状態が劣化すれば、生態学的レジリエンスと同様に、雇用機会、健康、生活の質は全て悪化する。

このような用途間での対立に対処する一方で、生態学的に重要な領域を保護し、保全することで健康な生態系機能を可能にする働きが、MSPには期待できる。しかし、生態学的に適切な空間的および時間的規模で実施される環境管理という包括的なビジョンの下に多様な関係者を1つにまとめていく過程にこそ、MSPの真価がある。

「現在、私たちは競合するニーズに対して十分な配慮がなされていない海洋空間の用途を地図化しようと試みています」と、論文の共同著者であるイギリスのイーストアングリア大学のティム・ドー氏は語る。「熱帯沿岸のよりシステマティックな計画は明らかに必要です。そうした地域では、多くの住民が生計と幸福を近隣の海域に直接的に依存しています。今、私たちは課題と機会に直面しています。沿岸海域の真に効果的な管理を導入し、数百万の人々の暮らしを向上させるという課題と機会です」

論文著者たちによると、管理対策がしばしば失敗する原因は次のような点にある。

「いくつかの例外的な場所は存在する」と論文は記している。「しかし、非常に多くの場合、開発、生育環境の破壊、汚染、乱獲に関する現行の管理は、深刻なほど不十分である」そして、現行の管理が改善されないなら、筆者たちは自信を持って次のように断言できると語っている。

  1. ほとんどの沿岸の漁場は慢性的に乱獲されるか、消失するだろう。
  2. 礁の生育環境の喪失によって、さらに漁業生産量が減少し、食料安全保障が緊迫するだろう。
  3. 陸上からもたらされる汚染が増加し、低酸素状態と有害な藻類ブルームが常態化するだろう。
  4. 沿岸開発の影響が、海面上昇やさらに激しい嵐と相まって、自然の海岸線を侵し、浸食し、マングローブ、塩性湿地、海草の生育環境を激減させるだろう。
  5. こうした影響に対処する経費が沿岸地域の経済に一層の負担を課し、熱帯沿岸地域の人々の2050年の未来は、現在よりも著しく厳しいものになるだろう。

共同筆者のコメント

「私たちは現在、熱帯沿岸海域の管理を大幅に向上させるための技術とノウハウを持っています。しかし、それらは効果的に適用されておらず、結果として多くの管理計画が失敗しています。沿岸海域の総合的な管理は長年にわたって議論されてきましたが、熱帯沿岸の管理の大部分は断片的で、短期間しか行われず、得られた結果を恒久的に確保しておく対策がほとんど講じられていません。今後の課題を克服するためには、同じような対策を続けるだけでは十分ではないのです」 ヨハン・ベル氏、ウーロンゴン大学、オーストラリア

「成功は簡単に達成されると言えば、子供じみた発言でしょう。成功は簡単ではありません。私たちが提案した程度と規模に管理体制を変えるには、社会経済やガバナンスの力学に対して非常に慎重で持続的な配慮が必要となります。これは政府、非政府組織(NGO)、多国籍部門、沿岸社会にとって大きな課題です。そして、今すぐ取り組む必要がある課題です」 パトリック・クリスティー氏、ワシントン大学、アメリカ・シアトル州

「人類には沿岸管理を大きく改善する能力があります。熱帯沿岸に暮らす何百万人もの人々の未来は、この課題に一団となって立ち上がった私たちに掛かっているのです」 デイヴィッド・オブラ氏、Coastal Oceans Research and Development in the Indian Ocean(インド洋沿岸海域の研究および開発、CORDIO East Africa)、ケニア

本論文をお読みになりたい方は、Marine Pollution Bulletinの公式サイトをご覧ください。

本稿は国連大学水・環境・保健研究所のウェブサイトで掲載されたものです。

翻訳:髙﨑文子

Creative Commons License
熱帯沿岸海域でのゾーニングの必要性 by UNU-INWEH is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.
Permissions beyond the scope of this license may be available at http://inweh.unu.edu.