ブレンダン・バレット
ロイヤルメルボルン工科大学ブレンダン・バレットは、東京にある国連大学サステイナビリティ高等研究所の客員研究員であり、ロイヤルメルボルン工科大学 (RMIT) の特別研究員である。民間部門、大学・研究機関、国際機関での職歴がある。ウェブと情報テクノロジーを駆使し、環境と人間安全保障の問題に関する情報伝達や講義、また研究をおこなっている。RMITに加わる前は、国連機関である国連環境計画と国連大学で、約20年にわたり勤務した。
狭く雑然とした秋葉原(東京の電気店街)のオフィスでは、セカンドハーベスト・ジャパンのチームが、寄せられた不要な食料を国内の福祉団体や個人に郵送するため懸命に働いている。
日本の食品廃棄物の量は、他の裕福な国々同様、嘆かわしい現状だ。毎年、食料の3分の1、つまり2000万トンの食料が食べられずに廃棄されている。理由は様々であるが産業上の食料供給プロセスも原因のひとつだ。多くは腐敗したものだが、そのうち500万から900万トンは販売業者や小売店が、まだ充分食べられるにも関わらず、販売しないことにした食料だ。食品産業における「食品ロス」とは販売可能な食料の販売をあきらめるというビジネス上の決断を指す。
セカンドハーベストの勤勉なスタッフやボランティア人員は、企業との協力関係のもとに、得られた多くの食料を、孤児院、高齢者、母子家庭、移住労働者などに届けるため仕分けにいそしんでいるのである。
助けを必要としている人々はセカンドハーベストのマークをつけたトラックを見て、安堵と感謝の気持ちに満たされる。ほんの短い間でも「次の食事はどうしよう」という悩みから解放されるからだ。
日本では新しい取り組み
多くの人々は幸運なことに、次の食事の心配などせずに済んでいる。しかし、セカンドハーベストの理事長チャールズ・マクジルトン氏によれば日本でもその心配を抱える人の数は増加傾向にあるという。
2000年に設立されたセカンドハーベストは(元の名称は「Food Bank Japan」)、上野公園で毎週土曜に約700人のホームレスの人々に熱い食事を提供するため炊き出しを行っていることで有名である。しかし、この分野で18年もの経験を持つマクジルトン氏に言わせれば、上野での活動は事業のほんの一部に過ぎない。
「日本には貧困ライン以下の生活をしている人口は2000万人に上ります」と彼は言う。「人口の15%ですよ」
貧困ライン以下とは、一家の平均年収の約半分(225万円、25000米ドル)で生活することを表す。マクジルトン氏によれば、日本では75万人が、食料を安定して得られていないということだ。先週、彼はセカンドハーベストの会議室で、この人数の内訳をホワイトボードに書いて説明してくれた。母子家庭(44%)、高齢者(36%)、 移住労働者(17%)、残りわずかをホームレスが占める。
「私たちはハーベストパントリーというものを運営しています」とマクジルトン氏。「約120世帯に食料を詰めた箱を送っているんです。」 通常、登録している世帯は一定期間、1ケ月に2箱受け取ることができ、必要であれば登録更新もできる。
現在のところ、日本ではこのようなサービスは非常にまれである。(例えばアメリカなどの諸外国と異なり)必要な人々に食料を配分するためのインフラが整ってはいないからだ。セカンドハーベスト以外にはごくわずかのフードバンクがあるだけだ。
フードバンク活動は好調
セカンドハーベストの主要な活動は、フードバンク活動だ。これは、食料を必要とする人々を支援するため、「食品ロス」となった多くの食料の寄付を集め、福祉施設などに届ける活動である。
この食料とは、売れ残った弁当やおにぎりのことではない、とマクジルトン氏は言う。フォトギャラリーをご覧いただくとわかるが(ページ右上の小さな黒いカメラのアイコンをクリックしてください)、多くの場合は、運送中に外箱にキズがついたものや、ラベルの記載に誤りがある食料だ。調理してから1日経った食品や、最も新鮮な時期を過ぎた生鮮食料品は毎日回収され、大急ぎで分配される。実に些細なことが原因で、食品が販売には不適切との烙印を押される場合がある。
マクジルトン氏が指摘するには、食品ロスの大きな原因は、日本の消費者の要求レベルが高いことである。食品産業は「3つのP」の期待に応えなければならない。3つのPとは「perfect(完璧)、pristine(無キズ)、pretty(美しい)」を指す。
消費者は数多くの食品スキャンダルのせいで懐疑的になっており、賞味期限には殊に目を光らせている。彼が言うには、例えばクリスマスケーキや、その他クリスマス商品は12月26日には商品の棚から下ろされる。北米のボクシングデイのバーゲンのように、値下げして売り出すことはしない。商品の安っぽいイメージを植えつけたくないからだ。
こうして日本の生産者は製品の品質には神経を尖らせており、なんらかの欠点があれば、消費者による不買運動へと発展しないように、即回収してしまう。
マグジルトン氏が言うには、日本の食品会社の幹部職員たちは、食料を無駄にすることに罪悪感を抱いているそうだ。重大な転機をもたらした、イギリスの作家 トリストラム・スチュアート氏による『「Waste』」(浪費)という本は、イギリスの食品関係者の同様の感情を描いている。では、その対策は?セカンドハーベストとの提携は、当然の回答だった。
「昨年は、企業が食料廃棄にかける費用のうち、年間8500万円(930,000 米ドル)を節約した」とマクジルトン氏は報告している。
より多くの食品会社に対し、フードバンクへの食料提供が互いの利益になることを知らしめる必要がある。セカンドハーベスト職員は活動擁護プログラムのひとつとして、多くの公演を行っている。また食品会社の代表者たちを含む諮問機関も作った。
「食品ロス問題に対して、情報を共有し、アイディアを試すには最高の場です」とマクジルトンは言う。
食品廃棄問題への真剣な取り組み
日本政府もこの問題の対応に真剣に取り組むようになってきている。2001年に食品リサイクル法が施行され、コンポスト(温室効果ガスであるメタンガスの削減につながる)など食品廃棄物の利用のイニシアティブが結成されたが、廃棄物発生量はほとんど減少していない。
農林水産省は現状をよりよく理解しようと、食品ロスについての調査を行った。マクジルトン氏もこれに参加している。
日本の食品ロスの多さは、食料自給率が他の先進諸国と比べ極めて低いことが原因のひとつであることは、農林水産省もすでに承知していた。60%もの食料を輸入に頼る現状では、その過程でロスが発生しやすいのである。
農林水産省による、日本の食の安定をはかるため食習慣の改善を目指したキャンペーンのおかげで、食品ロスを削減するという嬉しい副作用も発生するかもしれない。
私たちにできることは?
賑やかな年末年始は、恵まれない人々のことについても考えてみる良い機会だ。直接セカンドハーベストの師走の募金キャンペーンに寄付を届けてはどうだろう?あるいは地元のフードバンクや炊き出しでボランティア活動を行っては?どんなにささやかな支援でも、深く感謝されるに違いない。
考慮すべきより大きな問題もある。「誰も消費者には言わないが、このシステムを作っているのはあなた自身なのですよ」マクジルトン氏は言う。
確かに、日本のシステムが大量の食料を廃棄するモンスターと化したのは、私たち自身の責任なのである。
翻訳:石原明子
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