Our World 2.0 ―2010年を 振り返って

2009年が気候変動条約の締結に失敗した年として思い出されるなら、2010年はBP社がディープウォーターホライズンの事故による原油流出の阻止に失敗した年として記憶に残るのかも知れない。メキシコ湾周辺地域に住む人々や動植物に対してBP社がとった行動の結果が大失敗に終わった(そして現在でもその影響は続いている)ことを知らない者はいないだろう。

よって2010年が生物学的多様性(一般に生物多様性と呼ばれている)の成功を収めた年であったとは決して言えない。国連に国際生物多様性年と定められていた年であったにもかかわらず、これは実に皮肉なことであった。

2010年、Our World 2.0の記事を読み続けてくださったのなら、生物多様性という言葉の意味が次第に明確になってきたことだろう。以下に生物多様性条約のウェブサイトからの生物多様性の定義を引用する。

「あらゆる生物種の間で変化する性質のこと。この場合の生物とは特に陸と海とその他の水界生態系、またそれらの一部である生態学的な複合種を意味する。また種内の多様性、種間の多様性及び種と生態系の間の多様性を含む」

気候変動の問題では個人のとった行動によるCO2削減がもたらす効果の数値的予測が可能であるのに対し、現在記録されている生物多様性の損失に対して行った保護活動に関しては認知度が低く、明確な定義もないのが実情だ。

南アフリカのダーバンで今年開催される国連気候変動サミット(COP17)では、奇跡的に世界のリーダーたちが大気中の温室効果ガス削減の数値目標達成を約束するかもしれない。楽観的観測ではあるが、炭素排出にコストがかかるとなれば、新技術に投資する新たな産業が生まれ、温室効果ガスの削減が可能となるだろう。

しかし生態系の保護も同じように解決が急がれており、その上より困難な問題なのである。貿易の自由化、都市化、人口増加、富裕層の増加など昨今急激に進んでいる社会の動きから世界の生態系を守らなければならない。しかし常識的に考えて、名古屋で開かれたCOP10に参加した政府や多数の国家や団体のリーダーたちが、この世界的不況の中、この問題に対して何か有意義なアクションを起こすとは到底考えられない。

肉の消費量を減らしたり、持続可能な木材やコーヒーだけを購入するのは難しいことではないだろう。しかし私たちのどん欲な消費や浪費による無駄が環境に与えている影響は、どこか遠くの出来事で、直接目にすることもなく、忘れられてしまうのがオチだ。消費者は王様(王女様)であり続ける。何があろうともその冠を外す者などいるはずがないのだ。

別の側面

1年前の記事2009年を振り返っての中で私たちがほのめかしていたように、国際システムは危機的状況にある。中央政府、多国籍企業、国際組織がさまざまな締約国会議(COP)の中で取り組んできた環境問題に対する成果が非常に乏しい(というより横暴だという意見もある)ものであったことがこのことを特徴づけている。「そもそも期待は低かったが、思ったよりはマシであった」というカンクン会議の成果は、最悪の気候変動から世界を救う役には立たないと考えるのが現実的であろう。

しかし国連大学らと協力して私たちが集めた記事を通して、新しい世代や情熱を持った人々が、支持すべき草の根運動や画期的な研究を行ってきたという素晴らしい例が多々あることがわかった。私たちの記事の中でも特に人気が高かったものは、官僚的で不信感に満ちた地球規模の交渉に対してリーダーたちが感じている隔たりを映し出すと同時に、人々のライフスタイルや日々の言動と深く接点を持つ事柄と関連性を持っていたようだ。

2010年に私たちがサイトに載せた150あまりの記事の中から特に優れたものを選び出すのは容易ではなく、不公平感もある。しかし読者からのコメントやツイッターでの反響に基づいて、特に人気があったと思われる記事をここにいくつかあげてみたい。

ナイジェリアの原油流出問題

しくみ解明:食物エネルギー

コンクリートジャングルでの農業

都会のギャル、田んぼへ!

