水に関する研究と教育を開発途上地域へ

地球規模の水の危機に関する高等教育は、これを最も必要としている貧しい開発途上国ではなく、裕福な国々に集中している。

その一方で、水に関する研究はほとんどその作業が実際に実用的な解決策として成功を収めたかどうかを考慮されず、発表された論文の本数と、他の研究者による引用回数を数えることによって評価されている。

我々の発表した2本の論文は、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)で行った研究成果として、水の供給と衛生の不備に対する世界規模の取り組みにおいての弱点を明らかにし、文書化したものだ。水の問題は世界の10大リスクのひとつに数えられている。

水関連の学術研究活動に関する世界規模の情報源はない。よって私たちは、水関連の出版物におけるトレンドを明らかにするため、いくつかのデータベースを用いて間接的な指標を考案せざるを得なかった。こうしたデータベースの中には、5,000を超える出版社により発行された2万2,800点の学術誌、雑誌および報告書に索引を付したものも含まれている。

水資源関連の高等教育プログラムのリストは存在しないため、同じような困難な検索作業を通じ、水関連プログラムで学位を取得できる世界の大学約2万8,000校を見つけ出す必要があった。

最終的に最も懸念すべき調査結果は、水問題が非常に深刻な国で行われている訓練や研究が、あまりにも少ないということだった。それどころか、世界的な水研究は欧米、特に米国の科学的成果に依存している。

全世界的に見て、我々は、水関連の研究が88カ国で発表されているものの、米国と中国の2カ国だけで、2012年から2017年までに発表された論文120万本の33%を占めていることを突き止めた。

水に関する研究論文を掲載する学術誌の約70%は、米国、英国、ドイツ、オランダの4カ国を拠点としている。一方、中国を拠点とするものは2%ある。

最終的に得られた最も懸念すべき調査結果は、水の問題が非常に深刻な国で行われている訓練や研究が、あまりにも少ないということだった。それどころか、世界的な水研究は欧米、特に米国の科学的成果に依存している。

人口百万人当たりの論文の出版数で上位15カ国はいずれも、世界で最も裕福な国に属し、このことは水研究が水不足への対応として行われているのではなく、2020年には1兆米ドル規模に成長すると見られる水道・衛生業界の経済的価値ゆえに行われていることを示唆する。

どの論文をとっても、平均引用回数は2012年の22回から2017年のわずか3回へと急減している。この事実から推測されるのは、少なくとも部分的に、政府の政策に沿った論文を出版したり、または、学界において「Publish or perish(出版せよ、そうでなければ消えなさい)」という、研究成果発表に対する圧力が強まっていることにより、質の低い論文が書かれているのではないかということだ。

この圧力は、研究者が生き残る上で不可欠かもしれないが、開発の視点から見ると、ほとんど意味がない。

その一方で、水関連の研究プログラムを設けているのは、ほとんどが欧米と一部のアジアの大学だ。深刻な水不足に直面しているサハラ以南のアフリカで、水を専門とする広く認められたプログラムを提供している大学院レベルの研究機関は非常に少ない。

しかも、水問題を抱えた国から欧米の大学に留学する学生の多くは、卒業しても帰国しないため、母国は必要な専門知識を奪われてしまっている。

このように極めて有能な学生を水部門で雇用するためのインセンティブやその過程、実践により、母国は利益を得られるだろう。

大学とその教員には高度な自治が認められていることから、カリキュラムの設計や実施について幅広い協力を期待することは非現実的だが、ある程度の資料を共有するだけでも、とても有益であろう。

水研究に関して肝心なのは、多くの研究者を駆り立てている「Publish or perish」という理念よりも、特に水問題に関する教育に焦点を置く必要があり、開発途上地域における実質的な成果を優先させなければならないということだ。

私たちとしては、大学のコンソーシアムを作って、それぞれ具体的な専門知識を持つ教員を結集し、大規模な水関連の研究や授業、プログラムを提供することを提案する。

さらに、水資源研究分野への女性の参入を奨励することや、知識を必要とする実際のユーザーに対し、学術誌で研究結果や学習内容、知見を実用的に伝えるために、よりよい方法を見出すことも勧める。

教員や講義の評価は、学生が卒業後の異なる時点でプログラムの質、内容および妥当性についての評価を行い、それを含めた成果を基にして行うべきである。

水研究に関して肝心なのは、多くの研究者を駆り立てている「Publish or perish」という理念よりも、特に水問題に関する教育に焦点を置く必要があり、開発途上地域における実質的な成果を優先させなければならないということだ。

2030年を達成期限とする国連の持続可能な開発目標(SDGs)は、水の供給と衛生の改善について、野心的なターゲットを定めている。しかし、水関連のSDGsを達成するためには、学術面の欠点についての知見を活用し、今すぐにでも改革を行う必要がある。

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「水分野における高等教育:世界の現状(Higher Education in the Water Sector: A Global Overview)」と「水研究のバイオメトリクス:世界のスナップショット(Bibliometrics of Water Research: A Global Snapshot)」の2本の論文は、UNU-INWEH websiteで入手可能です。

この記事は最初にIPS Newsに掲載されました。

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