ロヒンギャの移民女性たち:届かない声

国際移住はその範囲、複雑さ、影響を増しつつある世界的な現象だという認識が高まる中、国連は2013年に「国際的な人の移動と開発に関するハイレベル対話」を開催した。この対話において加盟国は、人権と国際労働基準の尊重を要求し、人身売買への取り組みに対するコミットメントを再確認し、人種差別と不寛容の表明を強く非難する宣言を全会一致で採択した。

この宣言は、人の移動が持続可能な開発の主要要因だということを認識し、しっかりと管理された移民政策によって安全で秩序と責任のある移動を促進するよう求めている。どのような立場で移住しているかにかかわらず、すべての移民の権利を保護するよう求め、とくに女性と子どもの脆弱性に注意を促す。

国際社会は、持続可能な開発を促す手段として移住をとらえるという考え方に立ち、 昨年末に採択された「持続可能な開発目標」と「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の基本原則に、移住における平等、無差別、公平、そして包摂を組み込んだ。

こうしたコミットメントは、世界の多くの人々にとって緊急を要する問題である。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2014年以降、約9万4,000人の難民や移民が船でベンガル湾を出発している。多くのロヒンギャの難民や移民たちが、最後の手段として密入国業者の手を借り、ミャンマーから避難先国として最も選ばれている国の1つであるマレーシアへと向かう長く困難な航海に出る。

Rohingya women and children

Photo: European Commission DG ECHO. Creative Commons BY-NC-ND.

ロヒンギャは、ミャンマーのラカイン州に居住する民族宗教的マイノリティーである。言語的・文化的にはミャンマーと隣接するバングラデシュ南部のチッタゴン族に近く、イスラム教を信仰している。軍部が政権を握った1962年に開始されたプロセスによって、ロヒンギャの自由と基本的人権を制限する漸進的な差別政策が導入され、ロヒンギャは行政主導による虐待と差別的待遇に苦しむこととなった。ミャンマー政府はロヒンギャを「ベンガル人」と呼び、バングラデシュからの移民だと主張して、1982年市民権法による彼らのミャンマー国籍のはく奪を正当化した。UNHCRによると、現在、ラカイン州に暮らす少なくとも80万人のロヒンギャが無国籍となっている。

2012年にラカイン州の仏教徒とイスラム教徒であるロヒンギャとの間で破壊的な暴力衝突が勃発し、12万人を超えるロヒンギャが過密状態の居住地や政府指定のキャンプへと追いやられ、その後の衝突でもさらに多くの人々が同じ道をたどることとなった。国連人道問題調整事務所によると、救援を今も必要としている人の数は41万6,000人以上に上り、そのうちの14万人はキャンプの悲惨な状況の中で生活し、その他の多くの人々は孤立した村で市民権を持たずに暮らしている。

拡大する国外脱出

数年前まで、海路でミャンマーを脱出するロヒンギャ難民・移民の大部分は男性だった。国籍と、土地の所有、移動、結婚、医療・教育・雇用へのアクセスに関する法的権利を奪われたロヒンギャ男性の多くは、あとに残してきた家族のために新生活の地を見つけられるよう願いつつ、新たな定住場所を求めて陸路と海路による危険な移動に踏み出さざるをえなかった。

彼らの多くは船による航路の途中、海上やタイ・マレーシア国境のジャングルにあるキャンプで足止めされ、最終目的地まで移動を続けるための手数料として1,200~2,000米ドルを密入国業者から要求される。タイのソンクラー県やマレーシアのプルリス州など、国境地域にある密入国業者のキャンプ跡の近くで発見された墓が、手数料を払えなかった人たちの運命を物語っている。公式報道によると、タイとマレーシアの当局は、2015年5月の1カ月間だけで約180人の遺体を発見している。タイ国家人権委員会事務所へのインタビューでは、タイの領土にある墓で見つかった遺体はすべて男性であるとのことだった。

しかし2012年以降、暴力衝突が激化するとともにイスラム教コミュニティを狙った性的暴力のリスクが高まるラカイン州を脱出するために、船による航海に加わるロヒンギャの女性や少女たちが増えている。ミャンマーにおけるロヒンギャの地位向上を目指して活動する独立系NGOアラカン・プロジェクトは、現在、船による渡航に加わるロヒンギャの5~15%が女性や子どもだと推定する。しかし、タイの領土にある墓からは女性や子どもの遺体は見つかっていない。では、彼女たちはどこへ行ったのだろうか?

