平和のための世界と地域の効果的な提携、リビアの現実

世界と地域のより効果的な提携の育成は、保護する責任に具体化された誓約を実現するための私の戦略の重要項目である。
パン・ギムン国連事務総長、2011

近年、平和のための世界と地域の効果的な協力体制を確立する必要性が、保護する責任(R2P)規範をめぐる開発という文脈において再び強調されている。国連(UN)は、この新しい規範の概念および実務の開発に大きな注意を向けてきた一方で、効果的で一貫したR2Pの遂行に地域的機関が貢献する能力を繰り返し称賛してきた。

しかし実際には、UNと地域的機関の協力に関する記録は、R2Pの議論から生まれた期待に応えられていない。

例えばリビアでは2011年、UNとアフリカ連合(AU)は危機への容認できる解決策を見いだすべく協力することができなかった。この2機関は状況に対して全く異なった見解を持ち、紛争関係者らに対する姿勢も相いれず、それぞれの見解と姿勢が反映された紛争解決戦略を個々に採用した。両機関の取り組みにおける協調性の欠如は、紛争解決のための活動を実施する上で不利益であった。

国連決議で決定し、北大西洋条約機構(NATO)が主導した「飛行禁止空域」は、優勢な国際対応として急速に台頭したため、リビアに関するAUハイレベル特別委員会(AU委員会)は脇に追いやられた。国連安全保障理事会決議1973ではAUハイレベル特別委員会が認められ、国際的パートナーらの支持の約束があるにもかかわらず、リビア危機に対処するアフリカ諸国の努力が適切に考慮されなかったことについて、AUは数回にわたって憤りを表明した。

AUによる仲裁作戦の円滑な実行が妨害されたことに関連した一例が、リビア側との交渉のためにリビアへの飛行を求めたAUの要求を国連安全保障理事会の委員会が却下したことである。この決定によって、AU委員会による早期の仲裁の試みは著しく妨げられた。

リビア情勢に関する早期の協議が国連とAUの間で行われなかったことは、合意に基づく危機解決策を採用できなかった責任の一端を担う。国連安全保障理事会とAUハイレベル特別委員会によるリビアに関する第1回協議が6月15日(危機勃発の4カ月後)になって初めて、AU議会の要請で開催されたことは、非常に象徴的である。協議の中で、ウガンダ共和国の国連常駐代表はAU委員会のメンバーとしての立場から、国連とAU間のコミュニケーションの欠如と、さらに基本的なことだが両機関の相いれないアプローチに対するAUの不満をあからさまに反映した 懸念を表明した

国連とAUがそれぞれ異なる状況と必要な行動を設定していたことに疑いの余地がないとすれば、両機関の間で建設的な意見交換を行うことによって、包括的かつ共同で実施する紛争解決戦略の下でお互いのアプローチを調整できたと言えるだろう。6月15日の協議において、モーリタニア・イスラム共和国の外務・協力大臣はAU特別委員会議長としての立場から、一連の主要な優先事項に対処するために全体的な解決策が必要であると宣言した。彼は喫緊の問題に対し短期的に対応する必要性を強調する一方で、長期的な計画と持続可能かつ永続的な解決策の構築も熟考すべきだとした。

ある程度は、リビアにおける役割分担は、国連が一連の経済、外交、軍事的な制裁を加え、飛行禁止空域の設定に賛成票を投じることによって、リビア市民を保護するという差し迫った必要性に対応できるような形だった。一方、AUはリビアのステークホルダーを支持することによって、永続性のある政治的解決法を生み出すという長期的な問題に取り組んだ。

つまり、国連とAUのアプローチがこれほど相反するものでなければ、両機関の活動が調整されないまま実行されて緊張関係が生じる。そうなると、定期的な意見交換と危機発生時での早期の協議を育む確立されたコミュニケーション経路に基づいた地域組織と国連のつながりは根本的に強化される。
リビアでは、国連や関連のある地域的組織や近隣諸国を含む外部の主要なステークホルダーが早期に話し合い、また、リビア国民の代表者を含めた包括的協議が行われていれば、集団的に行うべき活動の指令や経過に関する合同的決定が恐らく下されていただろう。そのような共同的で協調的なアプローチは、短期的にも長期的にも、平和構築過程にとって有益だったはずだ。

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本稿は国連大学サイトで発表されたものです。学会誌の『Journal of African Union Studies(アフリカ連合研究)』の特別号『Reasserting African Solutions to African Problems: The African Union’s Difficult Decade Ahead(アフリカの諸問題へのアフリカの解決策を再主張する:アフリカ連合が向かう苦難の10年』に掲載された論文「Towards an Effective United Nations–African Union Partnership for Peace. A Critical Outlook Based on the Implementation of the R2P in Libya(平和のための国連・アフリカ連合の効果的提携に向けて リビアにおけるR2P実施に基づく批判的展望)」(Vol. 1(2&3), 2012, pp. 61–76)の内容を反映しています。

翻訳:髙﨑文子

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平和のための 世界と地域の効果的な提携、リビアの現実 by レオニー・マース is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.

著者

レオニー・マース氏は、ベルギーのブリュージュにある国連大学地域統合比較研究所(UNU-CRIS)の 所長つきの研究助手である。彼女の研究対象には、国連と地域の機関(とくにアフリカ連合、欧州連合(EU)、アラブ諸国連盟)との関係性、そして、地域の機関による国際平和と安全への貢献などがある。