世界中には廃棄物をあさり、ごみを拾うこと(スカベンジング)で収入を得ている人々が現在1,500万人もおり、その経済的な影響は年間数十億ドルにも及ぶ。開発途上国の都市人口の約1%がごみ収集、すなわちスカベンジングで生計を立てているのだ。これは人間の最も古い経済活動の一つだ。
がらくた、くず、ごみ、などと呼ばれる固形廃棄物は、生活に付きまとう現実だ。生きているだけで誰もがごみを出す。ごみの発生量やその中に含まれる物質は国によって様々であり、時代とともに変わる。
人間の歴史の大半において、ごみ処理が問題となったことはなかった。産業革命以前、ごみのほとんどは食べ残しや生ごみなどの有機物であった。この種のごみは腐って土壌の一部となり、人々は有機物を農業用の肥料として使い、その栄養素を再利用していた。これが当時のスカベンジング)の姿であった。
金属類は5,000年以上にわたって再利用されてきたが、工業化と都市化によってごみの発生が大きく変化し、ごみ処理という課題が生まれた。産業活動によって製品を生産するには、数多くの素材、つまり金属、ガラス、布、ゴムなどが必要であり、その分だけ大量のごみが発生する。
産業や人口が都市部に集中することは、ごみもまた狭い地域に蓄積されるようになったことを意味し、これらを回収し都市の外に運び出すことが必要となった。プラスチックの発明は消費者に多大な恩恵をもたらしたが、新たな問題も発生した。なぜなら、プラスチックは分解されるまでに数千年という時を要するからだ。一部のプラスチックは回収し、再利用することもできるが、そうでないものも多い。専門家によると、ある種類のプラスチック(飲料ボトルなど)は永遠に分解されることはないという。
もう一つ大きな問題となっているのは、現代に特有な電子機器などの危険廃棄物であり、これらのごみが不適切に捨てられることである。先日発表された国連環境計画・国連大学の報告書(PDF)によると、世界の電子廃棄物の排出量は年間4,000万トンのペースで増え続けており、これらに含まれる材料を適切に回収して再利用する手段を講じなければ、多くの開発途上国に有害な電子廃棄物が山積みとなり、環境にも人々の健康にも重篤な被害をもたらすだろう。
増える豊かさ、増えるごみ
人は経済的に豊かになればなるほど、ごみを生み出す傾向にある。先進国における生産と消費の活動が生み出すごみの量は、一般的に開発途上国のそれよりも多いが、開発途上国もまた、急速に前者の水準に追いつこうとしている。実際、中国は今や世界最大のごみ排出国であり、すでにアメリカを抜いている。
ごみの処理方法には、1)空き地に廃棄する、2)焼却や再利用などの処理を施す、3)衛生埋立地など、専門のごみ処理施設に送る、という3種類の基本的な手段がある。
先進国においては、地方自治体、もしくは地方自治体から業務を請け負う民間業者が、現地で発生するごみの回収、運搬から処理までを行なっている。住民は資源ごみとそうでないものを分別し、場合によってはより細かく分類する。驚くべきことに、日本の徳島県にある上勝町では再利用を34種類のカテゴリーに分類している。先進国では、国民が出したごみの100%が安全に回収され処理されているのだ。
しかし、アフリカ、アジア、ラテンアメリカなどのスラムにはごみ回収サービスなどない。都市によっては住民によって排出されたごみの半分以下の量しか回収されない。回収されず置き去りにされたごみは通りや空き地に蓄積するか、水辺に投げ捨てられる。また、多くの人々はごみを燃やしてしまう。この様な習慣は、空気や土地、水を汚染し病気の原因ともなる。
適切なごみ管理を全ての人に提供する上で、最も大きな課題はそのコストだ。開発途上国の都市は急速に成長しているが、一方で市民全員にごみ処理サービスを提供するだけの資金を持ち合わせていない。
スカベンジングを制度化する
それでは、一体どうすれば開発途上国のごみ管理を改善できるのだろうか。数年前から、著者はスカベンジャー(ごみを拾う人)をごみ管理計画に組み込むことを提案してきた。スカベンジングは恵まれない環境にいる人々に共通する収入源だ。世界中で何百万もの人々が、再利用可能な資源ごみを収集して生き延びている。従来、ごみを拾う人々は問題視されており、地方自治体は彼らを追い払おうとして来た。現在でも、スカベンジングは多くのアフリカ、アジア、ラテンアメリカの都市で違法とされている。
