健康データセットの精度を高めるスモールデータの活用

デジタルテクノロジーを用いて健康とウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)を追跡するという動きが広がってきている。デジタルヘルス機器のリアルタイムモニタリング機能や対話型の意思決定支援アルゴリズム、診断検査機能は、グローバル・サウスを含めあらゆるところで利用者の関心を引いている。

予測的分析や処方的分析などのツールの活用は、保険会社や医療機関などにも役立ってきた。その一方で、消費者や医療サービスを受ける人々に対する不平等な扱いや差別的待遇、また、臨床医や政策立案者による思慮の足りない意思決定にもつながっている。

主に北米の参加者を対象にした私たちの調査では、より幅広い保健医療セクターのさまざまなステークホルダーと個人の健康データを共有することに対する考え方を調査した。また、周縁化と排除を緩和できる新しいデータアプローチについても検討している。

ビッグデータと差別

血糖値モニター、(Fitbit等の)個人の健康状態を追跡する機器、モバイル機器など、デジタル機器を通じて収集した個人の健康データは、当然のことながらスモールデータである。こうしたデータが集められてビッグデータセットになると、知識源として高い価値と利益を生むものになる。

データ追跡アプリで収集された健康データに基づく差別が横行している。健康データはすでに、他の種類の個人情報と組み合わされて、人口全体の推測や因果関係を導き出すために利用されており、それらは患者の健康データの市場に価値をもたらしている

これはどのような仕組みで起こるのか?例えば、ブローカーがあなた(そして、他の人々)の健康データを収集し、アルゴリズムを学習する機械で処理し、集団全体の健康に影響を与えるようなパターンや健康状態を特定する。次に、こうしたパターンを利用して、健康リスクや医療費を予測する。保険会社は個人の健康データと購買習慣に関するデータを組み合わせて、個別化し、データに基づいた変動価格を顧客に提供する。同じデータは、予測的分析を用いて処理されることで、健康状態の予測に基づく差別の根拠として利用されることにもなる。

こうした不公正な慣行は、収益性が低いと見なされる人々への差別を悪化させる。人種、ジェンダー、性的指向など、その集団に属することに関連した差別的な要素を基にしたデータのプロファイリングは、弱い立場にある集団を医療へのアクセスから締め出すことで、従来のデータにおける周縁化と現在の格差を永続させる恐れがある。

個人の健康データの共有

私たちは、健康とウェルビーイングに関する個人情報を、保健医療システムの関係者と共有することに対する人々の考え方について調べた。ここでは3つのグループが関係者として認識された。参加者が健康とウェルビーイングの個人情報を提供することに最も積極的だった相手は、関連サービスを直接提供してくれるかかりつけの医師であった。その次は、社会的に近い関係にある家族と友人であった。これには、社会的な理解と支援のために情報を共有するという誘因も働いている。

参加者がデータの共有に最も消極的だった相手は、製薬会社や国の統計局、世界保健機関(WHO)といった多国間の保健機関など、より幅広い保健医療セクターであった。個人の健康データを共有すれば、特定の健康指標のモニタリングに情報を提供し、各国が健康とウェルビーイングに関して報告を行うのに役立つ。その結果、保健に関する施策や政策の開発につながるだろう。

個人情報を共有したいかどうかは、プライバシー、データ所有権、および個人が得るメリットに関する懸念によって影響されることが、調査結果から判明した。

人間中心のアプローチ

ビッグデータ分析ツールの利用の増加と、個人の健康データへの適用の増加によって生じうる弊害に対処する必要がある。他方、健康と病気に関連する社会現象について理解を深めるために、データを作り出しかつ利用する立場として、人々の参加を拡大させる必要性も高まっている。しかし、個人から収集したデータの利用は、個人の選好、人権の原則、倫理基準の理解に基づいたものでなければならない。

個人のプライバシーを保ち、かつ、健康データに基づいて起こりうる差別を防ぐには、公正で説明責任を伴った、透明性の高いアルゴリズムを導入する必要がある。また、特定の個人や集団に損害をもたらす恐れのあるデータの利用(健康データを用いて保険料を割増しにしたり、特定の医療サービスの利用を拒否したりするなど)を制限する規定も欠かせない。

個人の健康データを追跡するアプリでは、データの収集方法、利用方法、提供先について透明性を確保する必要がある。
プライバシー保護を保証することは、利用者の信頼を醸成するのに役立つだろう。利用者はいつ、どのように、なぜ自分たちのデータが利用されているのかについて、またデータの漏えいといったデータの外部利用に伴うリスクについて、情報を与えられなければならない。オプトアウトやデータの削除要請をできるなど、自らのデータについて利用者が主導権を保持することも必要である。

スモールデータ対ビッグデータ

スモールデータの利用を含めた別のデータアプローチであれば、ビッグデータ分析に大きく依存するデータアプローチの限界を緩和することができるだろう。スモールデータは、データ処理のアプローチとして、個人情報の収集、分析、利用に際し、個人に重点を置いている。

スモールデータのアプローチを利用すると、データが収集される社会文化的背景が考慮され、健康とウェルビーイングの問題の因果関係について詳細な理解が可能になる。

個人の健康データは、健康格差や生活の質の格差への対応に利用することができる。たとえば、個人のウェルビーイングに関するデータを収集すると、個人の弱さではなく社会規範と社会的プレッシャーが、身体的ストレスに関係していることを実証できる。スモールデータによるアプローチでは、「自分と同様の状況にある他者について詳しく見ることで」個人が自らのデータに関してより深い意味と洞察を得られるよう、健康データを収集、分析、利用することが可能になる。

スモールデータ政策

政府は、人々がこれまで以上に情報提供に参加し、健康とウェルビーイングに関して、国レベルおよび世界的な報告に貢献するよう促すことができる。スモールデータのツールを開発することで、人々は自らの健康データを収集し、より幅広い保健医療データシステムに主体的に参加できるようになる。

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この記事は、クリエイティブコモンズのライセンスの下、The Conversationから改めて発表されたものです。元の記事はこちら

著者

国連大学コンピューティングと社会研究所(UNU-CS)スモール・データ・ラボの研究員。UNU-CSに加わる前は、ワールド・ワイド・ウェブ財団の「オープン・データ・ラボ・ジャカルタ」において、開発のためのデータ、オープンデータ、国境を越えたデータの共有、オープンガバメント、データリテラシーとデジタルリテラシー、テクノロジーにおける多様性と包摂の問題について研究。また、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのメディア・コミュニケーション学部で、データ移動やメディアの問題についてなど、さまざまな研究活動に従事していた。

国連大学コンピューティングと社会研究所(UNU-CS)の首席リサーチフェロー。技術革新と、「幸福な」生活を送るための個人とコミュニティのエンパワーメントの実現に熱心に取り組んでいる。UNU-CS「スモール・データ・ラボ」において、持続可能な開発目標のターゲットの達成に向けて個人やコミュニティが積極的に取り組むために、地域に関連し、かつ市民によって生成されたデータがどのような役割を担うかを研究。またそうしたデータがより大きな社会指標のデータエコシステムで果たす役割について調査している。