ブレンダン・バレット
ロイヤルメルボルン工科大学ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が3月25日~29日、第2作業部会報告書を承認するために横浜で開催された。
この報告書は、気候変動が人間や自然システムに与える影響、適応策、気候の変化の相互作用、社会に対するその他の負荷、未来への可能性を評価する。数百人の科学者たちによる4年に及ぶ労力の集大成だ。
Yale Environment 360(イエール大学森林・環境学部のウェブマガジン)のフレッド・ピアス氏は報告書の初期草稿を論評した。彼の示唆によれば、IPCCは地球が地球温暖化による深刻なリスクに直面すると警告しているものの、報告書は「過去に議論を巻き起こした類の特定的な予測を避けている」。
報告書は予想を立てることに慎重になり、関連する不確定要素の扱いに「大人の対応」をするようになったと、ピアス氏は主張している。
にもかかわらず、ピアス氏によれば、報告書のメッセージは明らかである。「厳密な予測は立てられないかもしれないが、慎重になるのであれば最悪の状況に備えなければならない」
慎重になる必要性は世界資源研究所も訴えている。同研究所はIPCCの報告書の結果を解説する有益な図解を提供した。
図解で強調されている要点は、地球の気温上昇を2℃以内に抑え、気候変動の最も恐ろしい影響を避けるためには、越えてはならない炭素予算があるということだ。この炭素予算は、1兆トンと推測されている。
世界は現在、この予算の残りを今から30年以内、つまり2045年までに使い切ってしまう勢いにあるようだ。
しかし問題の本当に難しい部分は次の点である。気温上昇を2℃に抑えるためには、世界の年間排出量は2020年までにピークを迎えなければならず、その後は急速に減少しなければならない。
さて、私は事実にうるさいタイプなのかもしれないが、さほど大昔ではない時期に、排出量のピークは2015年よりも前でなければならないということを聞かされた覚えがある。つまり私たちは、不思議なことに5年間の猶予を発見したようである。これは明るい兆しではない。なぜなら、私たちは排出削減のための共同行動を最後の最後まで先延ばしするかもしれないからだ。同じように、私たちは2020年になった時点で、排出量のピークは最も近くて2025年以前だと聞かされるのだろうか?
こうした観点で考えれば、一部の人たちが過激な排出削減戦略や過激な緩和戦略というアイデアについて語っている理由は容易に理解できる。このアイデアは、2013年12月10日~11日に英国王立協会が開催した2日間の会議で推進された。
本会議の必要性を説明するために、ティンドール気候変動研究センターのケヴィン・アンダーソン教授はビデオインタビューの中で、私たちはエネルギー需要を早急かつ劇的に削減しなければならないと共に、低炭素エネルギー供給を実現するための長期的なマーシャルプランが必要だと主張した。
興味深いのは、会議の参加者たちから寄せられた反応だ。Foundation for the Economics of Sustainability(持続可能性の経済学財団)のローレンス・マシューズ氏の意見は次のようなものだ。討議では多くの前向きな出来事が起こったが、「会議でのあまりにも多くの時間が、全くもって過激ではない事柄について語られるために費やされていた」
彼はさらに「『過激イコール恐ろしい』という強い思い込み」があったと述べている。「『需要削減』に関しても同様の思い込みが広く見られた。規制あるいは需要制限のわずかな気配でも見せる対策は(リバウンド効果をうやむやにする効率改善対策とは違って)、言及されることがあったにせよ、疑わしい目で見られていた」
つまり私たちは、より過激な対策の必要性を認識しているが、それと同時に怖がっているのだ。
地球の反対側で、上記の過激な排出削減会議とほぼ同時期に、デビッド・ホルムグレン氏がSimplicity Institute(シンプリシティ研究所)との新しい論文を発表していた。ホルムグレン氏は『Crash on Demand: Welcome to the Brown Tech Future(需要崩壊:ブラウン・テクノロジーの未来にようこそ)』で、気候を守るためにはシステムを壊す必要があるかもしれないと論じる。彼は次のように説明している。
「……依存的な消費者から自立した生産者への、(世界の中産階級の小さなマイノリティー集団による)過激だが実現可能な行動の変化には、消費資本主義という巨大な破壊勢力が世界を気候の絶壁へ追い詰めるのを食い止める可能性がある。それはわずかな望みかもしれない。しかしエリートたちに正しい政策のかじ取りをさせようとする現在の極めて困難な努力よりも、見込みのある賭けかもしれない……」
「……この状況は、世界の金融システムの崩壊を引き起こすほどに消費と資本を削減することで実現する可能性がある」
この提案への反応は、「願い事は慎重に選ぶ」必要性を説いた、トランジション・カルチャーのロブ・ホプキンス氏の警告と共に、即座に広まった。
あなたの意見はどうだろうか?
そこで、次の質問を皆さんに投げ掛けたい。私たちが世界各地で行っている気候変動への対応について、あなたは基本的にどう考えていますか? 気候科学のあり方に落胆していますか? 気候会議の進捗に不満を感じていますか? 私たちに残された時間が足りない、あるいは、できることがあまりにも少なく、対応も遅すぎるかもしれないと心配していますか?
世界はいずれ低炭素社会に転換すると思いますか? あるいは、ギリギリの瀬戸際になるまでは、大きな行動を起こさないと思いますか?
ホルムグレン氏が提案した種類の行動ではないにしても、例えば王立協会の会議で議論された行動に近い形の過激な行動を今こそ起こすべきだと思いますか?
そして、あなたがもっと過激になる必要があると考えるなら、あなたや私にとって具体的な行動とは何だと思いますか? こうしたテーマに関するあなたの意見をぜひお聞かせいただきたい。
翻訳:髙﨑文子
by ブレンダン・バレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.