ごみを拾う人々は、日々ごみを触っているため悪臭を放っていたり、ぼろを纏っていたりする。彼らの多くが読み書きを知らず、教育をほとんど受けていない。当然のことながら、彼らは社会から見下されることになる。しかし、ごみ収集という行為をさらに分析してみると、ごみを拾う者(スカベンジャー)たちが社会に対して前向きな貢献をしていることがわかってくる。そして、適切な支援を受けることができれば、彼らはより大きな貢献を果たすだろう。
さらに、再利用はエネルギーを節約し汚染を軽減するのだ。スカベンジャーたちが集めてくる素材はすでに加工が施されたものである。加工にはエネルギー、水、その他の資源が必要であったが、これらの素材は再利用されない限り、注ぎ込まれたエネルギーも作業も無駄になってしまう。ボーキサイトからアルミニウムを作り出すには多量のエネルギーが必要とされるが、その一方で、ごみの中からアルミニウムを回収し、それを溶かして新たなアルミニウム製品を生み出す場合、エネルギーは97%も節約される。発電は温室効果ガス排出の最も大きな要因の一つだ。もし何も変わらないなら、再利用で温室効果ガスの排出を削減する。
ごみの中から有機物を回収することでも温室効果ガスは削減できる。有機性廃棄物は、ごみ処理場に送られると何重にも重なるごみの層の下に埋められることになる。時間が経つにつれて酸素は消費され尽くしてしまうが、酸素のない状態で有機物を分解すればメタンガスが発生する。そしてメタンガスは二酸化炭素よりも約22倍太陽熱を吸収しやすい。有機物は後から回収して堆肥にし、園芸や農業、造園の際、土壌の状態を整えるために使うことができる。適切に処理されれば、コンポスティングでメタンガスが発生することはない。
その良い例がWaste Concern (ウェイスト・コンサーン)によるバングラディッシュでの取り組みである。1995年に設立されたウェイスト・コンサーンは、地元密着型の堆肥プロジェクトを支援し、以前はスカベンジャーだった人々を雇用している。
ごみ収集のもう一つのメリットは、それが地域経済の強化につながるという点である。何故なら、開発途上国の産業では新品の原料を使うよりも、スカベンジャーたちが集めてきた材料を使うことを好むからである。その方が安価だからだ。(例えば、ビニール袋を再利用して財布やトートバッグを生産しているバリのある企業に関するこちらのOur World 2.0 の記事を読んで欲しい)
一部の材料では、その価格も大きく異なる。例えばメキシコでは、紙を作るための木材パルプはスカベンジャーが拾い集めた紙くずの7倍の値段で売られている。安い資源ごみの再利用とエネルギーの節約は、企業の事業費を削減してくれる。材料を再利用する工場を作るほうが、新品の原料を扱う工場を建てるよりも安い。
再利用によって、回収し廃棄場に運んで行かなければならないごみの量が減ることは、地方自治体にとってもメリットがある。ごみ処理場の使用可能期間が長くなり、自治体にとっても資金や労働、機材や燃料費の節約になるからだ。インドネシアの首都ジャカルタでは、再利用を目的として排出されるごみ全体の約3分の1がスカベンジングによって回収されている。
スカベンジングは国全体としてもメリットがある。資源ごみを回収すれば、輸入が減り輸出が増えるため、国の経済発展が期待できるのだ。過去10年間で資源ごみの国際取引は急成長し、アジア、アフリカ、ラテンアメリカのスカベンジャーたちが、回収した材料を中国の工場に供給するという世界的なサプライチェーンが生まれた。この様にして、ごみは新しい消費財として再利用されているのだ。
最後に、そしてとても重要なことは、スカベンジャーの零細企業、協同組合、官民提携プロジェクトが、ごみを拾って生きる人々の貧困を軽減し、彼らの労働・生活水準を改善し、さらには経済、社会、および環境にメリットをもたらすケースが増えているということだ。
つまり、ごみを収集するという行為は、持続可能な発展のパーフェクトな手本なのである。
このトピックの詳細については、2007年発刊の私の著書「The World’s Scavengers: Salvaging for Sustainable Consumption and Production」(世界のスカベンジャーたち:持続可能な消費と生産を目指して)をご覧ください。
翻訳:森泉綾美