密入国を試みたロヒンギャの男性がタイで漁業や農園業の強制労働者として売り飛ばされるというケースが、時々メディアで報道される。密入国業者は、ロヒンギャが渡航代金を支払えなかった場合に被る金銭的損失を埋め合わせるためにこうした手段を選択する。さらには、タイ人が危険で汚いとされる労働集約的な仕事を好まなくなってきていることから、近年、肉体労働者の需要が高まっているという事実も、密入国業者や人身売買業者がこうした手段に出る誘因となっている。現地の情報筋によると、近頃では、漁業会社や天然ゴムなどの農業プランテーションの経営者は労働力を確保するために、2万バーツ(560米ドル)から10万バーツ(2,800米ドル)ほどの金額を支払うこともやぶさかではないとのことである。

ロヒンギャの難民や移民を支援する人権擁護団体は最近、新たな傾向に注目している。若干13歳という少女たちが1人で船による航海に出たその目的について、マレーシアにいる会ったこともない夫のもとに行くためだと話すというのである。K. Haldorsen氏がUNHCRのために行った最新の調査「Child Marriage Among Rohingya Refugees in Malaysia(マレーシアのロヒンギャ難民における児童婚)」では、この傾向に関する興味深い洞察が明らかにされている。こうした形の結婚仲介は、一見すると両者にとって都合の良いものであるように思われる。マレーシアで暮らすロヒンギャ男性からの結婚の申し込みは、ロヒンギャの少女や女性に対する性的暴力のリスクと恐怖が高まっているラカイン州の家族から歓迎されるものである(男性にとっては、結婚に必要な結納金(マハル)が、マレーシアに住む少女と結婚する場合よりも、ミャンマーに住む少女と結婚する方が安い)。すでにマレーシアに住み、仕事を持って同国に落ち着く見込みがあるという比較優位を持つこれらの新郎候補は、交渉において優位に立つことができる。このため、18歳に満たない少女たちが20代や30代、さらに年上の男性と結婚することも珍しくない。

求められる女性たちの連帯

ロヒンギャコミュニティの指導者や活動家たちとの話し合いから、通常はすでに国外に居住している男性親族が結婚の申し込みの仲介者としての役割を果たすということが明らかになる一方、メディアの報道によれば、強制結婚を目的とした人身売買がビジネスとしてますます盛んになりつつあるとされている。過去数十年間に発生したロヒンギャ男性の国外脱出により、ロヒンギャの女性や少女に対するミャンマー国外からの需要が高まっている。女性たちのなかには、密入国業者から聞かされる「イスラム教国であるマレーシアやインドネシアでは将来の見通しが明るい」という虚偽の約束にそそのかされた挙句、法外な金額の身代金要求に応じなければ、監禁されることになるものもいる。このような場合、ロヒンギャの女性や少女たちの多くは、タイで売春婦として売り飛ばされるという脅しにおびえながら、まったく見知らぬ人物からの結婚の申し込みに応じるしかない。

さらに、タイの人権活動家へのインタビューから、船による航路の途上で強姦された結果、妊娠してしまう少女もいるということがわかった。また、タイ・マレーシア国境にある密入国業者のキャンプで、ロヒンギャの少女や女性が性的暴行を受けた事例も報告されている。ロヒンギャの女性や少女は、こうした人身売買においてしばしば「ラム(子羊)」と呼ばれ、マレーシアに住むロヒンギャ男性に5万バーツ(1,400米ドル)で花嫁として売られる。場合によっては、ロヒンギャの少女たちのエキゾチックな容貌に惹かれたタイ人の男性が、愛人として買うケースもある。

