食料高騰の原因は?

2008年07月04日 ブレンダン・バレット ロイヤルメルボルン工科大学

ここ3年間で食料価格が2倍に値上がりしたことを受け、先ごろ世界銀行は、その急騰に懸念を示した。低所得国では約1億人の貧困層が、更なるしわ寄せを受けるだろうと予測している。

国連食糧農業機関(以下FAO)によると、食料不足のため海外援助を受けている国々は37カ国に及ぶ。食料品が大幅に値上がりした結果、国連世界食糧機関の運営コストは5億ドルから7億5千万ドルに跳ね上がった。

そこで、緊急かつ重要なニーズに答え、世界各地の飢餓を回避するべく、短期的な緊急援助が求められている。同時に、穀物生産を増加するための中長期的な取り組みも必要だ。

しかし、なぜ食料が高騰しているのだろうか?世界各地で起きている自然災害や、穀物のバイオ燃料化が主な原因だ。タヒチ、エジプト、コートジボアール、ブルキナファソ、カメルーン、インドネシアなどで食料高による暴動も起きている。

世界食糧機関(WFP)のジョセット・シーラン事務局長は、この複雑かつ危機的状況を、「 沈黙の津波」が押し寄せていると警鐘を鳴らした。

複雑に絡み合う原因

価格高騰が顕著なのは、穀物、油脂、乳製品だ。2007年にもっとも大きく値上がりしたのは小麦で、対前年比の上昇率は50~80%。トウモロコシも2007年2月には前年より10%値上がりしたが、その後ある程度まで下落した。大麦の価格も高騰した。

国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は、食料高騰の仕組みは複雑だと指摘する。農家が食料生産からバイオ燃料生産へ切り替えたことだけが要因ではない。原油高騰は、食料生産コストや輸送費に影響を及ぼし、自然災害やオーストラリアの干ばつなどは、食料生産に打撃を与えた。FAOは、原油高の影響による輸送費の値上がりに加え、ドル安が食料価格に影響していると指摘している。

影響は先進国にも拡大

普段から、品物の豊富なスーパーで買い物をしている先進国の人々は、食料問題を後進国の問題だと思いがちだ。確かに、値上げの影響を直接受け、食料高による暴動が相次いでいるのは後進国だ。しかし今日、世界市場はこれまで以上に複雑に絡み合っている。FAOは「市場間の相互連鎖とスピル・オーバー効果は、農作物のみでなく様々な商品や、商品と金融業界の間にも拡大している」と警鐘を鳴らす。

日本のような食料輸入国では、高騰が続く食料価格に危機感を募らせている。日本は年間、500億ドルの食料を輸入している。2006年の主な輸入品は、海産物(28%)、肉類(12.6 %)。主な輸入国は、アメリカ、中国、オーストラリアで、輸入品全体の47%を占める。

農林水産省によると、日本の食料自給率はカロリーベースで39%、食料生産率で68%。今日でこそ、懸念材料になっている食料価格だが、値上がり前には日本人消費者がこぞって世界中の品物を購入していたことは記憶に新しい。

日本で見られる兆候

近年日本でも、高騰する食料価格と食料資源の争奪戦の影響が見え始めている。特に中国との海産物をめぐる競争の激化は、価格を押し上げ、海産物の輸入に影響を与えている。2008年4月、日本のスーパーからバターが消えた。牛に与える飼料の高騰と、2年前に牛乳の過剰供給が需要縮小を招いた経験から、乳製品生産者が生産を自粛したことが、バター不足と値上がりの原因となっている。

2008年4月から始まったバター不足のため、日本の消費者はバターの購入を1人1箱と制限づけられている。 Nemo’s great uncle .

2008年4月から始まったバター不足のため、日本の消費者はバターの購入を1人1箱と制限づけられている。Nemo’s great uncle.

丸紅経済研究所の柴田明夫氏は「今後日本人は、これまで享受してきた良質で安価な食料品を購入することができなくなるだろう」と述べている。「ここ数ヶ月間のうちに、価格高騰のさまざまな影響が見られるようになるだろう。」

先進国も食料高騰の影響を免れることはできなくなった。世界的な食料不足のため、食をめぐる環境は不安定で、急激な変化が起こることも十分あり得るのだ。

私たちにできること

世界通貨基金(IMF)のドミニック・ストラスカーン氏は、食料高騰の問題には包括的なアプローチが必要だと提言している。まず第一に、WFPへの資金提供を増額し、世界各地の貧困層に食料支援をすることが先決だ。国連も後進国の農業従事者たちに直接援助を行っている。

ニューヨーク大学のアレックス・エバンズ氏は、次のように論じている。「まず、我々が直面している選択肢の特性を明らかにする必要がある。食料政策で何を優先するのか―消費者のための価格競争、供給の安全性、環境保全、地産地消など―の条件次第だ。そしてそこには、21世紀の食料政策を決める“私達”とは一体だれなのか、誰が選択権を握っているのか、という疑問が生まれる。」

さらにエバンズ氏は、「食料政策の決定権が我々にあるという現実を再認識することは、重要なスタートであり、“食料デモクラシー”は“食料安全保障”よりも現実的な枠組みで、政策の選択肢やアプローチに有効だ。」と語っている。

今後、長いスパンでは様々な変化が起きることが予想される。政府の助成制度や生産方法の改善などを通じて、農業政策は後進国の地産地消を支援していく形へと移行する可能性もある。

バイオ燃料の促進についても慎重なアプローチが必要だが、いずれにせよ、解決の糸口をみつけるのは容易ではない。

理解を深める

私たちは現状に甘んじることなく、これを機会に、世界の食料危機について、また食料危機と気候変動、人口増大、石油ピークなどの諸問題との関連性について、知識を深めるべきであろう。国際社会に忍び寄る食料高騰は、何十年も前から予測されていた問題で、今後も新たな展開が予想される。

食料危機の根本的問題は何なのか、私たちの生活にどのように影響するのか、じっくり考えることが重要だ。

関連サイト

The Food and Agricultural Organizations – World Food Situation
The Financial Times – Why are food prices rising?
The BBC Cost of Food
Reuters – Global Coverage of Food Price Inflation

Creative Commons License
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著者

ブレンダン・バレット

ロイヤルメルボルン工科大学

ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。