ラリー・エリオット氏はガーディアン紙に1988年から関わり、経済担当エディターを務めている。
英国政府の委託によりスターン卿が著した気候変動に関する報告書は、政治家や環境保護論者の議論の拠りどころになっていた。だが、当のスターン卿は今日、自分はリスクを過小評価していた、気温の上昇が経済にもたらす脅威について、もっと「直截的」になるべきだったと話している。
現在は英国貴族院の無所属議員であるスターン卿は、ダボスで開催された世界経済フォーラムでのインタビューに応じて、次のように語った。「今から思えば、私はリスクを過小評価していました。地球と大気は私たちが期待したほどには二酸化炭素を吸収しないように思われ、その一方で、排出量は急速に増大を続けています。影響の中には、当時、私たちが考えていたより、早く表れているものもあります」
2006年に発表されたスターン報告書は、世界の気温が長期的な平均より2~3度上昇する可能性を75%と指摘していた。しかし、スターン卿によると、現在、私たちは「4度程度上昇するコースをたどっている」とのことだ。こうなるとわかっていたらという仮定で、彼は次のように述べた。「もっと直截的になっていただろうと思います。気温が4~5度も上昇するリスクをもっと強硬に、必死になって訴えていたでしょう」
スターン卿は、中国を含む一部の国はリスクの深刻さを理解し始めているが、各国政府は今こそ積極的に行動して、エネルギー消費量が少なく、環境を持続させる可能性が高い技術に経済を移行させるべきだと語った。
「潜在的な危険性がこれだけ大きいのですから、私たちは真剣に行動する必要があります。弾丸が2発入ったロシアンルーレットをしたいのでしょうか?それとも1発?これらのリスクは多くの人々の生存に関わるものなのです」
スターン卿は、野心的な二酸化炭素排出削減目標を政府に課す英国の気候変動法を支持していると述べた。しかし、スターン卿は、経済を環境志向にすることにもっと投資をすべきだと考えている。彼は次のように語った。「成長のシナリオとしてはおおいに期待が持てます」
デーヴィッド・キャメロン首相が環境問題に熱心だという実績を残したのは、主に2010年の選挙までだ。温暖化への取り組みに力を入れていることを強調するために北極も訪問した。しかし、環境保護政策に対する連立与党の姿勢には最近、翳りが見え始めている。その背景には、保守党の平議員の間で風力発電のメリットを疑問視する見方が広まっていること、それに財務大臣が英国に埋蔵されているシェールガスの発掘に熱心なことがある。
スターン卿のコメントは、ジム・ヨン・キム世界銀行新総裁が同じくダボスで厳しい警告を発したのに続くものだった。キム総裁は、世界の気温が従来の平均より4度上昇するという予測が正しければ、自然資源をめぐる衝突が起こるリスクがあると語った。
キム総裁は、5年間の任期において気候変動問題に優先的に取り組むと公約し、そうしなければ「あらゆる場所で水と食料をめぐる争いが起こるでしょう」と語った。
キム総裁は、炭素市場の創設、化石燃料補助金の根絶、そして世界の温室効果ガスの60~70%を排出している100の巨大都市の「グリーン化」のために行動が必要だと述べた。
彼はさらに、2012年に米国を襲った干ばつで小麦やトウモロコシの価格が高騰したことにより、世界でも貧困にあえぐ人々が手にする食料はさらに減っていると付け加えた。ここで彼は、世界銀行総裁としては初めて、極端な気象現象は人工の気候変動が原因であると述べた。「人々は点と点を結び始めています。忘れそうになったら、私がそこで思い出させます」
「私たちは気候問題に配慮しつつ経済成長を促す方法を見つけ出す必要があります。そのような方法が存在すると思えるのはいいことです」
キム総裁は、民間セクターが積極的に関わらなければ、気候変動問題の解決策を打ち出すことはできないと語り、利益を上げる機会を逃さないようにと企業に呼びかけた。「技術を確立し、気候変動の傾向を反転させることができれば、多くの利益を上げることができるでしょう」
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本記事は2013年1月26日、ガーディアン紙において発表されました。
翻訳:ユニカルインターナショナル
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