ロヒンギャの女性たちのなかには密入国業者から聞かされる虚偽の約束にそそのかされた挙句、法外な金額の身代金要求に応じなければ、監禁されることになるものもいる。

移住するロヒンギャの人々、とくにロヒンギャの女性や少女たちが直面している人権上の課題に緊急に取り組む必要があるということは、このような証拠から明らかである。しかし、ロヒンギャの難民・移民女性について十分に知られていないということも明白である。ロヒンギャの女性や少女たち(1960年代以降タイやマレーシアなどの国に住み着いている長期滞在者と、ディアスポラ・コミュニティに最近到着した人々の両者)が置かれている状況についての情報は、きわめて限られている。ロヒンギャの難民・移民女性のニーズについての理解不足が、より集中的かつ効果的な介入の策定と実施を妨げている。

Rohingya woman

Photo: Digital Democracy. Creative Commons BY-NC-SA.

タイやマレーシアのロヒンギャ難民・移民を支援するサービス提供者の大部分が男性であるために、ロヒンギャ女性に関する知識の構築はさらに困難となっている。現在、タイにはロヒンギャ女性の問題に大きくかかわっている女性の権利擁護団体が1つしかない。他方、マレーシアでは、女性の移住に取り組むNGOのいくつかは、全般的なロヒンギャ問題も扱っている。さらにロヒンギャ擁護団体は、一般的に男性主導のもとに活動を行っている。ロヒンギャ女性の中には新たに到着した女性たちを非公式な形で積極的に助けている人たちもいるが、ロヒンギャ女性自身によって組織され、協調的な体制で自分たちのニーズや権利を擁護している独立した自助グループはない。ロヒンギャの難民や移民は無国籍であるとともに正規の書類手続きを経ていないものが多く、そのため、世間の余計な注目を避けるために目立たないよう、おとなしくしていなければならない。そんな状況の中、いろんな意味で男性よりも弱い立場にある多くのロヒンギャ女性たちは、とにかく日々を生き抜くためにより声を潜めて暮らしている。

ロヒンギャの女性や少女たちの押し殺された声を引き出すためには、基本的な生活必需品や食料を配ったり、短期的なシェルターを提供したりするだけでは十分ではない。ロヒンギャ女性のために、またロヒンギャ女性とともに、経済的・政治的機会を生み出す方法を模索することが、彼女たちと真の対話を始めるための実行可能な方法の1つだろう。アジアにおける女性運動のアクターたちは、この点で豊富な経験を有しており、かつて最悪の形態のジェンダーによる抑圧に苦しんだ女性たちのために、差別を克服して新たな社会空間を作り上げることを可能とした革新的な方法を検証、実現してきた。そのような資産を築いてきたことに鑑みれば、これらの女性権利運動家たちはロヒンギャの難民・移民女性の直面している複雑な課題に取り組むうえで絶好の立場にあると言え、彼女たちがどのように問題と対峙するのか、その出方に世界の注目が集まっている。

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著者

小島氏は、スペインのバルセロナにある国連大学グローバリゼーション・文化・モビリティ研究所(UNU-GCM)のMigration Women and Mobility Asia(アジアの移住・女性・モビリティ)に関する専門家である。ジェンダーと移住と開発のスペシャリストである小島氏は、学術研究と政策研究の双方における経験の組み合わせから得られた専門知識を提供するとともに、UNDP、UNIFEM、ユニセフ・イノチェンティ研究所など、いくつかの国連機関で働きながら得た開発プログラムの運営と計画にかかわる経験を生かし、活躍している。また、ユニセフがアジアで主催するRegional Gender Specialist Group(地域ジェンダー専門家グループ)のメンバーでもある。

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