恐るべき地球工学の実態(ガーディアン紙上で改めて紹介され批評も加わる)

自転車:ある愛の物語(特に人気のあったフォトエッセイ)

討論会2.0:最後の一匹のクロマグロ

プラスチックが油に変身?

これらの記事のいくつかは何万というアクセス数を記録し、多数のコメントがついた。しかし2010年の最傑作といえば、プラスチックが油に変身?のビデオブリーフだ。これはサイトの読者からの強い要望から再投稿されたものである。環境問題に関するビデオが多々ある中、日本人の企業家、伊東昭典氏が発明したプラスチックを再び油に戻す装置を特集したこの5分間のビデオはあっという間に人々の間に広がっていった。

その広がりは、国連大学のYouTubeチャンネルでの閲覧だけでも現在までに約120万人を記録している。その上数10万という人々がYouTube映像のリポスターやmotherboard.tvのような有名なウェブサイトを通してこのビデオを見た。まさにクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下に、記事を多くの人とシェアして利用しようという考え方が反映された形となった。「プラスチックが油に変身する」ことへの衝撃が発端となって、OurWorld2.0の閲覧者は倍増し、フェイスブックツイッターの中にコミュニティーを着実に増やしていったのである。

世界中の国連大学の機関や他の学術機関における私たちのパートナーである国連の機関やNGO団体は地球にとって重要な研究を行っているが、こうして新しい閲覧者を増やしていくことが、これらの研究への関心をより一層引き付けることにつながるだろう。

感謝の気持ち

この1年間を振り返り、このサイトに関わってくれた多くの投稿者の方たちに感謝したい。皆さんのおかげで私たちのような小さなチームでも2009年の11月以来、投稿数を増やすことができた。2008年の中旬に始まったこのサイトは、当初週に1回か2回の頻度で記事を更新していたが、2010年の間は一貫して週に3回記事を載せることができた。

私たちが意識してやろうと思ったことは、世代、国籍、研究のバックグラウンドにこだわらずに記事を投稿してもらうことだった。私たちは国連の枠の中で仕事をする者として、本当の意味での世界の多様性をより反映する使命があると感じている。150人以上の投稿者から寄せられた260を超える記事の一覧表は、私たちのこれまでの大きな成果であろう。

また全力で仕事をしてくれた国連大学メディアセンター(旧メディアスタジオ)のスタッフに心から感謝したい。彼らの作成したビデオは見事で、そのデザインは素晴らしく、彼らのIT面でのサポートのおかげで当ウェブサイトは魅力的でかつ身近なものとなった。また、これらの研究や記事を日本語のページでも共に分かち合うことができたのは、翻訳者の方々のお力によるものだということも忘れてはならない。

最後に、一番大切なことを述べたい。私たちのサイトの読者である皆さん、どうもありがとう。皆さんの支援とコメントに心から感謝したい。決まり文句のようになってしまうが、皆さんから寄せられたご意見は私たちの宝であり、新しい年のプロジェクトにできる限り反映させたいと考えている。これからもご意見をお寄せいただけるとありがたいと思う。

私たちOurWorld2.0は2011年もより内容を充実させて発展していく予定だ。私たちの目標は、気候変動、食の安全、ピークオイル、生物多様性の損失という問題に対して調査研究に裏付けられた解決策を皆さんと共有していくことだ。これまでに大きな進歩は遂げられていないが、私たちが一丸となれば、必ず解決策が見いだせるはずだと信じている。皆さんにも一緒に協力してほしい。2011年もOurWorld2.0へのアクセスを期待している。

以上を新年の挨拶に代えて。

編集者(ブレンダン・バラット、キャロル・スミス、マーク・ノタラス)

翻訳:伊従優子

Creative Commons License
Our World 2.0―2010年を振り返って by ブレンダン・バレット、マーク・ノタラス、キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリスト。グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。